聖伝
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聖伝あるいは聖伝承はキリスト教の一部教派で教義の一部と考えられている伝承をいう。カトリックおよび東方正教会で重視される。
新約聖書の最も古い文献は60年代遅いものは2世紀になって執筆された。また現在の新約聖書および旧約聖書の範囲が確定したのは4世紀に入ってからである。明確な経典を持たない教団にとって、教義を支える中心はむしろ、行動や典礼所作の規定を含む口承伝承および文字伝承に置かれていた。聖書正典化はこのような伝承の中から規範的な文書を選択する作業であるが、選択の基準自体が伝承によっており、伝承を離れてあるいは捨てて聖書が成立したわけではない。
現在も東方正教会では聖書と聖伝を等しく重視する。
[編集] カトリック教会の聖伝
カトリック教会において、教会が教える神の啓示には、聖書と聖伝が含まれと考える。 そして聖伝は、教会の公式の教導のものと、非公式の教導のものとに分類される。 前者の公式の教導のものとして分類される聖伝とは、信条または信仰宣言書、公会議、信仰と道徳に関する教皇の公式文書などである。後者の非公式の教導のものとして分類される聖伝は、教父著書、祈祷書、典礼書、殉教録、古代キリスト教の造形および音楽芸術、碑銘などである。
[編集] 東方正教会の聖伝
本項目:東方正教会#信仰の源泉
東方正教会は、聖伝または聖伝承と呼ぶものを信仰の基盤とする。このとき聖書と聖伝は範疇の異なるものとは考えられず、むしろ聖書は聖伝の一範疇であるとする。聖書は、聖伝の中核であり、使徒らが残した最も公的な啓示であると考えられている。
次のものが聖伝の主要構成要素であるとされる。
- 新旧約聖書
- 七回の全地公会決定
- 地方公会(教会会議)決定
- 信経、教義議定(公会で制定されたニカイア=コンスタンティノポリス、ニカイア、カルケドンの三つ。使徒信条やアタナシウス信条は公式には認められていない)
- 公祈祷や諸祈祷
- 聖歌やイコン、教会建築などの教会芸術
- 教会法
聖伝(Holy Tradition)は、個々の教会や民族の文化的・歴史的遺産である伝統(traditions)とは区別される。