活動電位
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活動電位(かつどうでんい、 action potential)は、なんらかの刺激に応じて細胞膜に沿って流れる微弱な電位変化のこと。主としてナトリウムイオン、カリウムイオンのイオンチャネルを通した受動的拡散でそれらイオンの細胞内外の濃度差を変えることにより起きるものである。
活動電位は動物の本質的な必要条件であり、素早く組織間・内で情報を伝えることができる。また、動物のみならず、植物にも存在する。活動電位は様々な種類の細胞から生み出されるが、最も広範には神経系に於いて、神経細胞同士や、神経細胞から筋肉や腺などの他の体組織に情報を伝達するために使われる。
活動電位は全ての細胞で同じわけではなく、同じ種類の細胞でも細胞固体によって性質が異なることがある。例えば、筋肉は神経に次いで活動電位を発する組織として有名だが、中でも心筋活動電位は大抵の細胞間で大きく異なる。この項では神経細胞の軸索の典型的な活動電位について扱う。
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[編集] 仕組み
活動電位が発生する仕組みは以下の通りである。
- イオンポンプ等の働きにより静止膜電位状態にある細胞膜に脱分極刺激が加わることで、電位依存性ナトリウムチャネルが開く。
- 細胞内に正の電荷を持つナトリウムイオンが流入してさらに電位が上がり、電位が閾値を超えると、活動電位の発生が起こる。
- ナトリウムイオンチャネルに遅れてカリウムイオンチャネルが開き、細胞外に正電荷のカリウムイオンが流出して再分極する。
- 静止電位に達した膜電位は、多くの場合静止電位を超えて電気的陰性度が増し、過分極と呼ばれる状態になる。
- 最後に、ナトリウム-カリウムポンプの働きによってイオン分布が元に戻る。
2.の脱分極状態の電位が周辺部のナトリウムチャネルを開かせ、さらなる活動電位が発生する。これを繰り返して活動電位は、軸索上を伝播する。以上のとおり、活動電位の発生には電位依存性ナトリウムチャネルの存在が不可欠である。そのため、この種のナトリウムチャネルが存在しない細胞や、存在しない細胞上の部位(多くの神経細胞の樹状突起など)においては、活動電位は発生しない。なお、ナトリウムチャネルの代わりに(やはり電位依存性の)カルシウムチャネルを利用して、カルシウム電流による活動電位を発生させる生物もいる。神経以外では、心臓の調律を担っている洞房結節の細胞が挙げられる。
[編集] 概観
電位の相異は細胞の内外間で常に存在している。これは細胞膜全体でのイオン分布とこれらイオンに対する細胞膜の透過性(特定イオンの通しやすさ)に由来する。電荷を持つイオンの分布が細胞内外で異なるため、活性化してない静止状態の細胞の電圧は外側に対し内側は負の値となる。興奮した細胞の膜電位が閾値を越えれば、細胞はスパイクやインパルスなどとも呼ばれる活動電位を発生する。
活動電位は負から正への電圧の速い変換で、この全サイクルは数ミリ秒で終わる。どの活動電位のサイクルにも順に上昇相、下降相があり、多くの場合過分極相の段階もある。心臓ペースメーカー細胞のような心臓の特化細胞では、中間電圧のプラトー段階は下降相に先行し活動電位持続時間を数百ミリ秒延長する。
活動電位はパッチクランプ法などの電気生理学的記録手法や、最近ではEOSFETs等のニューロチップで測定される。軸索上の一点に置いた電極からオシロスコープによって膜電位を記録すると、オシロスコープ上には波周期として活動電位の各段階が現れる。一周期の活動電位は冒頭で示した図のような、歪んだサイン波に似る孤を描く。ある時刻における振幅は活動電位波が膜上のその点に達したかどうか、或は通過したかどうか、そうならどれほど前かに依存する。
活動電位は細胞膜上の一箇所に留まらず、膜上を進む(伝導)。長距離軸索を進むこともあり、例えば脊髄から脚の筋肉までシグナルを伝える。キリンやクジラのような大型動物に於いては、距離にして数メートル進む。
活動電位の速度と複雑さは細胞の種類により異なる。電位逆転の幅は大凡同じ傾向がある。
[編集] 根本機序
[編集] 静止電位
すべての細胞の膜内外に存在する電位差は通常、細胞外と比べ細胞内がマイナスである。この状態を、膜は分極しているという。活動していない状態にある膜の電位差は静止電位と呼ばれ、神経細胞ではおよそ-70mVである(細胞外の電位を0としている)。この電位差が生ずる要因はいくつかあるが、もっとも重要なものは膜間における、イオン輸送と選択的なイオン透過性である。
