障害者
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障害者(しょうがいしゃ)・障害児(しょうがいじ)とは、なんらかの発達上の障害、行動、感情のコントロールを含めて身体的な機能不全、生活上の行動の規制を伴うような障害を持っている人をいう。「障害者」という用字についてはさまざまな議論がある(後述の「表記」を参照)。
障害の分類とアプローチについてはリハビリテーションを参照。
目次 |
[編集] 日本における障害者施策
[編集] 概要
[編集] 戦前の状況
- 戦前の日本では、公的な障害者施策は、ほとんど行われることがなかった。
- もっとも、古来の日本の神道では、何か特別な能力を持った対象として、障害者を畏敬したという。例えば、日本神話で、伊弉諾(いざなぎ)と伊弉冉(いざなみ)の2神の間に生まれた最初の子供である蛭子(ひるこ、ひるのことも呼ばれる)は、3歳になっても足が立たず舟に乗せられて海に捨てられたとされるが、中世以後になって、これを恵比寿(えびす)と呼んで信仰に結びついたとされる。また、障害者の中には、神職など祭儀を司る役割を担ってきた者もいたという。例えば、片目片足伝承と結びついたひょっとこ(火男)は、日本神話(古事記)に登場する天目一箇神(あめのまひとつのかみ、天目一箇命(あめのまひとつのみこと)ともいう)をはじめとする鍛冶神の本尊が、火を吹く口の形を現したものとして伝えられている。
- 江戸時代には、幼少期に視力を喪失しながら、国学者として、その能力を存分に発揮した実在の人物(塙保己一)も存在する。
- 以上のような歴史的な記録から、障害者に対して差別的な見方がされるようになったのは、近代以降であるとする見解がある。
- いずれにせよ近代以降には、産業化・効率性が重視されるようになり、明治政府による富国強兵政策の下、障害者は「能力を持たない、不能」者(英語の”disability”)として、差別され、また社会から隔絶されるようになったとされる。
[編集] 戦後の状況
- 太平洋戦争を経た戦後、1947年に制定された日本国憲法の下での現代社会においては、社会福祉の理念が重視されるようになった。これを受けて、障害者を「援助」する施策が制定されるようになった。1947年には、戦争中に両親を亡くした戦災孤児への対策なども目的として児童福祉法が、1949年には、戦争によって障害を負った元日本軍兵士への対策なども目的として身体障害者福祉法が、1950年に精神衛生法(現在の精神保健福祉法)が、1960年に知的障害者福祉法が、相次いで制定された。
- さらに、1970年に、基本法として、障害者基本法が制定された。この法律で、「障害者」とは、「身体障害、知的障害又は精神障害があるため、継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける者」であると定義された。
- 他方、日本国憲法下でも、優生学を背景にして1948年に制定された優生保護法において、「不良な子孫の出生防止」を目的とした中絶が法的に認められていた。この規定に対して、障害者排除の思想のあらわれであるとの批判があった。そこで、1996年に、優生保護法は、母体保護法に名称が変わり、不良な子孫の出生防止という目的や、それによる中絶を認める規定は削除された[1]。
- 近時、障害者に対する援助という視点に加えて、障害者の自己決定権尊重と社会参加の促進という視点が、より重視されるようになっている(ノーマライゼーション参照)。他方、従来の障害者支援策は、身体障害者と知的障害者に偏り、精神障害者および知的障害を伴わない高機能自閉症やアスペルガー症候群などの発達障害者に対する支援が立ち後れているという問題が、当事者や専門家の間で指摘されてきた。
[編集] 21世紀の施策
- これまでの指摘を受けて、2004年に発達障害者支援法が新たに制定され、自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害などの発達障害者に対する支援策が、法的にも打ち出されることになった。また、2006年から、新たに、従来は対象外とされてきた精神障害者も、障害者雇用枠の対象者となるなど、徐々に対策が広がっている。
