行列の基本変形
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行列の基本変形 (ぎょうれつのきほんへんけい) とは、ある行列の性質を保ちながら、簡単な形に変形することで、 目的となる性質を取り出すための、線型代数学の基本的な概念である。
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[編集] 基本行列
次の3つの正方行列は、基本変形に大きな役割を果たす。 これらの行列を基本行列と呼ぶ。
[編集] 基本変形
まず、P を左からかけると、行列は、i 行と j 行が交換される。 右からかけると、行列は i 列と j 列が交換される。
Q を左からかけると行列は i 行が c 倍される。 Q を右からかけると行列は i 列が c 倍される。
R を左からかけると行列は i 行に j 行の c 倍が加わる。 R を右からかけると行列は i 列に j 列の c 倍が加わる。
左から基本行列を掛けることを左基本変形または行基本変形と呼び、 右から基本行列を掛けることを右基本変形または列基本変形と呼ぶ。 また、両方をあわせて基本変形と呼ぶ。
[編集] 逆行列の計算
逆行列の定義は XA = E(および AX = E)なる X であった(Eは単位行列、以下同様)。 つまり、逆行列 X は A を左(もしくは右)基本変形して単位行列 E に変形したときの、行列演算を集めたものに他ならない。
簡便に計算する方法をいかに例を挙げて紹介する。
階数を計算する場合も同様に行うことができる。
[編集] 逆行列の計算例
この行列 A に対して、左基本変形によって単位行列に変形を試みる。
- 1行目を1/2倍する。
- 2行目に1行目の-1倍を加える。
- 1行目に2行目の-3倍を加える。
この基本変形を行列の積の形で書くと次のような形となる。
つまり行列 A の逆行列は
[編集] 逆行列の簡便な計算
上の節の最後の式は、単位行列に同じ左基本変形を施したものであるという解釈ができる。 つまり、正則行列 A は、
に左基本変形を施すことで、
と逆行列を得ることが出来る。
- 1行目を1/2倍する。
- 2行目に1行目の-1倍を加える。
- 1行目に2行目の-3倍を加える。
[編集] 線形方程式系の計算
Ax = b の両辺に左から逆行列 A-1 をかけると、x = A-1b となる。上節において、逆行列と基本変形の関係を説明したのと同様の関係で、線形方程式系も基本変形で解を求めることができる。
[編集] 線形方程式系の簡便な計算
に左基本変形を施すことで、
と線形方程式系の解を得ることが出来る。
- 1行目を1/2倍する。
- 2行目に1行目の-1倍を加える。
- 1行目に2行目の-3倍を加える。
よって解は
[編集] 行列式と基本変形
行列の積をした結果の行列式は、それぞれの行列式の積となる。
基本行列はそれぞれ簡単な形であるのでそれぞれ行列式の値は既知である。
- P の行列式は、-1。
- Q の行列式は、c。
- R の行列式は、1。
つまり、
- 行(もしくは列)を入れ替えると、行列式の符号は逆になる。
- ある行を c 倍すると、行列式の値も c 倍される。
- ある行に別の行の c 倍を加えても、行列式の値は変わらない。