昭和天皇即位60年記念金貨大量偽造事件
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昭和天皇即位60年記念金貨大量偽造事件(しょうわてんのうそくい60ねんきねんきんかたいりょうぎぞうじけん)とは、1990年(平成2年)1月29日に発覚した、大量偽造金貨事件である。また偽造された枚数が10万7946枚であり額面10万円であったため107億9460万円という巨額に上り、しかも偽造した犯行グループが特定されなかった未解決の事件である。
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[編集] 昭和天皇即位60年記念金貨
1985年(昭和60年)11月18日、中曽根康弘内閣の竹下登大蔵大臣が昭和天皇の即位60年を祝うために金貨を発行する方針を発表した。この背景には次年度の財源確保のためと、貿易摩擦が深刻であったアメリカから金貨鋳造に使用する大量の金(223t)を購入することで摩擦を緩和しようとの思惑があった。そのため当局は10万円金貨、1万円銀貨、500円白銅貨を大量に発行することになり、特に10万円金貨は1000万枚と異常な大量発行であり額面だけで1兆円にも上った。しかも金貨1枚あたり金を20g使用していたが、素材の価値が1g1900円(当時)であり製造費込みでも半分以下の原価にすぎなかった。そのため5500億円が国庫に入る見込みであるとされた。なお、10万円金貨のデザインは平山郁夫氏によるもので、1986年11月10日に発行された。金貨の引き受けであるが最終的に910万枚が市中に出回った。売れ残った残りの90万枚については鋳潰されたが、翌年には「昭和62年」との銘がある金貨が100万枚製造された。
[編集] 事件の発覚
1990年1月29日、日本国内最大手の貨幣商がスイスから輸入した10万円金貨1000枚を、東京の都市銀行に預けたところ、チェックしていた銀行員がそのうち1枚の包装に違和感があることに気づいた。その為、日本銀行および警視庁科学捜査研究所で鑑定したところ預けられた1000枚すべてが偽造であることが判明した。その後の調査で偽造された金貨が2年前から日本に流入していたこと、しかも確認された偽造金貨10万7946枚のうち8万5647枚が日本銀行に還流していたことが判明した。このように大量の金貨が日本に還流していたことが不審に思われなかったのは、発行当時にくらべ為替レートが円高になっており、海外で購入した者が円高差益(額面保障のため、額面で日本に輸出しても為替差益を得られる)を狙って売り出していると見られていたからである。また偽造された金貨は本物から鋳型をとって鋳造したもので、記念金貨がほぼ純金にちかいため偽造がやりやすかったと見られる。
[編集] 事件の真相
これら大量の金貨を日本に輸出したのはスイスの貨幣商の男性であったが、その背景には国際的偽造グループが介在していたのは間違いなかった。しかし偽造グループの特定はされることはなかった。そのため犯人グループは日本円で約60億円という高額な金銭を懐に入れて消えてしまった。
証拠品の偽造金貨は表面を圧延のうえ地金として関係者に返還された。
[編集] その後の影響
その後日本で発行された記念金貨については様々な偽造防止対策がなされるようになった。また、偽造された金貨のように額面保証型から近年では、金の地金価格をはるかに超える価格で販売されるが、そのかわり額面は低くする収集型金貨の形式で発行されるようになった。