新日和見主義事件

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新日和見主義事件（しんひよりみしゅぎじけん）、あるいは新日和見事件とは、1972年（昭和47年）、日本共産党により、その関連団体日本民主青年同盟（民青同盟）・全日本学生自治会総連合（全学連）・ジャパンプレスサービス・労働者教育協会・平和委員会・労組活動家の党員が摘発され、多数の党員が党及び関連組織から除名・追放された事件。

[編集] 概要

1972年5月から9月にかけて、およそ600名の党員が「査問」と称する取り調べを受け、その内約100名が除名処分となった。その他の多くの者は、批判を受け入れる形で「自己批判文」を提出したが、「事件」前に組織の要職にあったほとんどの者は「現場の一党員」として再出発することを余儀なくされた。この「事件」を原因として、共産党を離党したものも少なくない。

この「事件」は、「査問」された多くの者が、民主青年同盟や民青系全学連の活動家であった。このことは全共闘運動と対決してきた共産党系の学生運動が急進化し、場合によっては共産党中央の指導を拒否して学生・青年党員が独自の論理で運動を展開し始めたことに共産党中央指導部が強い危機感を持ったことが契機であることを示していると思われる。当時、共産党委員長だった宮本顕治は「反党分裂主義を双葉のうちに摘み取った」と語ったと言われている。

「査問」に挙げられた「罪状」は、「脱党して新組織を立ち上げようとしている疑い」あるいは「共産党の沖縄返還闘争論の理解の誤り」という理論上のものから、デッチ上げ的に「組織の金を横領した疑い」など、多岐に渡った。実際には、共産党から分裂して新勢力を立ち上げようという動きは皆無だったと思われる。しかし、この「事件」以降、共産党系の青年・学生運動は、共産党中央指導部の完全な支配下に置かれたものと考えられる。

[編集] 影響

この事件は、「処分」を受けたものの多くが党籍を残していたこともあって、その後あまり話題になることはなかった。1980年代なかばに、いわゆる「市民派」と共産党との関係が構造改革論とのかかわりをもって問われたときに、過去の事例として、かれらの主張がふりかえられたことがあった。しかし、1997年、事件発生当時、民青同盟中央常任委員であり、自身も処分を受けた川上徹がその体験を綴った『査問』を発表。また、当時民青同盟静岡県委員長で、やはり事件に連座したとして委員長を罷免された油井喜夫が、27年間の沈黙の後、1998年に日本共産党を離党の上『汚名』と『虚構』を著し、自らの体験をもとに事件及び日本共産党が行っている「査問」の実態を告発した。この結果、この事件は理論問題よりも、日本共産党の閉鎖的体質が最も顕著に現れた事件の1つであるという位置づけがされるようになった。その中で、査問期間中、査問を受ける者は一室に事実上軟禁の上、監視下に置かれるなど、結社の自由という観点を認めたにしても、甚大な人権侵害事件であったという指摘もされた。これらの批判や告発にも関わらず、日本共産党は現在に及ぶまで「査問」の存在を否定し続けている。

[編集] 参考文献

『新日和見主義批判』発行・日本共産党中央委員会出版局、発売・日本共産党中央委員会機関紙経営局 1973年 215p

川上徹『査問』筑摩書房 1997年 235頁 ISBN 4480818081
- 川上徹『査問』（ちくま文庫）筑摩書房 2001年7月 ISBN 4-480-03656-3
油井喜夫『汚名』毎日新聞社 1999年 287頁 ISBN 4620313513
油井喜夫『虚構 - 日本共産党の闇の事件』社会評論社 2000年 286頁 ISBN 4-7845-1409-0
　川上徹・大窪一志　『素描・1960年代』　同時代社　2007年　ISBN　4-88683-603-8