バイリンガルろう教育
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バイリンガルろう教育(バイリンガルろうきょういく)とは、ろう児に教える言語で、手話と書記言語の2つの言語を同時に習得させる教育法である。ろう教育関係者・聴覚障害者の間ではバイリンガル教育法とも言う。この場合では、通常用いられる「バイリンガル教育法」とは意味が多少異なる。
日本のろう児では、「話し言葉」では日本手話(JSL)を身につけさせ、「書き言葉」として、書記日本語を教える。日本手話はろう児にとって自然な言語で、聴者の赤ん坊が両親や周りが話している音声言語(日本語)を聞いて覚えるように、ろう児の赤ん坊も周りが使用している日本手話を見て、覚えることと同じである。そうして話し言葉としての日本手話を身に付けたろう児に書き言葉として書記日本語を教えるのである。このとき、日本手話を使用して、日本手話で表される手話を日本語の単語と意味をつなげて理解させる。
例えば、ろう児に「イチゴ」という手話・「概念」を習得させた後に「イチゴ」という概念を書記日本語である「苺」という「文字」と同一しているのだ、という認識を持たせることが出来る。ろう児は視覚的に情報を得て、イチゴと言う物体がどういったものであるか、果物で甘くて、赤いもの、という概念を手話を通じて・自分の目を通じてそういった情報を得るだろう。それを踏まえた上で書記日本語である「苺」という文字の概念を知ることが出来る、ということになる。
こうしてろう児は自分の言語を確実に確立させて、ここから「ろう」というアイデンティティを持ったり、デフ・コミュニティや聴者の世界、文化に触れることが出来るようになるのである。
バイリンガルろう教育が2つの言語を習得させることに対して、「バイカルチュラルろう教育」というのがあるが、これは2つの「文化」を習得させることを目的としている。ここではろう児にろう文化と聴文化を習得させるものだ。ろう児は日本手話を通じてろう文化を習得するが、それだけでは聴者が圧倒的に占めるこの世界ではうまく生きていけないだろう。そのために2次的な文化として、聴文化を習得させることが必須である。これによって、ろう児はろう社会でも聴社会でも円滑なコミュニケーションを取ることができる。ろう教育関係者・聴覚障害者の間ではバイカルチュラル教育法とも言う。