愛撫
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
愛撫(あいぶ)とは、「愛でながら撫でる」こと。通俗的には性行為時において手などを使って撫で回す行為もこのように呼ばれる。
目次 |
[編集] 概要
性的な意味を含まない意味では、愛でる対象が広範囲に及び、ペット・物品・人間を含む動植物に対する愛好の表現とされるが、性的な意味を含む場合には、主に愛欲における表現とされ、多くの場合には同種生物(人間なら人間の)の異性、稀に同性、更には前出のペット・物品・同種生物を除く動植物に及ぶ場合もあるが、物品や同種生物以外の動植物に対しての性的な意味を持つ愛撫の場合は、所謂フェティシズムの範疇と呼べるだろう。
愛撫とは、接触することで、相手に愛情を示すコミュニケーション様式上では比較的原初的な行為であるため、特に性的な意味を含む物では、性的興奮を催させる物とされる。
[編集] 触るという意味
ハリー・フレデリック・ハーロウは生まれて間もないアカゲザルの子供を母猿から引き離し、針金と授乳器から成る「手触りは悪いが、機能的な母親」モデルと、毛布が巻いてあるがミルクは出てこない「手触りが良いが、機能的ではない母親」モデルという、二つの対照的なモデルを宛がって、このアカゲザルの行動を観察した。 小猿は腹が空くまで毛布を巻いた「手触りが良いが、機能的ではない母親」モデルにしがみ付き、どうしても空腹が我慢できなくなると「手触りは悪いが、機能的な母親」モデルの与えるミルクを飲んだとされる。
この実験では、小猿は手触りの良い物を、より長く触っていたいとする欲求があると見る事ができよう。これが「母親から離された事によるショック(寂しさ)から、母親により近い暖かさを与えてくれる物にしがみ付きたかった」のか、それとも「アカゲザルは毛布が大好き」と解釈するかで意見の分かれる所であるが、いずれにせよ触るという行為によって、安心なり幸福感(充足)を得ていたと考えられる。
触るという行為は、触る対象無しには成立し得ないが、触る事で対象に何かを伝えることも可能である。この原始的コミュニケーション様式では、触り方でも様々な意思伝達が可能であろう。単に触るのか、撫で回すのか、揉むのか、擦るのか、または摘んで引っ張ったり、引っ叩いたり、鷲掴みにしたり、爪を立てたりと、様々な段階によって、相手に与え得る影響が違ってくる。
同じ引っ叩くにしても、横頬を張り飛ばすのと、尻を叩く(スパンキング)では、非常に意味が違ってくる。同じ場所を触るにせよ、やはり触り方如何でその影響は大きく異なる。睾丸を優しく揉むのと、強く握り締めて引っ張り回すのでは、それを受ける側には天国と地獄程の違いがある。相手にどんな感情を伝えたいかで、どう触れるべきかは、自ずと変わってくる。
なお人間同士の愛撫では、特に手や口(唇・舌)が活用されるが、これらは人間にあっては、特に皮膚触覚に優れた部位である。これはより精密に触る事で、愛撫をより的確に行う必要があるためと思われるが、その一方で、より多くの「触った感じ」を得ようという考えの顕れであろう。
[編集] 愛撫の様式
人間に限らず、多くの動物では、愛情を示す上で、接触による意思表現を行う物は多い。特に性的興奮を求めての愛撫では、触る側・触られる側双方に性的興奮を催させるが、これは双方が同意している場合に限り有効なのであって、一方的な愛撫行為で相手が不快感を催している場合は、虐待にもなりかねない。
その一方で、人間の主観では非常に乱暴とも映る方法で愛撫する様式も、地球上の動物における生活の観察によって確認されている。愛撫とは、双方の感情や興奮を喚起するための儀式とも言える。
[編集] 動物に於ける愛撫の例
動物の中には、求愛行動や繁殖行為の中で、愛撫と見られる行動を見せる物がある。
- ネコ
