谷
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
谷(たに)とは、山や丘、尾根、山脈に挟まれた、周囲より標高の低い箇所が細長く溝状に伸びた地形のことである。渓、谿とも表記される。
また、この地形から転訛した「谷」「谷戸」「谷津」「谷地」と表し「や、やと、やつ、やち」などと読む地形および地名については後段で詳説する。
目次 |
[編集] 地形
成因により、河川や氷河の浸食によってできた浸食谷と断層や褶曲によってできた構造谷とに分けられる。よく見受けられる谷は河川の浸食による浸食谷である。
山脈に沿って流れる谷を縦谷(じゅうこく)、山脈を横切る谷を横谷(おうこく)という。もともと、横谷のうち川が流れていた平地の一部が隆起して川を横切るように山脈が形成されるときに、隆起の速度よりも谷の下刻が速い場合に形成されたものを先行谷(せんこうこく)という。吉野川が四国山地を横切る箇所にある大歩危・小歩危が代表的である。隆起の速度の方が速いと谷は切断される。
また、谷の断面の形状によりV字谷・U字谷・鋸挽谷・峡谷・階層谷(キャニオン)・谷床・箱状谷などに分類される。
谷を流れる川のことを渓流という。
[編集] 日本の主な渓谷
以下は、○○渓、または○○渓谷と呼ばれている地名で、名が知られているもの、地元では著名なものを挙げる。
- 北海道
- 定山渓・愛山渓・恵庭渓谷
- 東北地方
- 奥入瀬渓流・赤石渓流・城ヶ倉渓谷・薬研渓流(青森県)
- 厳美渓・猊鼻渓・久慈渓流(岩手県)
- 碧玉渓(宮城県)
- 抱返り渓谷・湯瀬渓谷・真木渓谷など。(秋田県)
- 仙人沢・赤倉渓谷・瀬見渓谷など。(山形県)
- 夏井川渓谷、背戸峨廊、中津川渓谷など。(福島県)
- 関東地方
- 花貫渓谷(茨城県)
- 日光華厳之渓谷・雲竜渓谷・塩原渓谷・松木渓谷・庚申渓谷・大芦渓谷など。(栃木県)
- 渡良瀬渓谷・吹割渓など。(群馬県)
- 長瀞渓谷・浦山渓谷・名栗渓谷・有間渓谷など。(埼玉県)
- 養老渓谷(千葉県)
- 等々力渓谷・秋川渓谷・鳩ノ巣渓谷・日原渓谷など。(東京都)
- 日向渓谷・ユーシン渓谷など。(神奈川県)
- 甲信越地方
- 胎内渓谷・姫川渓谷・海谷渓谷・実川渓谷など。(新潟県)
- 西沢渓谷・白鳳渓谷・尾白川渓谷・板敷渓谷・丹波渓谷など。(山梨県)
- 角間渓谷・松川渓谷・阿寺渓谷・柿其渓谷・奥裾花渓谷・春日渓谷など。(長野県)
- 北陸地方
- 鶴仙渓(石川県)
- 黒河渓谷(福井県)
- 東海地方
- 中山七里・霞間ヶ渓・宇津江四十八滝・乙女渓谷など。(岐阜県)
- 新井川渓谷・須津川渓谷・景ヶ島渓谷など。(静岡県)
- 香嵐渓・大入渓谷・振草渓谷など。(愛知県)
- 宇賀渓・石水渓・朝明渓谷・香落渓・赤目四十八滝・小岐須渓谷・五十鈴川渓谷など。(三重県)
- 近畿地方
- 朽木渓谷(滋賀県)
- 清滝・嵐山・るり渓(京都府)
- 瀞川渓谷・霧ヶ滝渓谷・阿瀬渓谷・音水渓谷・天滝渓谷・糸井渓谷など。(兵庫県)
- 御手洗渓谷・月ヶ瀬梅渓・不動七重滝・奥香落渓など。(奈良県)
- 百間山渓谷など(和歌山県)
- 中国地方
- 芦津渓谷・小鹿渓・三滝渓・石霞渓など。(鳥取県)
- 断魚渓・千丈渓など(島根県)
- 豪渓・奥津渓・磐窟渓・宇甘渓など。(岡山県)
- 万古渓(広島県)
- 石柱渓・中山渓(山口県)
- 四国地方
- 祖谷渓・鷲敷ライン(徳島県)
- 寒霞渓・銚子渓(香川県)
- 滑床渓谷・面河渓・成川渓谷・富郷渓谷・高瀑渓・阿歌古渓谷・黒川渓谷・横吹渓谷など。(愛媛県)
- 中津渓谷・安居渓谷・笹渓谷・中追渓谷・出井渓谷など。(高知県)
- 九州地方
- 筑紫耶馬渓・野河内渓谷など。(福岡県)
- 千綿渓谷・富川渓谷(長崎県)
- 菊池渓谷・岳間渓谷など。(熊本県)
- 耶馬渓・九酔渓・白馬渓・藤河内渓谷・由布川渓谷・岳切渓谷など。(大分県)
- 猪八重渓谷・綾川渓谷・祝子川渓谷・小丸川渓谷・日之影渓谷など。(宮崎県)
- 奥十曽渓谷・雄川渓谷・猿ヶ城渓谷・高隈渓谷など。(鹿児島県)
※一方、○○峡と名乗る峡谷は浸食が激しく切り立った断崖が見られる谷、あるいは、嵐山(らんざん) のように差し迫った山に挟まれ、悠然と水をたたえるような景勝地を指すことが多い。
国内における渓谷や峡谷の一覧については、日本の峡谷・渓谷一覧を参照されたい。
[編集] 地名
![]() |
記事の正確さ:この記事の正確さについては疑問が提出されているか、あるいは議論中です。詳しくは、この記事のノートを参照してください。 |
谷、谷戸、谷津、谷地などと表し「や」「やと」「やつ」「やち」などと読む地名が、主に日本の関東地方および東北地方の丘陵地で多く見られる。これは、谷あいの地形を表す言葉、または地形から転じた地名であり、地形としては「谷戸地形」「谷戸田」などとして使われる。 一方で、西日本では谷を「たに」と読むことが多い。
地名として使われる場合は、当該土地が山に囲まれた谷あいである(または、過去においてその様であった。)ことを表しており、このような地形のうち水はけが良く開けた場所は水田や畑として使われている。森林が多い場所は里山的環境であり、水はけが悪い場所は湿地帯になっていることが多い。
また、上記の表記および読みは地域により分布に差が見られ、同様の地形を表す際にも、千葉県などでは「谷津」(やつ)を、神奈川県および東京都多摩地方では「谷戸」(やと)を、東北地方では「谷地」(やち)使っている場合が多い。これらの経緯については、史料が少なく詳細は分かっていない。しかし、いずれの場合も意味は同じで、浅い侵食谷の周囲に斜面樹林が接する集水域であり、丘陵地の中で一段低くなった谷あいの土地であることを表している。
[編集] 地名例
[編集] 関連項目
[編集] 参考文献
- 自然科学のとびら 5巻3号「ライブラリー通信 谷戸・谷津」(神奈川県立生命の星・地球博物館)
- 多摩地域の谷戸の保全に関する調査(東京都環境局)
- 谷戸の景観構造(慶應義塾大学 地球環境概論 厳 網林)
- 関東地名物語、山田秀三著、草風館、1998年、ISBN 4-8832-3058-9。
[編集] 状態を表す呼称
日本語では、地形以外についても、何らかの値が周囲よりも低い状態を表す呼称・名称として「谷」が用いられる。
例:「気圧の谷」、「波の谷」、「景気の谷」など。