梵鐘
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梵鐘(ぼんしょう)は、インドから伝来した日本の寺院などで使用される仏教法具としての釣鐘(つりがね)。撞木(しゅもく)で撞(つ)き鳴らし、重く余韻のある響きが特徴。一般には除夜の鐘で知られる。別名に大鐘(おおがね)、洪鐘(おおがね、こうしょう)、蒲牢(ほろう)、鯨鐘(げいしょう)、巨鯨(きょげい)、華鯨(かげい)などがある。
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[編集] 概要
[編集] 歴史
梵鐘は仏教とともにインドから中国を経て日本に伝来した。「梵」は梵語(サンスクリット)の Brahma (神聖・清浄)を音訳したものである。
作られた国によって中国鐘、朝鮮鐘(高麗鐘・新羅鐘)、和鐘(日本鐘)と呼ばれる。日本への渡来は、日本書紀に大伴狭手彦(おおとものさでひこ)が562年、高句麗から日本に持ち帰ったとの記録が残っている。鐘の内側に製作年代と推定される戊戌(698年)の銘文が記載された京都・妙心寺の梵鐘(国宝)は、日本に現存する最古の梵鐘だといわれている。朝鮮鐘は日本と朝鮮半島に現存するものをあわせて100口以下しか現存せず、福井県常宮神社の鐘が最古(833年)とされている。日本の梵鐘は中国の様式を倣ったものが大半で、朝鮮鐘を倣ったものはごく例外的なものとされている。
梵鐘の主な役割は本来は法要など仏事の予鈴として撞(つ)く仏教の重要な役割を果たす。朝夕の時報(暁鐘 - ぎょうしょう、昏鐘 - こんしょう)にも用いられる。
青銅製が多いが、小型のものにはまれに鉄製もある。通常、口径1尺8寸(約54.5cm)以上のものを梵鐘と呼び、それ小型のもの(一説には直径1尺7寸以下)を半鐘(喚鐘、殿鐘)といい高い音で、用途も仏事以外に火事などの警報目的でも使われる。
響きをよくするために鋳造の際、指輪(金)をいれることがあるという。雅楽と鐘の関係を記す文献もある。
[編集] 構造
- 龍頭
- 吊すための上部の突起、フック
- 鐘身
- 龍頭をのぞく鐘の本体部分
- 撞座
- 鐘身の中央部にあり鐘をつく撞木があたる部分
[編集] 日本の著名な梵鐘
[編集] 国宝の梵鐘
- 神奈川・円覚寺
- 神奈川・建長寺
- 福井・劒神社
- 滋賀・佐川美術館
- 京都・平等院(鳳翔館・現在鐘楼に吊られている鐘は複製) - 新動植物国宝1980年シリーズとして、1980年11月25日発行の60円の普通切手のデザインにもなっている。
- 京都・妙心寺(鐘楼・徒然草に登場する)
- 京都・神護寺(非公開)
- 奈良・当麻寺(非公開)
- 奈良・東大寺(鐘楼)
- 奈良・興福寺(国宝館)
- 奈良・栄山寺(奈良県五條市)
- 福岡・観世音寺
- 福岡・西光寺
[編集] その他の著名な梵鐘
- 東京・浅草寺(弁天山) - 「花の雲 鐘は上野か浅草か」(松尾芭蕉)の句で著名。
- 滋賀・園城寺(三井寺)(鐘楼) - 「三井の晩鐘」の別名あり。音色の良さで知られ、三大梵鐘ともいわれる。
- 滋賀・園城寺(三井寺) - 通称「弁慶の引き摺り鐘」
- 京都・方広寺(鐘楼) - 銘文中の「国家安康」の句が徳川家康の豊臣への怒りを買ったとされる。
- 京都・知恩院(鐘楼)
括弧内は現在保管してある場所。
[編集] 文学の中の梵鐘
- 「祇園精舎の鐘の音、諸行無常の響きあり、沙羅双樹の花の色,盛者必衰の理をあらわす」平家物語冒頭
- 「柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺」(正岡子規の俳句)
- 「夕焼け小焼けで日が暮れて、山のお寺の鐘がなる」(童謡『夕焼け小焼け』作詞: 中村雨紅、作曲: 草川信)
[編集] 梵鐘に関わる音楽
- オーケストラと合唱のための作品だが、オーケストラで梵鐘の響きを表現しようとしている。
[編集] 鐘楼
鐘楼(しょうろう・しゅろう)は鐘突堂(かねつきどう)、釣鐘堂(つりがねどう)とも呼ばれ、梵鐘を設置して撞く専用の建造物である。
[編集] ギャラリー
戒壇院の梵鐘(福岡県太宰府市) |
篠栗霊場第四十三番札所明石寺の梵鐘 |
滋賀県 姨綺耶山 長命寺の梵鐘の音色 |
[編集] 文献
- 安倍李昌 『雅楽がわかる本』
- 浦井祥子『江戸の時刻と時の鐘』岩田書院、2002年2月、ISBN 4872942434
- 姜健栄『梵鐘をたずねて 新羅・高麗・李朝の鐘』アジアニュースセンター、1999年3月
- 姜健栄『李朝の美 仏画と梵鐘』明石書店、2001年2月、ISBN 4750313734
- 川端定三郎(編)『岡山の梵鐘』日本文教出版、1984年9月、ISBN 4821251124
- 小泉功、青木一好(共著)『大江戸・小江戸川越時の鐘ものがたり』子どもと教育社、2001年8月、ISBN 4901313045
- 坂内誠一『江戸最初の時の鐘物語』流通経済大学出版会、1999年2月、ISBN 494755312X
- 笹本正治『中世の音・近世の音 鐘の音の結ぶ世界』名著出版、1990年11月、ISBN 4626013910 / 2003年3月、ISBN 4626016693
- 坪井良平『梵鐘と考古学』ビジネス教育出版社、1989年10月、ISBN 4828308040
- 坪井良平『梵鐘と古文化』ビジネス教育出版社、1993年10月、ISBN 4828308105
- 坪井良平『梵鐘の研究』ビジネス教育出版社、1991年7月、ISBN 4828308059
- 坪井良平『永遠に生き続ける文化遺産 歴史考古学の研究』ビジネス教育出版社、1984年10月、ISBN 482838409X
- 坪井良平『忘れられた文化財を探る 梵鐘の研究』ビジネス教育出版社、ISBN 4828308059
- 奈良国立文化財研究所編『梵鐘研究資料の集大成 梵鐘実測図集成』(全二巻)、ビジネス教育出版社、ISBN 4828308679
- 長谷進『寒雉 鋳物師宮崎三代』能登中居鋳物館、2000年9月、ISBN 4833011190
- 眞鍋孝志・花房健次郎(共著)、日本古鐘研究会編『梵鐘遍歴 霊場の古鐘をたずねて』ビジネス教育出版社、2001年10月、ISBN 4828308210 / 第二刷: 2002年4月、ISBN 4828308237
- 吉村弘『大江戸時の鐘音歩記』春秋社、2002年12月、ISBN 4393934741