ジアゼパム
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ジアゼパム (diazepam) は重要なベンゾジアゼピン系抗不安薬、抗けいれん薬、鎮静薬である。日本国外では代表的な睡眠薬でもあり、(骨格)筋弛緩作用もある。化学的には1,4-ベンゾジアゼピン誘導体。ジアゼパムは、広く用いられる標準的なベンゾジアゼピンのひとつで、WHOもその「エッセンシャルドラッグ」リストにジアゼパムを掲載している。
(注)しかし、「エッセンシャルドラッグ」リストは「途上国でも買える薬」を対象にしているため、エッセンシャルドラッグが即ち「日本で重要な薬」とは限らず、日本で重要な薬が必ずエッセンシャルドラッグに入っている、という訳でもない。
日本での代替医薬品でない商品名としてセルシン、ホリゾンがあり、ほか、各種後発医薬品が利用可能である。(あくまでも例であるが、ジェネリックの錠剤・散剤の使用で、薬価をセルシン錠・セルシン散の1/2以下に押さえる事も、場合によっては可能である。)アメリカ合衆国での商品名としてValium、Seduxenなどがある。
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[編集] 概要
ジアゼパムは母体となるベンゾジアゼピンの開発者でもあるレオ・スターンバックによって1950年代に開発された。スターンバックはこの功績により2005年、アメリカ発明者栄誉殿堂に加えられている。ジアゼパムのCAS登録番号は439-14-5であり、IUPAC命名法では 7-chloro-1,3-dihydro-1-methyl-5-phenyl-2H-1,4-benzodiazepin-2-one となる。
アメリカ合衆国で1961年にジアゼパムが臨床応用されると、直ちに過量摂取による死亡事故が後を絶たなかったバルビツール系抗不安薬に対する最良の代替物であることがわかった。ジアゼパムはバルビツールのように明らかな副作用を示さなかったので、すぐに慢性の不安に対する処方として普及した。1962年から1982年までのアメリカで、もっとも売れた薬剤はジアゼパムである。
ジアゼパムは不安障害や興奮の治療に用いられる。また、有痛性筋痙攣(いわゆる「こむらがえり」)などの筋痙攣の治療にはベンゾジアゼピン類の中でもっとも有用であるとされている。鎮静作用を生かし手術などの前処置(いわゆるプレメジ)、そしてアルコールや麻薬(オピオイド)による離脱症状の治療にも用いられる。変わったところでは、軍事的ないしそれに類する狙撃手によって、筋弛緩作用と呼吸をゆるやかにする作用から命中率を高めるために用いられることもある。
現在ではかつてのようにジアゼパムには副作用が無いとは考えられなくなっている。薬物乱用のリスクが認識され、アメリカでのジアゼパムの使用量は1980から90年代の間にほぼ半減した。一方ですでに古典的な薬物であるジアゼパムは、近年でも一部の錐体外路疾患の補助療法、小児の不安の治療、そして痙性麻痺の補助療法などに適応を広げつつある。
[編集] 作用機序
動物では、ジアゼパムは大脳辺縁系、ならびに視床と視床下部に作用して鎮静作用をもたらす。このとき、特異的なベンゾジアゼピン受容体に結合するが、この受容体は、実際の構造としてはGABA(γ-アミノ酪酸)受容体(より正確には、GABAA受容体-Clチャネル複合体)の一部分(α部位)である。この受容体にジアゼパムが結合すると、GABAの持つ抑制作用が増強される。ジアゼパムは全身組織、ことに脂肪組織に再分布し、ベンゾジアゼピン受容体の誘導(発現増強)も引き起こす。人間では、鎮静作用に対する耐性は数週間以内に引き起こされるが、抗不安作用に対する耐性は誘導されない。なお、ロラゼパム・クロナゼパム・アルプラゾラムなどはジアゼパムよりも強い抗不安作用を持つが、これらの薬剤はジアゼパムよりもさらに強い乱用・精神依存のリスクを伴う。
実験的な知見としては、ロシュ社(スイス)の研究施設で、ラットの脳に手術を行い、大脳辺縁系に異常な変化を与えてきわめて神経質、かつよく跳ねるラットを作成し、こうしたラットにLibrium、ないしValiumといったジアゼパム製剤を与えたところ、こうしたラットが正常に行動するとの事である。
[編集] 薬物動態
