貸本
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貸本(かしほん)は、貸本屋(貸本店・レンタルブック店etc.)が貸し出す書籍および雑誌の総称である。また、そのような業種自体を指すこともある。
本項では主に業種としての意味合いで「貸本」を解説する。
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[編集] 歴史・概要
江戸時代には本は高価だったため、草双紙、読本、洒落本などを貸し出す生業は貸本屋と呼ばれ、庶民の手軽な娯楽として親しまれた。
20世紀初頭から、貸本屋は江戸川乱歩や手塚治虫を始めとする数多くの大衆小説家や漫画家の作品を刊行して読者層を増やし、怪奇漫画や貸本劇画などの新しい文化を生み出した。
戦後、小説や漫画単行本、月刊誌を安く貸し出す貸本の店が全国規模で急増した。のちに登場するレンタルビデオ店の先駆的な存在といえなくも無い。貸本の店は大衆娯楽小説や少年漫画などの単行本、成年・少年・婦人雑誌などを提供する場として1960年代初頭まで日本全国にあふれていた。1940年代末からは漫画を中心に貸本の店専用書籍も刊行され、『墓場鬼太郎』(『ゲゲゲの鬼太郎』の原型的作品)などを生んだ。
1950年代後半からは図書館の充実、図書全般の発行部数の増加、出版社が販売する雑誌の主軸が月刊誌から児童や庶民でも安価に購入できる週刊誌へ移行した事などにより、一部の店舗が一般書店に転向したほかは急速に減少、現在貸本の店は極めて少数、かつ小規模で経営する店舗が存在するのみとなっている。
しかし「貸本」自体は、無店舗経営で本を宅配する業者などの誕生や後述する大規模ビジネスへの移行の動きなど、新しい段階へと移行する兆候を見せ始めている。
[編集] 今後の貸本
[編集] 貸本業と貸与権
戦後貸本の店が多かった理由としては、人々が当時まだまだ高価だった書籍を「買う」よりも「借りる」事を望んだ事が大きいが、もう一つ別の側面として、著作権法では制定当初、第三者が書籍を別の第三者に貸与する事を著作権者が認める権利(貸与権)の存在を想定していなかった為、著作権者に許可を取らず自由に本を顧客に有料で貸す商売が個人レベルでも比較的簡単に起業できたという事もあったようだ。(この他、貸本の店で扱う本は娯楽系のものが主だった為、古書店のように書籍全般の知識に詳しい必要は余り無かったというのもある)
1984年には貸与権が制定されたが、これは当時誕生した後、急速に全国へ拡大・普及したレコードレンタル店(現在のCDレンタル店)に対応する為のものであり、書籍への貸与権は“「書籍又は雑誌の貸与による場合には、当分の間、適用しない(著作権法の附則・書籍等の貸与についての経過措置より)」という文言が記され、長らく放置されていた。
[編集] 「小規模業」から「ビジネス」へ
21世紀初頭より一部のレンタルビデオ(DVD)・CDチェーン店でコミックを有料レンタルするビジネスの動きが出始めた。
理由については国内で爆発的に拡大したインターネットのブロードバンド化によって音声・映像を直接ユーザーに配信するビジネスが隆盛を誇る様になり、その影響で厳しくなってきた店舗売り上げの補填対策の一環、あるいはショップで使用するレンタル作品のメディアもDVDディスクが主流となってきてビデオカセットよりも保管スペースを取らない為スペースが空く様になり、そこを埋める為のアイデアとして始まったなど諸説ある。
先述した通り、貸本業は過去の遺物のごとく見られがちで、とかく著作権問題にうるさい大手出版企業も以前は貸本(書籍レンタル)についてはあえて目をつぶっていた様だが、いずれにせよ、著作権者にとってはマンガ喫茶や大規模な中古書店チェーン(ブックオフなど)の存在同様、無視できない状況になってきた。
この事もあり、企業の各種ロビー活動が活発化した結果、2005年には著作権法が改正されてコミックを含む書籍に貸与権を適用する事が認められ、さらに出版物貸与権管理センター(著作権者代表)と日本コンパクトディスク・ビデオレンタル商業組合(CDVJ・レンタル業者代表)の話し合いが難航の末、2006年末に暫定的ではあるが、一応まとまり、2007年2月1日からは書籍レンタル使用料をレンタル業者から徴収・著作権者へ還付する制度が始まるなど、「貸本」業は「ブックレンタル」ビジネスへと拡大する土壌が整いつつある。
2007年1月、一部マスコミは“レンタルチェーンショップ・TSUTAYAを経営する業界最大手企業・カルチュア・コンビニエンス・クラブがこの動きを受けて同年4月からコミックレンタル事業を本格的に開始する”と報道、今後の動向が注目される。