胎児危険度分類 (医薬品)
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医薬品の胎児危険度分類(pregnancy category)は、医薬品による胎児傷害のリスクの見積もりであり、妊婦に対して用いられた場合を対象にしている。つまり、人乳中へ移行した薬剤のリスクを扱うものではないし、医薬品に伴う全てのリスクを扱うものでもない。ちなみに、授乳危険度分類というものもある。
公的な胎児危険度分類は日本に存在しないため、実地診療では米国のFDA分類や、オーストラリアの分類などを参考にしていることが多い。つまり、添付文書における文言の微妙な差異は胎児に対する危険度を含意する内容になっているが、統一的なリスクの階層化が成されていない。虎の門病院は独自の基準を公表している。(外部リンクを参照せよ。)
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[編集] アメリカ合衆国における基準
1979年、アメリカ合衆国のFDAは、医薬品の胎児に対するリスク分類を導入した。これはスウェーデンで、その1年前に導入されたものを基礎にしている。
FDAの胎児危険度分類基準は以下のようになっている。(理解の助けになるよう、英語の成文を併記しておく。)
カテゴリーA:適切な、かつ対照のある研究で、妊娠第一期(first trimester)の胎児に対するリスクがあることが証明されておらず、かつそれ以降についてもリスクの証拠が無いもの。Adequate and well-controlled studies have failed to demonstrate a risk to the fetus in the first trimester of pregnancy (and there is no evidence of risk in later trimesters).
カテゴリーB:動物実験では胎児に対するリスクが確認されていないが、妊婦に対する適切な、対照のある研究が存在しないもの。または、動物実験で有害な作用が確認されているが、妊婦による対照のある研究では、リスクの存在が確認されていないもの。Animal reproduction studies have failed to demonstrate a risk to the fetus and there are no adequate and well-controlled studies in pregnant women OR Animal studies have shown an adverse effect, but adequate and well-controlled studies in pregnant women have failed to demonstrate a risk to the fetus in any trimester.
カテゴリーC:動物実験では胎児への有害作用が証明されていて、適切で対照のある妊婦への研究が存在しないもの。しかし、その薬物の潜在的な利益によって、潜在的なリスクがあるにもかかわらず妊婦への使用が正当化されることがありうる。Animal reproduction studies have shown an adverse effect on the fetus and there are no adequate and well-controlled studies in humans, but potential benefits may warrant use of the drug in pregnant women despite potential risks.
カテゴリーD:使用・市販後の調査、あるいは人間を用いた研究によってヒト胎児のリスクを示唆する明らかなエビデンスがあるが、潜在的な利益によって、潜在的なリスクがあるにもかかわらず妊婦への使用が正当化されることがありうる。There is positive evidence of human fetal risk based on adverse reaction data from investigational or marketing experience or studies in humans, but potential benefits may warrant use of the drug in pregnant women despite potential risks.
カテゴリーX:動物・人間による研究で明らかに胎児奇形を発生させる、かつ/または使用・市販による副作用の明らかなエビデンスがあり、いかなる場合でもその潜在的なリスクは、その薬物の妊婦に対する利用に伴う、潜在的な利益よりも大きい。(つまり、禁忌である。)Studies in animals or humans have demonstrated fetal abnormalities and/or there is positive evidence of human fetal risk based on adverse reaction data from investigational or marketing experience, and the risks involved in use of the drug in pregnant women clearly outweigh potential benefits.