ジアゼパムは経口、経静脈、筋肉注射、坐剤(商品名ダイアップ—熱性痙攣などで頻用される。後述)の各経路で投与できる。経口投与されると速やかに吸収されて作用を発現する。筋注での作用の発現は、はるかに遅く不安定である。ジアゼパムは脂溶性に富み、そのため血液脳関門 (BBB) を容易に通過する。肝臓で代謝され、二相性の半減期を示す。つまり、ジアゼパム自体の半減期は20–100時間であるが、その主な活性代謝産物であるデスメチルジアゼパムの半減期が2–5日である。ジアゼパムのその他の代謝産物としては、テマゼパム、ロラゼパムが挙げられる。ジアゼパムとその代謝産物は尿へ排泄される。
一般に摂取された薬物の半減期は、ある容量の薬物を1回投与したときに、血中薬物濃度がピークの値の半分になるのに要する時間、で計測されるが、英国のニューカッスル大学の、C・アシュトン (Ashton) 名誉教授(精神薬理学)は、ジアゼパム自体の半減期として20–100時間、活性代謝物の半減期として36–200時間という値を公表している。
[編集] 適応
ジアゼパムは以下のように、非常に広範な適応を持つ。
- 不眠症の短期的治療 — 睡眠薬(眠剤)としては、作用時間が比較的長いので、主に熟眠薬(睡眠の質を高め、熟睡できるようにする)として用いられる。
- 不安、パニック障害、興奮状態の治療
- 手術前・手術後の鎮静
- てんかん重積状態の治療、ならびにそれ以外のてんかんの補助療法
- 破傷風(他の積極的な治療と併用する。)
- 疼痛を伴う筋疾患の補助療法
- 脳卒中、多発性硬化症、脊髄損傷などを原因とする痙性麻痺(片麻痺、四肢麻痺)の補助療法(長期療法としてリハビリテーションと併用される)
- 躁病の初期管理(リチウム、バルプロ酸などの第一選択薬と併用される。)
- 幻覚薬、および中枢神経興奮薬の過量摂取に対する補助療法
- アルコール、ならびに麻薬の離脱症状の緩和(医師による注意深い監視を要する)
- 自殺企図を有するうつ病の、うつ症状が明確に緩和されるまでの初期治療(抗うつ薬が併用される。)
- 神経遮断薬(抗精神病薬)の、早期の錐体外路性副作用に対する補助療法
- 両親や、正常な社会的環境と引き離され、不安を持つ小児(長期入院など)に対する研究的な治療
てんかん重積状態や、破傷風に対するジアゼパムの処方は患者の命を救うかもしれない。
「日本の」特殊事情として、こうした薬理学的適応のほかに、医療保険上の適応になるか否かが問題になる。そのため、睡眠薬としてジアゼパムが用いられることは少なく、抗不安薬・鎮静薬としての用途で用いられることが多い。
獣医学的な用途にも用いられ、犬猫の短期間作用型鎮静・抗不安薬として大変有用である。犬猫の術前鎮静薬や、鎮静が許容できる場合での抗けいれん薬(短期・長期治療いずれも)としても使用される。例として、猫のけいれん発作重積状態を止めるためには、5mgの注腸、ないし緩徐な静注(必要により再投与)が用いられることがある。
[編集] 使用上の注意
ジアゼパムには(他のベンゾジアゼピンと共通の、)広範な副作用が存在する。特に頻繁に遭遇するものは以下の通りである。
- 傾眠傾向
- 抑うつ
- 運動機能・協調運動障害
- (動揺性)めまい
- 神経過敏
- 順行性健忘(特に、高容量を服用した時)
ジアゼパムの本来の作用と反対の効果、つまり、易興奮性、筋痙攣、そして(極端なケースでは)憤激や暴力が見られる事があるかもしれない。これを奇異反応という。こうした効果があった場合、ただちにジアゼパムを中止しなければならない。こうした効果から、肉体的な耐性と精神的な依存が引き起こされうる。
長期間投与例の 30% 以下で、「低容量依存」として知られるある種の薬物依存状態が引き起こされる。つまり、こうした患者はジアゼパムによって引き起こされる「良い気分」を感じるために、容量を増加させることは必要としない。こうした患者の場合、離脱は困難を伴い、緩徐な計画によってのみ達成されうる。
外来患者にジアゼパムを処方する場合、機械操作・車両の運転に支障をきたす可能性に常に留意する必要がある。こうした障害は、アルコール摂取によって悪化する。どちらの薬物も中枢神経系を抑制するからである。治療の経過中に、通常は鎮静効果への耐性が出現する。
まれに、白血球減少症、あるいは胆汁うっ滞性肝障害といった副作用が観察されることがある。
(注意)睡眠時無呼吸発作を有する患者には、呼吸抑制作用によって呼吸停止と死を招く可能性がある。
