要撃機
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
要撃機(ようげきき / Interceptor)とは、戦闘機のうち、特に、爆撃機の迎撃を目的とした機体である。
要撃戦闘機(ようげきせんとうき)、迎撃機(げいげきき)、迎撃戦闘機(げいげきせんとうき)、防空戦闘機(ぼうくうせんとうき)、局地戦闘機(きょくちせんとうき)ともいう(また、常用外の表記では、邀撃機(ようげきき)、邀撃戦闘機(ようげきせんとうき)とも。)。
軍事施設等を主に爆撃機の攻撃から護るために開発される。そのため爆撃機の飛行する高高度へ短時間で到達するための強力なエンジン、頑丈な爆撃機を撃ち落すための大きな攻撃力が求められるが、敵機に対してのスクランブルさえ行えばいいということから、航続距離は重要視されない(乃至、航続距離が短い)ことが多い(拠点防衛の為の兵器としての性格が強い。)。
但し、逆に、長時間パトロール飛行して敵機の来襲を警戒するという使い方をする為、航続距離が長いものも存在する(旧ソ連のように国土が広大な国では、こういう傾向が見受けられる。)。
第二次世界大戦の頃より、爆撃機が夜間爆撃を行うようになり、対抗上夜間戦闘機が誕生した。つまり要撃機の一種として夜間戦闘機が存在し、同時に昼間戦闘機の要撃機も存在した。戦後、夜間戦闘機から全天候戦闘機へと発展してからは、全天候性能が要撃機にとって必須の性能となり、昼間戦闘機は要撃機には向かないと考えられるようになった。そのため要撃機は、他用途の戦闘機よりも一段と優れたレーダー・電子機器を搭載する例が多い。
設計時に要撃が重視されなかったが結果として要撃機になってしまった機体、あるいはその逆なども存在する為、制空戦闘機との明確な線引きは難しい(当たり前であるが、前線の航空基地が敵航空機による攻撃を受けた際は、その基地の制空戦闘機も要撃に出動せざるを得ない)。特に現在は戦闘機の多用途化が進んでおり、純粋な要撃機は皆無といっていい状況である。
目次 |
[編集] 日本の場合
[編集] 大日本帝国軍
大日本帝国陸軍では攻撃力と速度を重視した戦闘機を「重戦闘機」と呼称し、大日本帝国海軍では「乙戦」と呼称した。開発思想が必ずしも爆撃機の迎撃だった訳ではないが、その仕様や運用は要撃機の考え方とほぼ一致する。
[編集] 自衛隊
航空自衛隊は、戦闘機(Fighter)を「要撃戦闘機」(Fighter Intercepter :FI)、攻撃機(Attacker)を「支援戦闘機」(Fighter Supporter)と呼称しており、この「要撃戦闘機」が略されて要撃機と呼ばれることがある。しかし、その機体が必ずしも要撃能力重視で開発された機体という訳ではない(例:F-15J要撃戦闘機のベースとなったF-15は、対空戦闘のみならず、多目的に使える。また、F-15Eという戦闘攻撃機仕様の派生型も存在する。)。
尚、航空自衛隊の要撃機は、島嶼防衛の為に、一定以上の航続距離が求められる傾向がある(空中給油機:KC-767Jが採用されたのも、その事情からか。)。
[編集] アメリカ軍の場合
冷戦初期において、旧ソ連の爆撃機による核攻撃に恐怖を覚えたアメリカ軍は、F-102やF-106のように対爆撃機に特化した機体を開発した。またF-101やF-104のような元来は別任務に開発された戦闘機であっても、要撃機としても採用している。
しかしその後、ソ連空軍のアメリカ本土爆撃能力に対する予想が過大なものだと判明すると、組織改編によって防空軍団(ADC)を廃止し、この過程によって専用の要撃機の開発計画(新規開発機としてXF-108やYF-12、前述F-106の発展型として、F-106C/D、あるいはF-106Xなどのプランがあった)は放棄された。F-14やF-15を要撃専門の機体として採用する計画すら、消滅した。やがてF-101やF-106が老朽化のため退役すると、要撃専門の機体は消滅した。
現在のアメリカ空軍の防空任務は戦術航空軍団(TAC)、あるいは空軍州兵(ANG)の担当である。使用する機体はF-15、F-16であり、制空戦闘にも迎撃にも用いる事ができる多用途機である。初期型のF-16は赤外線誘導のサイドワインダーミサイルと機関砲を装備する昼間制空戦闘機であり、要撃機としての使用には難があったため、空軍州兵(ANG)に配属された機体についてはスパローの運用能力を付加する改造が行われた。現在のF-16はAIM-120 アムラームの運用能力を持っているため、要撃機としての運用にも何ら問題は無い。
アメリカ海軍のF-14は、艦隊防空を任務とする要撃戦闘機的な性格の強い機体であったが、すでに退役済みである。
[編集] 旧ソ連軍の場合
アメリカ軍に比較して、特定の目的に特化したものを開発する傾向のあり、また空軍から独立して防空軍を設けるなど国土防衛を重視していたソ連軍はSu-15、MiG-25、MiG-31といった要撃向けの機体を多数開発し、運用していた。これらは輸出にも振り向けられた戦闘機よりも高度な電子機器を装備していた(逆説的だが、高度な電子機器を装備した戦闘機は、機密保持のために前線には出さず、要撃任務に振り向けていたとも言われる)が、一部は旧東側諸国にも採用されていた。予算の問題や用途の限られていることなどから、多くが退役したか、退役の傾向にある。 その中では、ロシア本国においてMiG-31が現在でも主力として運用されている。
また、国土が広大な国である為、寧ろ、前線に配置する制空戦闘機の方が航続距離が短く、先述の通り、防空に用いる要撃機の方にこそ、長い航続距離が求められた。