FDA分類の欠点の一つは、カテゴリーAとして定義される薬物に対して、非現実的な量の、しかも質の高いデータを要求している点である。その結果、他の国でカテゴリーAに分類される多くの薬剤がFDA分類ではカテゴリーCに含まれている。
[編集] オーストラリアにおける基準
オーストラリアはわずかに異なる分類を使っている。注意するべきなのは、カテゴリーBが細分されていることである。この分類はオーストラリア薬物評価委員会(ADEC)の先天異常小委員会によって作られた。
ADEC胎児危険度分類(成文は英語版を見よ。)
カテゴリーA:多くの妊婦と妊娠可能年齢の女性によって服用されており、それによって先天奇形の発症率の上昇や、間接・直接の胎児に対する有害作用が確認されていない薬剤
カテゴリーB1:制限された人数だけの妊婦や妊娠可能年齢の女性によって服用されており、それによって先天奇形の発症率の上昇や、そのほかの直接・間接の有害作用が確認されていない薬物。動物実験では胎児傷害の増加を示すエビデンスが認められない。
カテゴリーB2:制限された人数だけの妊婦や妊娠可能年齢の女性によって服用されており、それによって先天奇形の発症率の上昇や、そのほかの直接・間接の有害作用が確認されていない薬物。動物実験による研究結果は不適切なものしかないか、あるいは存在しないが、利用できる資料によれば胎児傷害の増加を示すエビデンスが認められない。
カテゴリーB3:制限された人数だけの妊婦や妊娠可能年齢の女性によって服用されており、それによって先天奇形の発症率の上昇や、そのほかの直接・間接の有害作用が確認されていない薬物。動物実験では胎児傷害の増加が確認されているが、臨床的なその重要性は不明確である。
カテゴリーC:医薬品としての作用によって、胎児や新生児に可逆的な傷害を与えるか、与える可能性がある薬物。奇形を発生させることは無い。
カテゴリーD:胎児の先天奇形の頻度を増加させ、回復不能の傷害を与える、ないし、その可能性が示唆されている薬物。(可逆的な)薬理学的副作用も伴っているかもしれない。
カテゴリーX:胎児に恒久的な傷害を与える高いリスクがあり、妊婦および妊娠の可能性を伴う女性に投与してはならない薬剤。(つまり、禁忌である。)
カテゴリーBの亜分類は、リスクと投与による利益を考える上でのより多くのデータを供給しているが、それ自体としてデータの信頼性の問題を伴っている。つまり、この亜分類は人間のデータを欠いているケースでは、動物実験のみに基礎を置くデータになるからである。さらに言うならば、カテゴリーBへの位置づけが、必ずしもカテゴリーCよりも安全であるとは言えないことに注意するべきである。
注意が必要であるが、カテゴリーDは妊婦への絶対禁忌ではない。必要に迫られ、注意して処方されることが有り得る。
[編集] 代表的な薬物のカテゴリー例
この記載は最新のものでは無い可能性がある。新しい資料を参照することが望ましい。
解熱鎮痛剤
アセトアミノフェン(アンヒバ):アメリカB、オーストラリアA
抗生物質
アモキシシリン(アモリン・パセトシン):アメリカB、オーストラリアA
アモキシシリン・クラブラン酸(オーグメンチン):アメリカB、オーストラリアB1
クラリスロマイシン(クラリス・クラリシッド):アメリカC、オーストラリアB3
抗結核薬
リファンピシン(リファジン):アメリカC、オーストラリアC
ビタミン
イソトレチノイン(ビタミンA誘導体):アメリカX、オーストラリアX
抗てんかん薬
フェニトイン(アレビアチン):アメリカD、オーストラリアD
その他
サリドマイド:アメリカX、オーストラリアX
テオフィリン(テオドール・テオロング):アメリカC、オーストラリアA
ジアゼパム(セルシン・ホリゾン):アメリカD、オーストラリアC
[編集] 外部リンク
- 医薬品医療機器情報提供ページ
- 処方薬の利用者は、このサイトから該当製剤の添付文書をダウンロードするべきである。ただし、日本の胎児危険度の記述は文言がわかりにくく、FDA分類のようなクリアさには欠ける。副作用などについての速報も、全てここで入手できる。
- おくすり110番
主な薬剤のFDA分類、オーストラリア分類などのデータがある。概説も分かりやすい。
[編集] 参考文献
主として英語版に拠る。英語版リンクも参考になる。
- 薬剤一般についての参考文献
- 今日の治療薬(南江堂)…定評ある製剤集成。隔年改訂なので、できれば最新版を用いること。付録として主な薬剤のFDA分類表が収載されている。
- カッツング薬理学(丸善)、グッドマン=ギルマンの薬理書(廣川書店)前者については、可能ならば原著を用いることを薦める。薬理学的な内容についての検索は、医薬系の大学図書館などで後者にあたると良い。
- Harriet Lane Handbook 16ed.(Mosby) 最近17版が出た。小児科領域の代表的なハンディガイドであるが、頻用薬の欄にFDA分類・授乳危険度分類・腎機能低下時の容量変更の必要性が3つ組で記載してあり便利である。