イオンチャネル
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イオンチャネル (ion channel) とは、細胞の生体膜(細胞膜や内膜など)にある膜貫通タンパク質で、特定のイオンを透過させる働きを有するものの総称である。機能的には細胞の内外における各種イオンの濃度あるいは膜電位の維持、神経細胞などでの活動電位の発生、シグナル伝達などに関与する。
電荷を持つイオンは通常、脂質二重層で構成された生体膜を通過することが出来ないため、膜を横切るイオンの移動には、このようなイオン輸送タンパクを介する必要がある。多くのチャネルは分子内にゲートと呼ばれる構造があり、これが開くとイオンは細孔(ポア)を通って流れる。
イオンの選択性はチャネルによってまちまちであり、一種類のイオンのみ選択的に透過させるチャネルもあれば、多くの陽イオンを通してしまうチャネルも存在する。しかし、イオンを流す方向は、チャネルによって決める事はできない。なぜなら、イオンチャネルはイオンを受動的に輸送するからである。イオンチャネルが開くと、イオンは電気化学的勾配の高い方から低い方へ流れる。つまり、イオンチャネルがいくら開いても、イオンの流れが生じるためには、そもそも膜内外でのイオン濃度に差がなければならない。
イオンチャネルの開閉の制御様式には、いくつかある。
- 電位依存性:膜電位の変化に応じて開くもの。
- リガンド依存性:特異的に結合する分子によるもの。この場合イオンチャネル自体が受容体となっている。
- リン酸化依存性:他タンパクからのリン酸化シグナルによるもの
- 力学的変形依存性:チャネル分子に機械的変形が関わると開くもの。内耳の有毛細胞などが有名。
- 温度依存性:温度によるもの。
- 漏洩チャネル:通常開いており、少しずつ特定のイオンを漏らすように流すもの。
類似のタンパク質として、ATPなどのエネルギーを使ってイオンを「能動的」に輸送するタンパク質であるイオンポンプがあるが。これはイオンの選択性や膜内外への輸送という観点ではよく似たタンパクであるが、イオンの流す向きに極性が有ると言う点が決定的に異なる。ポンプはイオンを能動的に輸送する方向が決まっているのに対し、イオンチャンネルはイオン濃度の高い方から低い方へ(あるいは電気化学ポテンシャルが下がる方向へ)「受動的」に移動させるものである。