トリクルダウン理論
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
トリクルダウン理論(trickle-down theory)とは、富める者が富めば、貧しい者にも自然に富が浸透(トリクルダウン)するという経済理論あるいは経済思想である。
トリクルダウン(trickle down)とは徐々に流れ落ちるという意味で、政府のお金を公共事業や福祉などで国民(特に低所得層)に直接配分するのではなく、大企業や富裕層の経済活動を活性化させることによって、富が低所得層に向かって徐々に流れ落ち、国民全体の利益となることを示したものである。日本においても、所得税の最高税率を引き下げる時に、この考え方を根拠として用いている。
トリクルダウン理論は、サプライサイド経済学の代表的な主張の一つであり、この学説を忠実に実行したレーガン大統領の経済政策、いわゆるレーガノミクス(Reaganomics)について、その批判者と支持者がともに用いた言葉でもある。サプライサイド経済学は実行に移され、実際に経済は回復したが、何が回復原因となったについては議論が続いている。多くの専門家の意見として、連邦準備理事会議長(アメリカの中央銀行総裁)であったヴォルカー(Volcker, P.)はスタグフレーションを解決するために既に正当な政策を始めており、回復要因はこの金融政策にあったと見ている。また、レーガンの経済顧問を務めたストックマン(Stockman, D.)は後に、サプライサイド経済学やトリクルダウン理論はレトリックだったと述べている。
トリクルダウン理論の発想の原点は、マンデヴィル(Mandeville, B.)の主著『蜂の寓話:私悪すなわち公益』 (1714)に求めることができる。この本の副題「私悪は公益」("private vices, publick benefits”)は、資本主義社会の本質を端的に示す言葉として有名である。私悪とは利己心のことである。利己心にもとづく各個人の行動が、結果的に(個人が意図したわけではないのに)全体の利益(公益)をもたらすという考え方である。この考え方は、レッセフェール(自由放任主義)につながるものであり、アダム・スミスなど古典派経済学の経済学者に大きな影響を与えた。