カリウムの細胞内への能動輸送とナトリウムの細胞外への能動輸送は、細胞膜上に散らばって存在するナトリウム - カリウムポンプによって行われる。このポンプは、三つのナトリウムイオンを細胞外に排出する際、同時に二つのカリウムイオンを細胞内に取り込む。このことにより、ナトリウムイオンは細胞外に多く内側に少なく、カリウムイオンは細胞内に多く外側に少ないという陽イオン分布を生じさせる。平衡状態においてこの濃度勾配から計算される平衡電位は、ネルンストの式により、カリウムは約-90mV、ナトリウムは約+45mVの値をとる。
濃度勾配を維持する要因はナトリウム - カリウムポンプであるが、静止電位の値を支配している大きな要因は、カリウム漏洩チャネルである。
ナトリウムとカリウムイオンは、開いたイオンチャネルを通して電気化学的勾配の影響の下で拡散する。通常、細胞膜においてカリウムの透過性はナトリウムの透過性よりも75倍大きい。これはカリウム漏洩チャネルが常に開いていることに起因する。静止電位がナトリウムの平衡電位+45mVよりもカリウムの平衡電位-90mVに近い値-70mVをとるのは、この透過性の違いが主な要因である。
静止電位と同様、多くの神経の活動電位はナトリウムとカリウムの透過性に依存している。
[編集] 各段階
[編集] 静止電位
静止電位において、いくつかのカリウム漏洩チャネルは開いている一方、電位依存性ナトリウムチャネルは閉じている。正味の電流は流れていないが、膜間を移動している主なイオンはカリウムイオンであり、その結果静止電位はK+平衡電位に比較近い値をとる。
[編集] 興奮
興奮刺激による膜の局所的な脱分極は、神経細胞の表面の膜にある電位依存性ナトリウムチャネルを開く。その結果ナトリウムイオンは濃度勾配および電気的勾配が推進力となり、細胞内へ流入する。
[編集] 上昇期
ナトリウムが流入し膜電位の負電荷が減少するに従い、さらなるナトリウムチャネルが開き、さらに大きなナトリウムの流入が引き起こされる。これは正のフィードバックのよい例である。ナトリウムチャネルが多く開くにつれ、ナトリウムによる電流はカリウム漏洩チャネルによる電流に打ち勝ち、膜電位が逆転し内側がプラスとなる。
[編集] ピーク
膜電位が+30mV程度になると、ナトリウムチャネルの電位感受性不活性化ゲートが閉じ、さらなるナトリウムの流入を阻害する。それと同時に、電位依存性カリウムチャネルの電位感受性活性化ゲートが開く。
[編集] 下降期
電位依存性カリウムチャネルが開くことで、濃度勾配および電気的勾配が推進力となりカリウムイオンの流出が始まる。カリウムイオンが拡散流出することで、膜電位の逆転と再分極が引き起こされる。
[編集] 過分極
電位依存性カリウムチャネルの閉鎖は電位および時間に依存している。このチャネルは膜電位の変化にすぐには応答せず、遅れて応答を返す。そのため、膜が十分再分極した後もカリウムの流出が続き、一時的に膜電位が通常の静止電位よりもさらに低くなる。この過分極状態はアンダーシュートとも呼ばれる。
[編集] 域値と発動
[編集] 回路モデル
生体膜における活動電位の伝達の仕組みは、イオンチャネルを持つ細胞膜をRC回路とみなすことでより深く理解できる。この回路において、イオンチャネルは抵抗、絶縁体である脂質膜はコンデンサーとして表される。電圧によって抵抗が変わる電位依存性イオンチャネルは可変抵抗であり、カリウム漏洩チャネルは通常の抵抗として表現される。膜間におけるナトリウムとカリウムの濃度差は電源(電池)とみなせる。また、軸索方向への神経伝達を妨げる要因も抵抗として表現される。
[編集] 伝達
まず、無髄線維における活動電位の伝達について説明する。活動電位は脱分極と電位依存性ナトリウムチャネルの開口を繰り返すことで伝達する。ある区域において脱分極により電位依存性ナトリウムチャネルが開くと、ナトリウムイオンは促進拡散により細胞内へ流入する。流入した陽電荷を持つナトリウムイオンは静電気的反発によって付近の陽イオンを周りへ押しやり、同時に付近の陰イオンをひきつける。その結果、陽電荷の波、すなわち脱分極の波が生じ、イオン自身の移動を経ることなしに遠くまで伝わることとなる。そして近傍の区域において十分脱分極がおこると、その区域にあるチャネルが開く。この過程が繰り返されることで、活動電位が軸索上を伝達する。
[編集] 速度