ジアゼパムの禁忌には以下のようなものがある。
[編集] 絶対禁忌
[編集] 慎重投与
- 小児、および青年期(18才未満) — 処方は、けいれんの治療、及び周術期の鎮静を除いては通常指示されない。この世代への臨床投与データは不足している。(従って、不安、不眠などについては)精神療法を第一選択とすることが多い。
- アルコール乱用、および依存の既往を持つ患者:使用(処方)する場合、注意深くこれらの患者を観察する必要がある。
- 低血圧、およびショック状態の患者への経静脈投与
ジアゼパムのアメリカ合衆国FDA・胎児危険度分類 (pregnancy category) はカテゴリー「D」である。これは、「胎児に対する明確なリスク」があることを意味する。ただし、注意が必要であるが、これはあくまでもリスクであり、絶対禁忌「ではない」。(この分類では、カテゴリー「X」が絶対禁忌である。)妊娠した者にジアゼパムが処方される場合、処方者はリスクと利益の兼ね合いで、「それでもジアゼパムの処方が必要である」と考えている。従って、自己判断で中止すると、かえって母体・胎児を危険にさらす可能性があることに常に留意することが望ましい。むしろその場合、不安を感じるならば、適宜専門医に対してセカンド・オピニオンを求めるべきであろう。
ジアゼパムのアメリカ合衆国FDA・授乳危険度分類 (breast-feeding category) はカテゴリー「3」である。これは、「適切なデータがなく危険性についてはよくわかっていないが懸念される (unknown with concern)」ことを意味する。もっとも、新生児・乳児にもジアゼパムは(けいれんなどの治療で)よく処方される。こちらも禁忌「ではない」。
ジアゼパムはアルコール、および他の睡眠鎮静薬(例:バルビツール系)・麻薬・筋弛緩薬の中枢神経抑制作用を増強する。 オピオイドの多幸感を増強し、精神的依存のリスクを増すかもしれない。
- シメチジン(タガメット)、オメプラゾール(オメプラール)、ケトコナゾール(ニゾラール)、フルオキセチン(プロザック)はその排泄を遅延させ、作用時間を延長させる。ジスルフィラム(ノックビン)も同様の作用を持つかもしれない。したがって、長期投与ではジアゼパムの投与量を下げる必要がある。
- 経口避妊薬(ピル)は、重要な活性代謝産物であるデスメチルジアゼパムの除去を遅延させる。
- シサプリド(アセナリン)はジアゼパムの吸収を促進し、その鎮静作用を増強するかもしれない。
- 喫煙はジアゼパムの排泄を促進し、作用を減弱させうる。
- 低容量テオフィリン(テオドール・テオロング)はジアゼパムの作用を阻害する。
- ジアゼパムは、パーキンソン病の治療におけるレボドパの作用を阻害することがある。
- ジアゼパムはまれに、フェニトイン(アレビアチン)の代謝を阻害し、その作用(と副作用)を増強する。
そのほか、以下の集団に属する患者は、乱用の徴候や依存の進展がないか、注意深く観察されるべきである。これらの徴候が少しでも見られたならば、治療は中止されなければならない。こうした患者群へのジアゼパムの長期投与は、それが(通常)求められたり、必要とされる場合にもめったに行われない。
[編集] 処方例
(注意)状況、重症度、そして体重・年齢などによって処方は変化する。
一般に高齢者・肝機能が低下した人では作用が増強され、作用時間は延長する。ジアゼパムとその主な代謝産物の代謝時間は2倍から4倍になる。従って、1回投与量を減らし、かつ/または、投与間隔をあけるべきである。
- 不眠症 — 5–10 mg 入眠時、経口。20 mg 必要になることはほとんどない。日本では熟眠薬としてのセルシンに保険適用が無いので、この用途ではエスタゾラム、フルニトラゼパムなど、その他のベンゾジアゼピン類が用いられる。早朝覚醒型睡眠障害については、漫然と抗不安薬を投与せず、必要に応じてうつ病を除外診断することが必要となる。
- 不安障害、パニック障害 — 5–10 mg、経口(5 mg ないし 10 mg 錠など)より必要に応じ増量。ないし、ゆっくりとした静脈投与。呼吸抑制のリスクのある薬剤なので、ジアゼパムの経静脈投与には、最低1分はかけるのが望ましい。
- 術前・術後の鎮静 — 5–10 mg 経口、(ないし経腸)、あるいはゆっくりと経静脈投与。(0.2–3 mg/kg) 術後に 5–10 mg を追加しても良い。
