キャメルバック式蒸気機関車
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キャメルバック式蒸気機関車は、アメリカ合衆国で開発、使用された蒸気機関車の一種。
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[編集] 概要
キャメルバック式蒸気機関車の運転台は、車体の中央部に、ボイラーにまたがる形で置かれている。これは、機関士の前方視界を確保するためである。キャメルバック式蒸気機関車は、ウーテン式火室(Wootten firebox)を実用化するために考えられた。ウーテン式火室は幅が広く背が高かったことから、普通の蒸気機関車の運転台配置だと、機関士は前方を十分に確認することができなかったためである。アメリカ国外には存在しなかった形式であるが、唯一ベルギーに似た形式の機関車が存在した。ちなみに、「キャメルバック」とは「ラクダの背中」という意味で、「マザー・ハバード」や「センターキャブ(中央運転台)機関車」などと呼ばれることもあった。極めて初期のものは「マッドディガーズ(泥を掘り起こす物)」と呼ばれた。
[編集] 開発に到った経緯
ウーテン式火室の開発者は、ジョン・E・ウーテン(John E. Wootten)である。ウーテンは、1866年からフィラデルフィア・レディング鉄道(Philadelphia and Reading Railroad)の動力車部門の最高責任者の地位にあった。1876年からは総支配人となった(この鉄道は、のちにレディング鉄道と呼ばれるようになった)。
ウーテン式火室は、細かく砕かれた無煙炭を燃やすのに適している。この無煙炭は下等無煙炭や無煙炭廃棄物とも呼ばれ、この機関車が登場する以前は、商業的に価値がなく、値段も非常に安かった。
ウーテンは、積み上げられた無煙炭の山を見て考えた。もしこの無煙炭をうまく燃やすことができる火室を作ることができたら、どんなに良いだろう。無煙炭は有り余っているのだし、値段も非常に安いのだから。そして、いくつかの実験を経てウーテンは、広くて大きな火室を用いて、炭の層を薄くし、穏やかな通風でゆっくり燃焼させるのが最良の方法であると結論を出した。
当時の蒸気機関車の火室は、左右に二つあるフレームの間に収めるために細くて長い形をしていた(火室を従輪で支える方法は、まだ開発されていなかった)。そこでウーテンは、必要とされる巨大な火室を、動輪の真上に置いた。ところが、ここで問題が起きた。ウーテン式火室はたいへん大きく、今までの機関車のように運転台をテンダーの床と同じ高さに配置すると、機関士はまったく前方を見ることができなくなってしまうのだ。
それを解決するために、キャメルバック式蒸気機関車では、機関士が乗務する運転台はボイラーをまたぐ形で置かれた。一方、石炭をくべる機関助士は、ボイラーの後部にほとんどむき出しの状態で乗務することになった。
[編集] 実用化
最初に作られたキャメルバック式蒸気機関車は 4-6-0 型で、1877年の始めに、フィラデルフィア・レディング鉄道のレディング・ペンシルベニア工場で作られた。結果は成功だった。燃料にかかる費用を年間2000ドル節約できた。現在の(訳注:2005年の)貨幣価値で換算すると、約30000ドルにあたる。
その後、無煙炭を産出する地方のさまざまな鉄道でキャメルバック機関車は作られた。それ以外の地方でも作られたし、4-6-0以外の車軸配置のものも作られた。最も大きなものは間接式の構造を持ち、車輪配置は0-8-8-0であった(一番上の写真を参照)。
[編集] 問題
ウーテン式火室のついた蒸気機関車は、調子が良く馬力があった。無煙炭はほとんど煙を出さないから、旅客列車を引くのにも適しており、多くのキャメルバックが旅客用に使用された。ところが、ここで安全上の問題が起こってくる。
キャメルバックは、乗務員にとってはあまり安全な機関車とは言えなかったのだ。運転台はちょうどサイドロッドの真上に位置しているので、もしロッドまわりで何か問題が生じ、破損するような事故が起こったら、破損した部品などが機関士のところへ飛んでくるかもしれない。機関助士は機関助士で、保護してくれる壁も何も無く、ボイラーの後部でむき出しの状態でいなくてはならない。
1927年、州間通商委員会はキャメルバック型蒸気機関車の製造を禁止した(すでに計画済みのものの増備は例外的に認められた)。その後、たくさんのキャメルバックが、普通型の機関車に改造された。動力でボイラーに給炭する装置(ストーカーと呼ばれる)が開発され、このストーカーを収めるために運転台やテンダーの床の位置が高くなり、機関士は大きな火室越しにでも前方視界を確保できるようになったことも理由のひとつである。
[編集] 保存機
約3000台のキャメルバックが作られたが、現在でも保存されているのは3台だけである。
- セントラル・ニュージャージ鉄道(Central of New Jersey)の 4-4-2 型が、メリーランド州ボルティモアにあるボルティモア&オハイオ博物館(Baltimore and Ohio Museum )にある。
- デラウェア・ラッカワナ&ウェスタン鉄道(Delaware, Lackawanna and Western)道の 4-4-0 型が ミズーリ州セントルイスのアメリカ交通博物館(National Transportation Museum)にある。
- レディング鉄道(Reading Railroad)の 0-4-0 型が、ペンシルベニア州ストラスバーグのペンシルベニア鉄道博物館(Railroad Museum of Pennsylvania in Strasburg)にある。
[編集] 保有鉄道会社(英語リンク)
- アチソン・トプカ&サンタフェ鉄道
- ボルティモア・アンド・オハイオ鉄道
- セントラル・ニュージャージー鉄道
- シカゴ&イースタンイリノイ鉄道
- シカゴ&インディアナコール鉄道
- デラウェア&ハドソン鉄道
- デラウェア・ラッカワナ&ウェスタン鉄道
- エリー鉄道
- リーハイ&ハドソンリバー鉄道
- リーハイ&ニューイングランド鉄道
- リーハイ・ヴァレー鉄道
- ロングアイランド鉄道
- メインセントラル鉄道
- ミズーリ・カンサス・テキサス鉄道
- ナッシュビル・チャタヌーガ&セントルイス鉄道
- ニューヨーク・オンタリオ&ウェスターン鉄道
- ニューヨーク・サスケハナ&ウェスターン鉄道
- ペンシルヴェニア鉄道
- レディング鉄道
- スタッテン島高速鉄道
- サザンパシフィック鉄道
- ユニオンパシフィック鉄道
- ウィーリング&エリー湖鉄道
[編集] 参考文献
- Barris, Wes. Camelback Locomotives. Retrieved from http://www.steamlocomotive.com/camelback/ on 2004-12-10.