- 2005年、これまで別個の法制度で行われてきた障害者支援策を、統一的に行うなどの目的から、障害者自立支援法があらたに制定された。この法律の目的は、文言上、「障害の有無にかかわらず国民が相互に人格と個性を尊重し安心して暮らすことのできる地域社会の実現」(1条)にある。しかし、現実には、障害者を「サービスの消費者」と位置づけ、サービスに対する適正な自己責任(自己負担)という名の下で、日本の財政事情の悪化を改善するために、税金でまかなわれる財政負担を減らすという目的が背後にあることは否定できない。このため、障害者自立支援法が一部を除いて施行された2006年4月1日以降、障害者がそれまで受けてきた医療・福祉サービスに対する自己負担額が急増し、一部の障害者は、法制定前に受けられていたサービスを、経済的な限界によって受けられなくなるなどの問題が生じている。報道機関も特番でこの問題を報道するなど、さらに法改正も含めた対応策が必要ではないかとも指摘されているが、日本の厳しい財政事情や、自己責任が強調される近時の社会風土の変化の中で、難しい課題も多く残されている。(詳細については、「障害者自立支援法#問題点:障害者自立支援法による福祉現場への影響-06年9月時点-」を参照)
- 2006年には千葉県で全国初の障害者差別をなくすための条例である「障害のある人もない人も共に暮らしやすい千葉県づくり条例」を制定した。
[編集] 学校での障害児教育
障害児については、学校教育法のなかで、障害児の定義があるが、1947年にできた法文のまま、50年以上改正されなかった。重度障害児は就学を希望しても就学猶予・就学免除により排除された。1979年には養護学校が義務化され、地域の小学校・中学校に通っていた障害児も反対がなければ分離された。養護学校の設立当初は機能訓練が中心で、現在の養護学校とは様相が異なった。
2000年に一部改正がなされたが、聾児、盲児、肢体不自由児、知的障害児、病弱児について規定されているだけで、情緒障害児、唖児、更には新しい学習障害(LD)児、健康障害児、コミュニケーション障害児などについては、一切出てこない。
近年の学校教育では、障害児を主としてコミュニケーションの面からみているが、精神科医は、それをどのような症状、兆候を見せるかというところから、診断、判断するため、障害児・障害者の分類は、かなり違ったものになる。
[編集] 障害者雇用政策
障害者の雇用については、「障害者の雇用の促進等に関する法律」(障害者雇用促進法)によって、一定規模以上の事業主は、障害者を一定割合以上雇用すべき法律上の義務を負う。これを障害者雇用(法定雇用)といい、その割合を、障害者雇用率(法定雇用率)という。その率は、
※重度身体障害者及び重度知的障害者については、1人の雇用をもって、2人の身体障害者又は知的障害者を雇用しているものとみなされる。 ※2006年4月1日施行の法改正によって、精神障害者も、法定雇用の対象となった。
実際には、障害者が就業することの困難な職種(鉄道・バスの運転士、大型トラックなどの運転手や教職員など)もあるために、業種毎に除外率が決められているが、最終的には次のような職種を除いて廃止の予定。
- 警察官
- 自衛官並びに防衛大学校及び防衛医科大学校の学生
- 皇宮護衛官
- 刑務官
- 入国警備官
- 密輸出入の取締りを職務とする者
- 麻薬取締官及び麻薬取締員
- 海上保安官、海上保安官補並びに海上保安大学校及び海上保安学校の学生及び生徒
- 消防吏員及び消防団員
障害者雇用促進法第45条では、一定の要件を備えた子会社について障害者雇用率の算定で親会社の雇用とみなす制度を設けている。これが特例子会社制度である。
[編集] 表記
[編集] 日本
「障害」、「障礙」はいずれも当用漢字制定前から同じ意味の熟語として漢和辞典に掲載されており、「障害」という表記は「礙」を同音の「害」に単純に置き換えて戦後に造語されたものではない。なお、「碍」は「礙」の俗字であるため「障碍」を掲載しない漢和辞典もある。
近年、「害」の字が入っているのは害のある人と受け取られる可能性があるため好ましくないとして、障碍者・障碍児と書いたり、交ぜ書きで障がい者・障がい児と表記を変更する動きがあり、近時の役所や公的文書、また公共性の高い民間企業である携帯電話会社が発行するパンフレットに記載の「障がい者」を対象にした基本使用料金等の割引案内などのように「障がい者」と標記されることが増えてきた。あるいは障害を受けているとして、「障害」者と書いたり、英語の身障(Disabled)の同義語であるChallenged(障害)をそのまま真似て「チャレンジド」といったりもする。同じ理由で、身体の障害を持った場合に限り身障者と書くべきという意見もある。
また最近では、写真家の武壮隆志は、障害児との関わりの中で、マイナス的に捉えられやすい世間一般のイメージを、積極的にプラス方向へ変えるために、自ら「カウボーイチルドレン」という表現を提唱している。