- けいれん発作重積状態 — 30分以内に停止させること。注射剤、痙攣が制御されるまで、ないし総量20mgまで。(英語版ではもう少し総量を上に見ている。資料にもよる。)1、2分で効果が発現する。効果がなければフェニトイン(アレビアチン)などを追加する。正確には、ジアゼパムで稼いだ時間に次の治療法を考える形になる。
- 破傷風 — 注射剤 10 mg/回、5% ブドウ糖液 20 mL に希釈しゆっくりと静脈投与。30–60分毎。(通常は大量投与が必要になる。無効ならICU管理。)
- 筋肉痛 — 日本では非ステロイド性の消炎鎮痛薬、そして各種の湿布類が用いられることが多い。ただしこむらがえりには、芍薬甘草湯などと並んでジアゼパムが特効的に用いられる。
- 熱性痙攣 — 痙攣が続いていて、静脈ラインが迅速に確保できる場合注射剤、0.3–0.5 mg/kg を3–5分かけて静注。不可能な場合はダイアップ坐剤、0.4–0.5 mg/kg/回を経腸投与する。効果発現には数分かかる。効果がなければ小児科専門医への紹介が必要となる。
- 熱性痙攣の発症予防 — 複数回の熱性痙攣の既往がある小児、熱性痙攣はまだ1回しか起こしていないが家族歴濃厚なため反復の可能性が高い小児、てんかん患者のうち発熱に伴い痙攣のコントロールが不良になる患者などで適応がある。発熱に気づいたとき(体温は、各患者の痙攣の起こりやすさや起こるタイミング、平熱などを勘案して決めておく)にダイアップ座薬を1回、8時間後に発熱が続いている場合(解熱剤を使用している場合を含む)にもう1回挿肛する。投与量は上記と同じく0.4–0.5mg/kg/回。
実際に使用(処方)する場合、添付文書が各剤形ごとに、インターネット上に日本語・無料で公開されているので、原則としてそれを参考にするべきであろう。
長期投与時のルーチン検査は、通常は指示されない。(検査例:心電図・脳波・血液検査など)
なお、数週間を越える服用後は、ゆっくりした離脱なしに、急にジアゼパムを中止してはならない。ジアゼパムの離脱には数週間、時に数ヶ月を要する。最初の 50% は比較的急激に減量でき、次の 25% はかなりゆっくり、最後の 25% は極めて緩徐に減量する。これは、不快であったり、ときに重大な問題になる離脱症状を避けるためである。時に、50% の減量後に一時的な休薬が指示されることもある。
[編集] 剤形
- 錠 — 2 mg/5 mg/10 mg
- 散 — 1%
- シロップ — 0.1%
- 注 — 5 mg (1 ml)・10 mg (2 ml)
- 細粒 — 1%
- ダイアップ坐剤 4 mg/6 mg/10 mg(この製剤は、薬物動態を修飾しているため熱性痙攣・てんかんに用途が限定されている。したがって、主に小児科領域で用いられる。一般的な意味での、ジアゼパム坐剤の剤形は日本には存在しない。)
[編集] 過量摂取について
ジアゼパムを過量に摂取した人は傾眠傾向、意識の昏迷、昏睡、腱反射の減弱といった徴候を示す。ジアゼパムの過量摂取は医学的な緊急事態であり、救急医学関係者による迅速な発見が必要である。この場合の拮抗薬はフルマゼニル(アネキセート)である。フルマゼニルは短期間作用型の薬剤で、ジアゼパムの作用が消失するには数日かかるので、フルマゼニルの連続投与が必要になるかもしれない。必要に応じて、気管挿管と心肺機能の管理を行うべきである。人間の、経口摂取でのジアゼパムの致死量は 500 mg ないしそれ以上と見積もられている。300 mg を経口摂取した症例でも、睡眠時間の延長と連続した傾眠傾向だけで、重篤な合併症もなく回復してしまったこともある。ただし、ジアゼパムとアルコール、ないしその他の中枢神経抑制薬の併用は、場合によっては致死的になる。
[編集] 合成法
1961年にレオ・スターンバックらのグループは以下の方法によるジアゼパムの合成を報告した。
p-クロロアニリンに過剰量の塩化ベンゾイルを加えて、アミノ基をベンゾイル化し、そこに塩化亜鉛を添加して、そのまま連続的にフリーデル・クラフツ反応を行なう。ここで反応物はもう1分子の p-クロロアニリンが一つのカルボニル基とイミンを形成し、もう1つのカルボニル基とはアザアセタールを形成して6員環化合物になっている。硫酸-酢酸-水による反応で、この余計な p-クロロアニリンを除去すると同時にアミノ基上のベンゾイル基を脱保護する。
