鉛蓄電池
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鉛蓄電池(なまりちくでんち)は、電極に鉛を用いた二次電池の一種である
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[編集] 概要
鉛蓄電池は、正極板(陽極板)に二酸化鉛、負極板(陰極板)に海綿状鉛、電解液として希硫酸を用いた二次電池である。 放電とは電解液中の硫酸が極板に移動すること、充電とは極板から電解液中に硫酸が移動することである。 そのため、放電すると電解液の比重は低下し、逆に充電すると上昇する。 しかし比重値は液温(電解液の温度)によって補正する必要もあり、正確な充電状態を把握する目安でしかない。 比重値1.28が良いとされているのは伝導率が良いからであり、EBバッテリーについては必要性が無い。
公称電圧は単セルあたり2ボルトと、比較的高い電圧を取り出すことができ、原材料の鉛も安価であることから、二次電池の中では世界でも最も生産量が多い。 短時間で大電流放電させたり、長時間緩やかな放電を行っても比較的安定した特性が得られ、メモリー効果といったアルカリ蓄電池(ニッケル・カドミウム蓄電池など)のような短所も無い。反面、硫酸を使うために破損した際に大きな危険が伴うこと、他の蓄電池に比べて大型で重くなる欠点がある。
[編集] 用途
自動車のバッテリーとして広く利用されているのをはじめ、産業用として商用電源が途絶えた時のバックアップ電源の用途や、バッテリーで駆動するフォークリフト・ゴルフカートといった電動車用主電源などにも用いられている。 また小型飛行機用としても広く使われている。自動車・小型飛行機いずれの場合も、オルタネーター(交流発電機)で発生した交流をダイオードによって全波整流することによって直流にして充電される。 その際の充電方法は定電圧充電法であり、レギュレータによって一定電圧でバッテリーを充電している。
[編集] 原理・構造
[編集] 鉛蓄電池の反応
放電時 | 充電時 | |
---|---|---|
陰極 | ||
陽極 |
上の表のごとく、鉛蓄電池はPbとPbO2との間に存在するPbの酸化数の差を利用した電池である。すなわち、Pbは酸化数+IIを取るのが最も安定であるので、酸化数+0のPbおよび+IVのPbO2とがPb2+に変化しようとする性質から起電力を生じる、と理解することができる。上の2本の式は1本にまとめることができる:
- Pb+PbO2+2H2SO4 → 2PbSO4+2H2O
[編集] 基本的な構成
[編集] 極板の種類による区分
- クラッド式
- ガラス繊維をチューブ状に編み上げて焼き固めたものの中に極板活物質を充填したもので構成される極板。正極板のみに採用されている。蓄電池の耐久性が向上し、主に産業用の長寿命タイプの蓄電池やフォークリフト用の蓄電池に使用されている。
- ペースト式
- 格子体と呼ばれる極板の骨組みにペースト状にした活物質を塗り込んで極板にしたもの。正極板にも負極板にも採用されている。極板の反応面積を増やし、短時間で大電流放電させる用途の蓄電池を作ることが可能となる。
- チュードル式
- 現在、日本では製造されていない極板。一部の海外製鉛蓄電池で現存する。
[編集] 構造上の区分
- ベント形鉛蓄電池
- 電解液の入った電槽の中に極板群を挿入して構成される、鉛蓄電池発明当時から存在していた構造のもの。液式電池と呼ばれることもある。使用において、充電中に起こる水の電気分解反応や自然蒸発によって電解液中の水分が失われるため、適宜精製水を補給する必要がある。この補水作業を簡略化する為、触媒栓というものを蓄電池に取り付け、水の電気分解によって発生した酸素は逃がし、水素ガスのみを吸着させ、放電時に空気中の酸素を利用して水素を元の水に戻す機能を持たせることもある。電解液比重を測定することにより容量の状態等を把握することが出来るが、点検作業等において保守が面倒であるという難点を持つ。自動車や小型飛行機に使用しているのはこのタイプである。
