語彙
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
語彙(ごい)とは、ある範囲(例えば一つの文学作品・一個人の発言記録など)において使われる単語の総体のこと(「彙」は「集まり」の意味)。したがって、「あの人は語彙が多い」と言うことはできるが、「『もったいない』という語彙」というように、「単語」の意味で用いることはできない。語彙を体系的に記述研究する言語学の分野を語彙論という。
[編集] 語彙の種類
「基礎語彙」は、その言語の根幹部分をなす語の集まりを指す。使用頻度が高く、日常生活に必要不可欠で、子どもでも知っており、他の言語にもそれに相当する語があり、長い歴史を通じて変化しにくいなどの条件を充たす語の集まりである。日本語では、たとえば「手・足・目・口・人・もの・言う・食う・寝る・良い・悪い……」などがそれに当たる。
「基本語彙」は、その語彙の中で中核的な部分を占める重要な語の集まりを指す。たとえば、新聞のスポーツ面での基本語彙としては「投手・打者・投球・スライダー・安打・本塁打……」などがあり得る。だれもが必ずしも日常的に使う語ではないが、対象となる文章・談話を理解するのに不可欠な語の集まりである。
基礎語彙と基本語彙とはしばしば混同されるが、上のように定義は異なる。もっとも、両者が大きく重なっている場合もある。英語学習で最初に必要な1500語~3000語ほどの語彙は、特定目的のために集めた語彙であるから「基本語彙」と考えられるが、そこには「hand, foot, say, eat, good, bad...」などの基礎語彙がほぼ含まれる。しかし、「apple, bike, Christmas...」などは、英語学習に欠かせない基本語彙ではあるものの、必ずしも基礎語彙とはいえない。
「理解語彙」は、見聞きして意味が分かることばの集まりである。一方、「使用語彙」は、自分が使うことのできることばの集まりである。一般に、誰でも、理解語彙のほうが使用語彙よりも範囲が広い。いわゆる「読めるけど書けない」という漢字は、理解語彙(厳密には理解文字)に属することになる。また、学校で古典の文章を学んで読めるようになっても、自分でその語彙を用いて文章を書くことは少ない。古典の語彙のうち少なからぬ割合は、われわれにとって理解語彙ではあっても使用語彙ではないことになる。
[編集] 語彙の量
語彙の総量を「語彙量」という。満年齢で6歳になる子どもの場合、理解語彙の総量は、およそ5000~6000語ほど。13歳では3万語前後。20歳ではおよそ4万5000~50000語ほどという調査結果が出ている(森岡健二 (1951)、『国立国語研究所年報2』)。
小型の国語辞書に収載されている語彙量は、およそ6万~10万語程度である。
文学作品では、「源氏物語」の語彙量は、延べ語数で20万7808語、異なり語数で1万1423語と数えられている(宮島達夫 (1971)、『古典対照語い表』、笠間書院)。なお、延べ語数とは、同じ語が複数あった場合、その出現回数だけ数えた数値。異なり語数とは、同じ語が何度出てきても1と数えた数値である。