続いてヒドロキシルアミン塩酸塩との反応でオキシムを得る。この際に得られるオキシムは主に (Z)-体であるが、後の反応に必要なのは (E)-体であるため、異性化を行なう。ギ酸によりオキシム窒素をホルミル化すると、異性化が起こると同時にギ酸のカルボニル基がアミノ基とイミンを形成した6員環化合物が得られる。水酸化ナトリウムによりこのホルミル基を除去すると、(E)-体のオキシムが得られる。
次にクロロ酢酸クロリドとのショッテン・バウマン反応によりアミノ基をクロロアセチル化する。さらに水酸化ナトリウム存在下で反応させると、オキシム窒素のクロロアセチル基への求核置換が起こり、ベンゾジアゼピン骨格が形成される。なお、スターンバックらはこの化合物の合成法について、同じ文献上でいくつかの別法も報告している。
ナトリウムメトキシドにより、アミド窒素上のプロトンを引き抜いた後に、ジメチル硫酸によりメチル化する。ラネーニッケル触媒を用いて1気圧の水素ガスにより N-オキシドを還元すると、ジアゼパムが得られる。なお、メチル化と N-オキシドの還元の順番は逆でも問題ない。
[編集] 参考文献
- Sternbach, L. H.; Reeder, E.; Keller, O.; Metlesics, W. J. Org. Chem. 1961, 26, 4488.
- Sternbach, L. H.; Reeder, E. J. Org. Chem. 1961, 26, 4936.
[編集] 逸話
- ゲーム「メタルギアソリッド」には、狙撃時の手ぶれを少なくする効果で、ジアゼパムがアイテムとして登場する。
- ローリング・ストーンズにはジアゼパム (Valium) に捧げられた曲『マザーズ・リトル・ヘルパー』があり、その中で "little yellow pill"(小さな黄色い丸薬)として登場する。
- ジャガイモなどのように、ある種の植物にはごく微量のジアゼパムやテマゼパムが含まれている。
- 1975年、ニュージャージー州在住であったカレン・クィンランはアルコールとともにジアゼパムを摂取し、意識障害と呼吸停止をきたした。その後彼女は昏睡状態となり、遷延性意識障害と診断された。患者の家族は彼女の死ぬ権利を主張したが、彼女が入院していたカトリック系の病院はこれを認めなかった。このため法廷闘争となり、州の最高裁判所によって家族の主張を支持する判決が下された。そして彼女の人工呼吸器は取り外されたが、クィンランはなお9年間にわたって生き続けた。これは患者の自己決定権としての「死ぬ権利」が法的に認められた最初の事例であると考えられている。
- 中島らもの自伝的作品「今夜全てのバーで」にはアルコール依存症で入院した主人公が不眠症になり、医者にジアゼパムの注射を要求する場面がある。
[編集] 参考文献
内容は主として英語版に拠り、処方例、適用などについては日本の事情に即して若干書き加えた。英語版のリンクも参考になる。
まず、ジアゼパムの利用者は、以下のサイトから各ジアゼパム製剤の添付文書をダウンロードすると良い。副作用などについての速報も、全てここで入手できる。
その他、以下のような文献が利用できる。
- 今日の治療薬2002(南江堂) — 定評ある製剤集成。隔年改訂なので、できれば最新版を用いること。
- 薬の処方ハンドブック(羊土社) — 類似の処方集に「今日の処方」(南江堂)などがある。なるたけ新しい版(少なくとも5年以内)を用いるべきである。
- カッツング薬理学(丸善)、グッドマン=ギルマンの薬理書(廣川書店) — 前者については、可能ならば原著を用いることを薦める。薬理学的な内容については、医薬系の大学図書館などで後者にあたると良い。
- 小児の薬の選び方・使い方(南山堂) — 小児科領域の処方に関する丁寧な概説書。
- おくすり110番
- Harriet Lane Handbook 16ed. (Mosby) — 最近版が上がった。小児科領域の代表的なハンディガイドであるが、頻用薬の欄に米国における胎児危険度分類・授乳危険度分類・腎機能低下時の容量変更の必要性が3つ組で記載してあり便利である。
※なお、本項目では、基本的に強調体で商品名を表示した。そのため、処方とその他の部分で語順が逆になっているが、これは処方集の一般的な慣習に従ったためである。注意されたい。