- 制御弁式鉛蓄電池
- 1980年代半ばより登場したもので、セパレータ(隔離板)には微細ガラスマットを用い、電解液をそのガラスマットに保持する方式をとった構造のもの。蓄電池内部では流動するフリーの電解液が存在せず、蓄電池を横置きしても電解液がこぼれることはないが、倒立状態での使用は不可。使用する鉛合金の関係で、ベント形より自己放電が少なく、その量はベント形の約5分の1程度である。陰極吸収式鉛蓄電池と称していたこともある。
- ベント形とは異なり、充電中に水の電気分解反応が起こっても、水素ガスの発生を抑え、発生する酸素ガスも負極板表面での化学反応により元の水に還元して電解液中に戻す作用を起こしている。「陰極吸収式」と呼ばれたのはこのためで、水分が失われることが無く補水が不要である。
- 通常は蓄電池内部の気密を保つ為、ふた部分に内蔵されたゴム弁(排気弁)は閉じた状態になっているが、充電器の故障等により過大な充電電流が流れて蓄電池の内圧が上昇した時はゴム弁が開いて圧を逃がすようにしている。この他、制御弁式鉛蓄電池は均等充電・電解液比重測定が不要であるなど、保守が極めて簡略化出来るという特徴があるが、使用されている電解液の量が少なめである為、周囲温度の影響を受けやすく、特に高い温度条件の下では極めて短寿命になることがある。用途としては無停電電源装置が主である。オートバイに使用される例も多い。
[編集] 劣化現象
放電した鉛蓄電池を放置すると、負極板表面に硫酸鉛の硬い結晶が発生しやすくなる。 この現象はサルフェーション(白色硫酸鉛化)と呼ばれる。 負極板の海綿状鉛は上述のサルフェーションによってすき間が埋まり、表面積が低下する。 硫酸鉛は電気を通さず抵抗となる上に、こうした硬い結晶は溶解度が低く、一度析出すると充放電のサイクルに戻ることができないので、サルフェーションの起きた鉛蓄電池は十分な充放電が行えなくなり、進行すると使用に堪えなくなる。
一方、正極板の二酸化鉛は使用していくにつれて徐々にはがれていく。 これを脱落と呼び、反応効率低下の原因となる。
鉛蓄電池が使用できなくなるのは、これらの電極劣化による容量低下が主な原因である。 鉛蓄電池は過放電を避け常にフル充電に近い状態におく運用が望ましい。 また、一般的に鉛蓄電池は深い充放電に弱い傾向があり、そのような使い方をすると数回程度の使用で使用不能に陥るおそれもある。 自動車の場合、整備事業者の間では車検の時に交換する手法がとられている。
空になるまで放電させる用途のために電極を改良したディープサイクルバッテリーも存在する。
[編集] 廃棄処分
鉛蓄電池は人体や環境に有害な鉛や硫酸分を含んでおり、廃バッテリーは一般の廃棄物として捨てることができない。このため、電池工業会と各電池メーカーを中心に交換用のバッテリーを販売した店が廃バッテリーを下取りするリサイクル制度が整備されている。無店舗販売のルートより購入する場合には、廃バッテリーの適正な処分方法を考慮しなければならない。廃バッテリーは、大きく分けて鉛・プラスチック・硫酸に分けられるが、硫酸以外は資源として価値が高い為に、業者間では有価物として取引されている。また、中国などへ輸出する業者も存在するが、バーゼル条約に抵触する可能性もあり、もし違反になれば排出者も罰せられる場合がある。 以上のことから鉛蓄電池を処分する時には慎重にならなくてはいけない。
[編集] バッテリー添加剤
機能が低下したバッテリーの回復を目的とした添加剤がカー用品店で出回っているが、その多くはサルフェーションの発生・抑制を図るという予防的なものであり、すでに機能が失われたバッテリーを復活させる目的のものではない。 バッテリー上がりの応急措置としての効果もないことから注意が必要である。
[編集] 主な鉛蓄電池メーカー
- ジーエス・ユアサ コーポレーション
- 古河電池
- 新神戸電機(日立ブランド)
- パナソニック ストレージバッテリー
- ACdelco(エーシーデルコ。世界最大のバッテリーメーカー、GMが供給するバッテリー)
- Gill Batteries