「障害」の表記は1949年の身体障害者福祉法の制定を機に一般的に使われるようになった。「礙(碍)」が当用漢字の使用制限によって法律では使えなくなったことにより、「障礙」と意味が同じ「障害」という語が採用されたためである。昨今の常用漢字の使用制限の緩和傾向に合わせて(常用漢字では使用制限はない)「碍」が使えるようにすることで「害」という文字の持つマイナスイメージの解消を図るべき、との主張もある。
障害者でない者は健常者・健全者などと呼ぶ。最近は障害を持っている人であっても「常に健康である」ので、日本の報道機関でも「障害を持つ人」という表現が散見されるようになった。
ただし日本障害者協議会や日本障害者スポーツ協会など、大小問わず一貫して障害者という表記のままである団体も少なくない。
[編集] アメリカ
アメリカでは、disabledという表現が「できない」を強調しすぎる向きがあるということで、たとえば、障害児をchildren with special health (care) needsといった表現に言い換えようという機運が強まり、公文書にもこの表現が使われ始めている。障害よりも、人間の人格、名前を先に持ってくるということで、「ピープル・ファースト」と呼ばれる。同じ名前の障害者の権利擁護団体もある。これから派生して、英語圏で、知的障害児のことを「Special Needs Children」と呼ぶ場合も多い。
「ピープル・ファースト」の考えから、いわゆる「障害者」は、persons with disabilities(障害を持つ人々)という表現が非常に多く用いられ、アメリカではこれが Politically correct(差別的ではなく、公正なこと)とされ、「健常者」は persons without disabilities(障害を持たない人々)と表現される。people ではなく persons を用いるのは、一人ひとりの存在を尊重する考えから出ている。
日本でよく言われる「ハンディキャップ」は、英語圏でもよく使われる表現であるが、本来の語源[1]とは別に、民間語源によって「物乞いをする人が手にキャップ(帽子)を乗せている状態」を表すとされ[2]、「障害を持つ人を表現するには非常に差別的」であると誤解されることが多く、英語圏で使用を避けられる状況が出現しつつある。
[編集] 資料
理由 | 1991 | 1996 | 2001 | |||
---|---|---|---|---|---|---|
実数 | 比率 | 実数 | 比率 | 実数 | 比率 | |
視覚障害 | 353,000 | 13.0% | 305,000 | 10.4% | 301,000 | 9.3% |
聴覚言語障害 | 358,000 | 13.2% | 350,000 | 11.9% | 346,000 | 10.7% |
肢体不自由 | 1,553,000 | 57.1% | 1,657,000 | 56.5% | 1,749,000 | 53.9% |
内部障害 | 458,000 | 16.8 | 621,000 | 21.2% | 849,000 | 26.2% |
重複障害(再掲) | 121,000 | 4.4% | 179,000 | 6.1% | 175,000 | 5.4% |
総数 | 2,843,000 | 3,112,000 | 3,420,000 |
[編集] 脚注
- ^ 現実には、法改正後も、出生前診断によって、障害児の誕生が予想されて中絶される例が後を絶たないとされる(事柄の性質上、正式な統計資料はなく、実態は不明な点が多い)。このような中絶を正当化する根拠として、「障害がある子供を養育する負担は、普通の子供よりも大きい」という親の意向を尊重して、法律上認められている「経済上の困難」に含まれるとする見解もある。しかし、そのような解釈が法律上が可能か問題があるともに、そのような診断を行うことや、親の意向そのもの(五体満足で知的な障害もない子供を欲しがる親の願望を「パーフェクトベビー願望」と呼称する)に対する、倫理的・道義的な批判もあり、議論は尽きない。
[編集] 関連項目
- 福祉
- 障害者解放運動 - ピープル・ファースト
- 障害者基本法 - 障害を持つアメリカ人法
- 知的障害 - 特殊学級 - 発達支援教育 - 養護学校 - 発達検査 - 知能検査 - スペシャル・オリンピックス - 療育手帳
- 精神障害者 - 精神科
- 統合教育(インクルージョン)
- 身体障害者 - パラリンピック
- 優生学 - 欠格条項
- 介護 - ノーマライゼーション - バリアフリー - 優先席
- 障害・福祉・児童関係記事一覧
- 障害を扱った作品の一覧
[編集] 外部リンク
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