順序体
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数学において、順序体(じゅんじょたい)とは大小関係とそれに両立する体の演算を持つ数学的構造のことである。
順序体の標数は必ず 0 である。すなわち、必ず有理数全体の成す体 Q (に同型な体)を素体として含む。
実数全体の成す体 R は通常の大小関係に関して順序体である。これと対照的に、複素数全体の成す体 C にはどのような順序を導入しても順序体にすることができない。このことを日本の教育数学では 「複素数には大小関係を定義できない 」 と教える。順序自体は C を R2 と見て辞書式順序を入れたり、絶対値の大小関係で入れたりすることが可能であるから、その真意を誤解する高校生も少なくはないようである。
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[編集] 定義
(K, +, ×, ≤) (さらに正確を期すならば (K, +, 0, ×, 1, ≤))が順序体であるとは、(K, +, ×) は体、(K, ≤) は順序集合であって、さらに以下の条件を満たすときに言う。
- a ≤ b かつ c ≤ d ならば a + c ≤ b + d 。
- a ≤ b ならば -b ≤ -a 。
- 0 < a かつ 0 < b ならば 0 < ab 。
構造について紛れの無い場合 (K, +, ×, ≤) が順序体であるという代わりに、単に K が順序体であると言うことも多い。
順序体 K が次の条件
- ε > 0, L > 0 を任意にとるとき、nε > L を満たす自然数 n が存在する。
を満たすとき、アルキメデス的であるあるいはアルキメデス順序体であるなどという。また、この条件をアルキメデスの原則あるいはアルキメデスの公理とよぶ。アルキメデスの公理における ε はいくらでも小さく、そして L はいくらでも大きくとって構わない。なお、特にアルキメデス的でない順序体を指すときは非アルキメデス的という。
[編集] 例
- 有理数全体の成す体 Q は、通常の大小関係による順序と四則演算に関してアルキメデス的順序体である。また、(同型の違いを除いて)最小の順序体でもある。
- 実数全体の成す体 R は、通常の大小関係による順序と四則演算に関して、アルキメデス順序体である。R は距離空間として完備なアルキメデス的順序体として特徴付けられる。
[編集] 実体と順序体
K が順序体ならば、K の有限個の元の平方和は -1 にはならない。すなわち、
- a12 + a22 + … +an2 = -1
となるような n ∈ N, a1, a2, ..., an ∈ K は存在しない。 このような性質を持つ体を実体(じつたい)という。逆に、実体に適当な順序を導入すると順序体が得られる。
実体 K が、K の代数拡大体 L で実体となるものを持たないとき、K は実閉であるとか実閉体とかいう。実閉体を順序体にする順序は唯一通りにきまり、その構造は順序体の同型を除いて一意的に決まる。
順序体 K に対し、K を含む実閉体 L で L の順序が K のそれの拡張であるようなものになっているとき、L を K の実閉包と呼ぶ。順序体の実閉包は順序同型の違いを除いて一意的に存在する。
Q は順序体である。Q の全ての正の元(つまり正の有理数)の全ての(正の)平方根を付け加えて得られる体は実体である。また、Q の実閉包は R である。
順序体 K が条件
- 0 < a ならば a = b2 となる b ∈ K がある。
- K 上奇数次の一変数多項式は K に少なくとも一つの根をもつ。
を満たすならば、K は実閉体であり、その拡大体 K(√-1) は代数閉体である。
R はこの条件を満たし、C = R(√-1) であるから、このことは R と C の関係の一般化である。
[編集] 定理
Rを順序体とすると次の各条件は同値である。
- Rは実閉体である。
- Rは極大順序体である。
- Rは極大実体である。
[編集] 関連項目
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