- ネコはよくよく観察すると、実に全身を使って様々な様式の行動を見せるが、愛好対象にしばしば、全身を擦り付ける行動を見せる事がある。これは耳の後ろにある腺で匂いを付けて、所有権を主張していると言われる。猫のマーキング行動にはこの他にも尿を掛けるなどの行動が見られるが、この全身を擦り付けるマーキングでは、ネコ自身がマタタビ陶酔時同様に、恍惚としながら擦り付けている事から、何等かの興奮を得ている物と推察される。中には尾まで使って絡み付く様式も見られ、この行為を通して擦り付ける対象に、何等かのアピールを行っているものと思われる。一方、ネコの繁殖活動中において、オスネコがメスネコの首筋に強く噛み付く行動を見せるが、これによってメスネコが交尾の体制に入る行動が観察される。これはネコの繁殖活動(性行為)に伴う、意思伝達を目的とした、一種の愛撫様式と考えられるだろう。
- ボノボ
- ボノボは、高度に洗練された性的な様式をもつ事で知られる類人猿である。この動物は、性交を単に繁殖のためだけではなく、コミュニケーション手段としても活用する事が知られているが、性行為の最中にメスがオスの睾丸を愛撫する様子が観察されている。またオス同士・メス同士で尻や性器を接触させあう・または性器を愛撫する行動様式もあり、これによって彼等の社会に於ける友好的な挨拶としている様子も観察されている。現在の所は研究の途中ではあるが、人間のそれに近しいボノボの性的な意味を持つ愛撫は、原始社会の人類に通じる物があるのかもしれないと考えられている。またチンパンジーでは挨拶(または謝罪)の一環で接吻する事が知られているが、このボノボに至っては、より濃厚(フレンチキスとも形容される)な接吻をする行動も確認されており、これらも原始人間社会のありようを示唆する物ではないか?ともされている。
- ハイエナ
- ハイエナは群れで生活しているが、群れの中でお互いを認識し、好意的な意思を持って接する場合に、相互のペニスを舐め合う習性がある。ペニスは有性生殖を行う哺乳類では通常、オスのみにある器官であるが、ハイエナの場合は例外的に、メスにもペニス状の突起した器官が存在し、これを舐め合うことで、オスメスの区別無く友好関係を築いているとされている。
この他にも、相互に毛繕いしたり抱き合ったり、体を擦りつけあって愛撫し合う動物は多い。ただし大型動物間の愛撫では、非常に力が強い事もあり、動物園等に於いて、飼育係を愛撫しようとした動物が、力余って飼育係を負傷させるケースも見られる。
[編集] 人間が動物(ペット・家畜など)に行う愛撫の例
これらには通常、性的な意味は含まれない。
- ウマ
- ウマは訓練次第で、よく人に慣れる動物であるが、ブラッシングによって特にコミュニケーションを図ることが可能である。ブラッシング行為を通して信頼関係を築く事もできるが、その一方でウマは非常に神経質であるため、後ろから近付いたりして脅かすと、蹴ったり噛んだりする事がある。ウマをブラッシングや触れることで愛玩する場合は、ウマが警戒心を強めなくて済むよう、顔の正面から近付くのが良いとされる。ただしウマと顔見知りでない内から不用意に近付くと、噛まれる事もある。なお横から近付いても、ウマは敏感に音を聞いて、そちらの方向を向くので、小さな声でウマの注意を引いて近付くと良いとされる。乗り降りする際は、首筋や鼻面を撫で回して愛撫すると、ウマは喜ぶとされる。
- イヌ
- イヌはコミュニケーションが好きな動物とされている。人間がイヌとコミュニケーションを図る場合、イヌをブラッシングする行為が挙げられる。多くのイヌは、背筋をブラッシングする事をとてもよく好み、特に信頼関係が成立している場合には、本能的に庇おうとする腹をブラッシングして貰おうと、イヌは仰向けになり、腹を触られる事を好む。首筋も咽喉側をイヌが触らせた場合は、非常に懐いているとされる。通常、イヌは狩りをする際に、咽喉元に噛み付く習性があるが、同時にイヌにとっての弱点ともされる。咽喉を触らせるイヌは、触らせている相手に、命を預けているというもので、いわば“服従”の姿勢。このようにイヌを愛玩する過程で、ブラッシングしたり撫でて楽しむ事が出来る。
- ネコ