活動電位は、太さ以外の条件が同じであるとき、より太い軸索上でより速く伝達する。その速さは100-1000m/sである。神経伝達を妨げる主な原因は電位差のために細胞内側の膜上に集まった陰イオンであり、直径が大きいと膜から離れた部分、つまりマイナスに帯電していない領域が増えるため、脱分極の波が速く伝わる。
活動電位の伝達速度の向上ため、直径を太くした極端な例はダイオウイカである。ダイオウイカの、筋肉収縮をつかさどる神経の軸索は、直径が1mm以上もある。おそらく、獲物の逃走行動に対しすばやい反応が出来るように適応したためであろう。その神経インパルスの速度は自然界で最速である。
哺乳類においては、自律神経系の節後神経は無髄線維である。直径2μmの無髄線維はおよそ1m/sの伝達速度を示す。これに対し、同じ直径を持つ有髄線維はおよそ18m/sの速度をもつ。
[編集] 跳躍伝導
有髄線維においては、活動電位が髄鞘 (ミエリン)で絶縁された部分を「飛び越える」、跳躍伝導という現象がある。有髄線維において、髄鞘のまかれていない部分をランヴィエ絞輪と呼ぶ。髄鞘の存在によって、直径を巨大化させずとも神経伝達速度を速くすることができる。跳躍伝導という名前のためによく誤解されるが、活動電位が「跳躍」すること自体は髄鞘が巻かれていることによる「現象」であり、跳躍伝導が速い原因ではない。
跳躍伝導は、生命が大きく複雑化するという進化の過程において、より遠くにより速く神経伝達を行うために重要な役割を果たした。もし跳躍伝導がなければ、神経伝達速度を上げるためには軸索の直径を大きくするしかなく、神経系の体の中で占める割合は極めて大きなものとなっていたであろう。
[編集] 跳躍伝導のメカニズム
神経伝達を妨げる主な原因は膜上に存在する電荷である。コンデンサーの蓄える電荷は、二枚の板の間の距離を遠くすると減少する。神経系は、細胞に髄鞘を巻くことによって絶縁部分を太くし、膜上に存在する電荷の減少を図っている。
その結果、髄鞘のある部位における伝達速度は格段に向上する。しかし同時にこの部位では、髄鞘があるために電位依存性チャネルが存在できず、活動電位の再生は妨げられる。よって、髄鞘のまかれていないランヴィエ絞輪においてのみ活動電位が再生される。ランヴィエ絞輪では電位依存性ナトリウムチャネルが豊富に存在するので(無髄線維における密度より4桁ほど多い)、効率的に活動電位を再生することが出来るようになっている。
[編集] 損傷への対応
髄鞘の巻かれている部分の長さは跳躍伝導にとって重要である。速い伝導を行うためには、この長さは長ければ長いほど良いが、長すぎると信号の波が減衰しすぎて次のランヴィエ絞輪のチャネルの閾値を越えることが出来なくなる。現実には、髄鞘の巻かれている部分の長さは、信号が最低でも二つ先のランヴィエ絞輪までたどり着けるのに十分な長さをもつ。そのようにして、あるランヴィエ絞輪の部分が損傷などの原因により活動電位が起こせなくなっていたとしても、そのひとつ先のランヴィエ絞輪まで信号を伝えることが出来る。
[編集] 疾患との関わり
いくつかの病気は跳躍伝導を妨げ、伝導速度を低下させる。これらの病気のうち最もよく知られたものとして、脱髄疾患の一種である多発性硬化症がある。
[編集] 不応期
[編集] 進化的意図
[編集] 植物の活動電位
[編集] 参考文献
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
- Action potential propagation Animation
- Electrochemistry of plant life, from Case Western Reserve University
- Demonstration of ion flow during action potential
- Open-source software to simulate neuronal and cardiac action potentials
- Nernst/Goldman Equation Simulator
- The Nernst Equation and Action Potentials in the Nervous System from www.medicalcomputing.net
- Electrophysiology and The Molecular Basis of Excitability
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