YAMAHA VL/VPシリーズ
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YAMAHA VL/VPシリーズ(ヤマハ・ブイエル・ブイピー・シリーズ)とはヤマハの物理モデル音源を搭載したシンセサイザーの型番・商品名。
[編集] 概要
物理モデル音源の先駆けとなったが、VL70-mを除いて非常に高価な機種のため、普及しなかった。VL/VPシリーズは後のEXシリーズとは異なり、物理モデル音源のみ搭載の機種のため、このVL/VPシリーズのシンセサイザー1台でカラオケMIDIデータの作成、再生はできず、もちろんシーケンサーを搭載していない。他のPCM音源のシンセサイザーと並べて、管楽器や架空楽器のパートをこの機種で演奏する、またはバンドの中のソロ演奏用のリードシンセとして利用するという使い方をする。
[編集] シリーズのモデル
- VL1
- 1993年発売。定価470.000円。音源方式:S/VA(Self oscillation type/VA Synthesis system) 49key。同時発音数2音。インターナルのボイスメモリー128。物理モデル音源第1号機。木目パネルを採用し、プロユースだけを意識して作られたシンセサイザーとしての風格を醸し出している。鍵盤左側に設置されている3つのホイールや、スライダー、フットペダル等を多用して時間変化のある音色を再現可能としている。管楽器のシミュレートや架空楽器の創造が得意であり、ピアノ音の再生は不得手としている。後にマルチティンバー化(といっても2パートだが)と物理モデルのアルゴリズム強化のため、Version2へのアップデートが行われた。
- S/VA(Self oscillation type/VA Synthesis system)とは管楽器や擦弦楽器をコンピュータ上で模した基本モデルに、プレッシャーという力を加えることで振動を生み出して発音するタイプの物理モデル音源である。従って、プレッシャーをかけている間は音が鳴り続けるが、プレッシャーをかけるのをやめると同時に音は消える。具体例を挙げれば、弦に弓を押しつける力をかけることで弦の振動を生み出して音を作り出すのである。自然楽器以上の表現力と生っぽさを基本として新しい音を追求した音源方式であると言えよう。
- VL7
- 1994年に発売されたVL1の廉価版。定価300.000円。音源方式:S/VA(Self oscillation type/VA Synthesis system) 49key。同時発音数1音。インターナルのボイスメモリー64。VL1同様後にVersion2へのアップデートが行われた。VL1の下位互換性を確保し、VL1で2エレメントを使う音色ではそのうち片方を呼び出してVL7では演奏できるようになっている。またVL1では木目パネルであった部分が牛皮をイメージしたラバサン塗装に変更されている。VL1に比べて価格が2/3以下に抑えられたが、これでも価格が高く、VL音源の普及とは程遠かった。ブレスコントローラーを吹かないと音が出ないプリセットボイスがVL1は多かったが、鍵盤演奏だけで音色変化が楽しめるノーブレスボイスが用意されている。
- VL1-m
- 1994年に発売されたVL1の音源モジュール版。音源方式:S/VA(Self oscillation type/VA Synthesis system) 3Uフルラックサイズ。定価300.000円。同時発音数2音。インターナルのボイスメモリー128。VL1同様、後にVersion2へのアップデートが行われた。プリセットボイスはVL1とは差し替えられており、また、同梱のFDにはVL1のプリセットボイスが収められており、それを呼び出して使うことも可能である。主な特長として、ブレスコントローラーの端子を備えていること、そしてWX11のようにリップによるピッチベンドの幅が固定されているコントローラーに対して、VL1-mの側でピッチベンドの幅を広げるためのパラメーターであるWXリップモードを搭載していることが挙げられる。またVL7で用意されたノーブレスボイスもVL1-mでもプリセットされている。また付属のディスクの中に、ウィンドコントローラー用にカスタマイズされた32のボイスが入っており、WX7やWX11といったウィンドコントローラーを使っているユーザーへ間口を広げている。
- VL70-m
- 1996年発売。定価58000円(税抜)。ハーフラックサイズ音源モジュール。音源方式:S/VA方式(Self oscillation type/VA Synthesis System)最大同時発音数:1音 音色数:プリセット256ボイス(137VL-XGボイス含む)+ユーザー64ボイス+カスタム6ボイス エフェクト:リバーブ×12、コーラス×10、バリエーション×44、ディストーション×3
- 前述のVL1-mの廉価版として登場。約1/5の価格を実現し、物理モデル音源を身近にしたモデルである。WX5を直接つなげるWXイン端子、パソコンと直結できるTO HOST端子を装備。VL1-mの時にあったウィンドコントローラー用の音源モジュールとしての用途を進化させる一方で、PCとの連携も視野に入れている。:ボリュームやエフェクトなどのXGコントロール情報の受信し、バンクセレクトを受信して指定したXGバリエーション音色での演奏可能なVL-XGモードと呼ばれるXGの拡張性に準拠した演奏モードもあり、VL70-m用の演奏パートをXG音源で鳴らさないように設定可能。後にMUシリーズやSシリーズ、MOTIFシリーズのプラグインボードとして発売されたPLG150-VLはこれとほぼ同じ機能を持っている。2005年現在現行機種。
- VP1
- 1994年発売。定価270万円。小室哲哉など一部のキーボーディストが利用した正真正銘のプロユースを目的としたシンセサイザー。76key。16音ポリ。F/VA(Free oscillatiom type/VA)方式を採用。VL1の何倍もの音源チップとCPUによって16音ポリフォニックを実現し、4エレメント構成のボイスでも和音で演奏できるようにしている。このため放熱が大変だったらしい。同じ物理モデル音源だが、VL1とはシミュレートする楽器が異なるため音源方式がF/VAと区別されており、VL1、VL7の16音ポリフォニックモデルではないとされている。10台程しか製造されず、この機種は270万円で売れてもヤマハにとっては台数が売れれば売れるほど赤字が膨らんでいくという伝説がある。ヤマハの技術力を世間にアピールするために作られたモデルと言われ、その点ではDX1と相通ずるものが伺える。S/VA音源方式はEX5など後の機種にも採用され、ソフト音源ではポリフォニック化が試みられたが、F/VA音源方式はこのVP1のみであり、2005年現在までこの方式を採用した後継機種は発売されていない。
- F/VA(Free oscillation type/VA Synthesis system)では、2つの異なった基本モデルを搭載しており、1つは、弦をはじいたり、たたいたりといった演奏を行うギターやベース、パーカッションなど撥弦楽器の基本モデル、もう1つは、弦をこする演奏を行うバイオリンやチェロなど擦弦楽器の基本モデル、この2つの基本モデルの結合してF/VA音源は構成されている。F/VA音源では弦を弓で実際にこすることで弦の振動を生み出している。F/VA音源の特長として、コントローラーによって音源内部の物理モデルをコントロールできる自由度の高さがあり、それはS/VA音源方式を遙かに凌駕するものという。F/VA音源は自然楽器の構造をベースにしながら、リアルタイムに仮想楽器の材質・構造を変化させることによる自然界ではありえない複雑な音色変化を目指していると言えよう。