- ネコは背を撫でられる事を事の他喜び、また咽喉をくすぐられる事も好むとされる。イヌのようにコミュニケーションが図れる訳ではないが、多くのネコは背を撫でられたり咽喉をくすぐられると、大抵はおとなしく、されるがままになるようだ。ただし腹を触られると非常に嫌がり、暴れるネコも多々見られる。ネコ科の動物は狩りの際に、仕留めて絶命させた獲物の腹から食べる習性があるが、この辺りに起因すると見る人もある。ただし良く慣れたネコの中には、腹を触られる事を厭わないネコもある。しかしこれは、誰が触っても厭わないネコの話なので、単純にそういう趣味だというだけのようだ。そのような場合に限り、ネコを撫で回して楽しむ事が可能である。
- ハムスター
- ハムスターでも、よく慣れた個体の場合、人の掌に乗る事を好む物がある。この場合、背を撫でてもおとなしくしているとされ、掌に乗る事が何等かの楽しみになっていると思われる。ただし慣らす過程でオヤツを与えたりといった訓練が必要であるため、単純に食欲との条件付けが行われている可能性もある。この場合、手乗りハムスターを指先で撫でて愛撫する事が可能である。
[編集] 人間に於ける愛撫の例
人間間に於いて愛撫は特別な意味を持つ。人間は通常、言葉によって意思を疎通し合う事が可能だが、性的な意味を含まない愛撫によって、強く感情を伝えることができる。これら性的な意味を持たない愛撫では、以下の行動様式が挙げられる。
- 頭を撫でる
- 顔(頬)を撫でる
- 抱き締める
- 手や頬などにキスをする
- 手を握り合う(握手は含まない 指を絡ませるもの)
[編集] 性的な愛撫の例
- 性的興奮を喚起させるもの
- キスをする
- 抱き締め、背や肩を強く圧迫する(掴む・押さえる)
- 背に沿って指を這わせる
- 髪の毛に触れる
- 髪に指を滑らせる
- 首筋や肩を撫でる(肌が露出している場合)
- 掌に指を這わせる
- 指を舐める・咥える(軽く噛む)
- 性的興奮を高めるもの
- 首筋から耳の後ろまで唇を這わせる
- 長く濃厚なキスをする(ディープキス)
- お互いの唇を舐める・舌を絡ませる
- 唇に軽く噛み付く
- 相手の口の中に舌を入れ、舌や歯・上顎に触れる→
- 服の上から尻を揉む(意外かも知れないが、男女兼用である)
- 脇腹から腋下までを撫で上げる
- 行為を進むに従って、着ている服の一枚ずつ下へ手を入れて同上→
- 胸元から腹・股へと手を撫で上げる
- 行為を進むに従って、胸・性器に触れながら上着を着衣している状態から一枚ずつ脱がせて、徐々に下着姿へと変化させつつ、衣類越しで感触を楽しむ。肌が露出した部分は、露出次第、撫でる・口付けする。→
- 胸に触れる(服の上から、上着を着衣している状態から脱がせて下着姿(上半身下着を着衣していない場合は上半身裸)へと変化させつつ手触りを楽しんで、下着の種類によっては下着の中へも手を入れて)。口づけはまだ先
- 男性に対しては、胸全体を掌や指、乳房で撫で回し、腋方面も撫で、時々は乳首の辺りも指や乳首で撫で回す
- 女性に対しては、乳房周辺から掌や指先で撫で回し、乳首に到る→
- 性器に触れる・掌でゆっくり軽く摩擦する(服の上から、上着を穿いている状態から脱がせて下着姿へと変化させつつ、手触りを楽しんで、下着の種類によっては下着の中へも手を入れて(男女兼用))
- 男性に対しては、手で包んで下から指先で持ち上げるように・睾丸も下から手で包み込むと良い。また、乳房で下着越しに性器を摩擦する
- 女性に対しては、掌で包み込むように行う、強く揉むのはまだ先
- お互いの性器を衣類越し(始めは上着越しだが、脱ぐにつれて下着越し)で密着させ、圧迫・摩擦する。下半身下着を脱ぐのはまだ先→
- 胸に触れる(服の上から、上着を着衣している状態から脱がせて下着姿(上半身下着を着衣していない場合は上半身裸)へと変化させつつ手触りを楽しんで、下着の種類によっては下着の中へも手を入れて)。口づけはまだ先
- 軽く性感を感じさせるもの
- 上半身下着を脱がし、全身を撫でる・口付けする。
