電磁ポテンシャル
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電磁場を作り出すスカラーポテンシャルφとベクトルポテンシャルAを合わせて電磁ポテンシャルという。
静的な場合スカラーポテンシャルは静電ポテンシャルとも呼ばれる。ベクトルポテンシャルは真空中におけるマクスウェルの方程式(微分形式)に初期段階では含まれていたが、その後ヘルツによって消去された。ベクトルポテンシャルは長らく計算上便宜的に導入されたものと思われてきたが、アハロノフ=ボーム効果により物理的な意味を持つ量であることが示された。
四元ベクトルとして表せば以下のようになる。
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[編集] 真空中におけるマクスウェルの方程式(微分形式)
第一の組は、マクスウェル自身の原著論文『電磁場の動力学的理論』や原著教科書『電気磁気論』では、
: (0a)
: (0b)
であったが、ヘルツによって電磁ポテンシャルが消去され、上記の二式は
: (1a)
: (1b)
によってとって代わられた。このヘルツによる電磁ポテンシャルの消去後のものを、マクスウェルの方程式とみなすのが、現在の主流の解釈となっている。 そのため、(0a)と(0b)は、以後電磁場の定義式とみなされるようになった。
第二の組は、
: (2a)
: (2b)
真空中では、D = ε0 E、μ0 H = Bの関係があるので
: (2a')
: (2b')
これに(0a),(0b)を代入すると、
: (2a)
: (2b)
四元ベクトルで書くと、
[編集] 静的な場のポテンシャル
電磁場が静的な場合には、それぞれの方程式から時間微分の項が消えるので方程式が簡単になる。
: (0a)
: (2a)
: (0b)
: (2b)
静的な場の方程式は、電場と磁場についてそれぞれ独立な式になる。
と言う条件を付け加えると(2b)は
となり、スカラーポテンシャル、ベクトルポテンシャル共にポアソン方程式の形になる。
積分で表すとゲージの不定性を除いて以下のように書ける。
但し、積分領域としては電荷密度、電流密度が存在する範囲全てである。
この方法を用いてポテンシャルを求める場合には、電荷・電流密度の全領域における分布を知る必要がある。(境界条件など、他の条件がある場合にはこの限りではない。)
[編集] ゲージ変換
電磁場は電磁ポテンシャルの一階の微分方程式で表されるので、その分電磁ポテンシャルにゲージの不定性が生じる。
任意のスカラー関数u(x,t)に対し、
となるので、
として式(0b)に入れると、
となり、方程式の形は変わらない。さらに式(0a)にも入れると、
ここで
とすると方程式の形は変わらない。
とする変換をゲージ変換と言う。この変換に対して電磁場は不変である。
四元ポテンシャルAμで表せば以下のようになる。
スカラーポテンシャルは常にゲージ変換によって φ = 0 とすることが可能である。 しかしベクトルポテンシャルは一般には A = 0 とすることは不可能である。
[編集] ローレンツゲージ
ゲージ変換によって以下の式を満たすような電磁ポテンシャルを作ることが可能である。
(ローレンツ条件)
この条件式を満たす電磁ポテンシャルを用いてマクスウェルの方程式を書き換えると、以下の非斉次の波動方程式が得られる。
また、ローレンツゲージは、四元ベクトルで書くと、
(ローレンツ条件)
であり、ローレンツ変換に対して不変な形になっている。
[編集] クーロンゲージ
この条件式を満たす電磁ポテンシャルを用いてマクスウェルの方程式を書き換えると、
クーロンポテンシャルは静電場の場合と同様のポアソン方程式を満たす。
[編集] 放射ゲージ
電荷密度、電流密度がともに0の場合、
を同時に満たすゲージを選ぶことが可能である。 このゲージはローレンツゲージであり、かつ、クーロンゲージである。 このとき、電磁ポテンシャルの満たすべき方程式は、
である。 波動方程式の解として
を考える。但し、 c2k2 = ω2 である。 すると、
従ってベクトルポテンシャルは波の進行方向(k の方向)と直交している。 さらにこのとき、電磁場は、
である。電場の方向はベクトルポテンシャルと平行なので、やはり波の進行方向と直交している。磁場の方向は電場の方向と波の進行方向の両方に直交している。 電磁波は電場と磁場が互いに直交して進む横波である。
[編集] 関連語句
- マクスウェルの方程式
- ゲージ変換
- ゲージ不変性
- 電磁場
- アハロノフ=ボーム効果