- 下半身下着を脱がし、性器に軽く触れ、下から上に中央をなぞるように触れてみる
- 男性に対しては、睾丸の肛門側付け根に、中指や薬指先端を当てた格好で包み込んで、ゆっくり前面に指を滑らせ、睾丸から陰茎下面を先端に到るまで指を滑らせる・睾丸を優しく揉んでみる・陰茎を軽く握ってみる・左右の乳房の間に陰茎を挟み込むといった触り方がある(余り強く握ると痛いので注意)
- 女性に対しては、大陰唇割れ目の肛門側の始まり(肛門に触れてはいけない)に中指を宛がって、掌で大陰唇全体を包み込むようにして、割れ目に指を滑らせていったり、大陰唇の両脇を人差し指と薬指を滑らせたり押してみる・大陰唇全体を掌を使って軽く揉んでみる、割れ目をなぞり上げてへそに到るなどの触り方がある。分泌液で性器が濡れ始めていたら、大陰唇を左右に広げて小陰唇を中指の腹で擦っても良いが、乾いた指で柔らかい所や陰核を摩擦しない方がよいとされる→
- 性器にキスをしてみる(人によっては生理的嫌悪感から逆効果になる場合もある)
- 軽く性感を感じさせた後は性感を強く感じさせるための行為に移るので前戯を参照されたし。
これらの行為は、相手によって、また行使する人間への評価によって結果が左右される。特に一定の行為以上を許していない相手に対してや、相手が欲している行為の段階を略して先の段階を行った場合、不快感を煽る場合も考えられる。また、ある程度性的興奮がないと意味が無い行為も少なからずある。あくまでもコミュニケーション手段の方法である以上、相手が望んでいない行為や、また手抜きは、それ相応の結果に到る事を理解した上で、進行には注意すべきかと思われる。(マニュアル主義で通り一辺倒なのも困るが)
また行為が単調に成らないよう、各段階で幾つかの行為を織り交ぜながら、次第に力強く・または大きく撫で回すようにすべきかと思われ、また服を脱がせる行為に発展させる場合は、順序だって脱がせる訳だが、興奮が冷めないよう、脱がせながら愛撫を行ったり、途中で脱がせる行為を愛撫で中断させつつ進むという方法もある。
ただし脱がせないで愛撫に夢中になりすぎて、脱がせるタイミングを逸するケースも見られるため、最初はお互いに言葉で確認しつつ、試行錯誤による技術向上が勧められる。なお一方的に相手ばかり脱がすと、自分が脱ぐ段階で相手が白ける場合もあるため、一方的に尽くして愛撫する場合でも、お互いに同時進行で脱ぐ位の器用さが要求される。初めの内はお互いに薄着の状態(下着姿や水着姿、浴衣姿、バスローブ姿など)から始め(始める時点で男性が上半身裸の場合、先に女性の上半身下着や水着(トップ)を脱がせ女性も上半身裸にさせた後、下半身はお互いに同時進行で脱いでいく)、慣れてくれば上着を着た状態から始めると良いと考えられる。
たまに前段階の行為を織り交ぜると良いとされ、全身くまなく愛撫しても良いが、その一方で個人的な好みから局所だけを集中的に攻める方法もある。しかし一箇所だけを弄り回す行為は、余程性感が高まっている時以外では、双方に飽きが来るので勧められない。
[編集] 特殊なケース
なお、上記は全て一般論的な立場に立った上での愛撫であるが、人間の性的嗜好が多種多様である以上、上記とは全く異なる愛撫の様式があるのも否めない。
中には、紐で縛られたり叩かれたりする事で性的興奮を得る人もあるし、いきなり性器を乱暴に扱われたいというケースもある。その一方で、ただ見られているだけで良いという人もあれば、素肌に触れられるだけで鳥肌立つほどに不快感を募らせる人もある。
これらは特殊なケースではあるが、全ての人に千差万別な個性がある以上、何を持って正常か・異常かと述べることは難しい。特に性癖に到っては、他人との比較は難しく、また正常と異常の境界などは在って無きが如しであるため、全てのケースが異常であって、また同時に正常たりえる。
愛撫がコミュニケーション手段である以上、相手に自分が望む愛撫の様式をきちんと知ってもらった上で、相互に満足できる愛撫の様式を確立する事が勧められる。