フロリゲン
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フロリゲン(florigen)とは植物において花芽形成を誘導するシグナル物質として提唱された植物ホルモン(様物質)である。別名花成ホルモンともいわれる一方、提唱されてから現在に至るまでその存在が確認されていないことから幻の植物ホルモンともいわれることもある。
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[編集] 研究の歴史
1920年にガーナー(Garner)とアラード(Allard)により花芽形成は日長に支配される(光周性)ことが発見される。1937年にはチャイラヒャン(Chailakhyan)により日長を感知するのは葉であることが発見された。花芽が形成されるのは茎頂であることからチャイラヒャンは葉から茎頂へ日長の情報を伝達するホルモン様物質が存在すると考え、フロリゲン(花成ホルモン)説を提唱した。
その後接木実験などにより、葉で日長が受容されることでフロリゲンが作られ、師管を通って茎頂の成長点に運ばれた後花芽形成を促すことがわかり、これは長日植物と短日植物、中性植物など異なる種で接木した場合でも確認された。このことからフロリゲンの存在がいっそう裏付けられ、また種によって特異的な物質ではないことが示唆されていた。
フロリゲンはその名が提唱されてから70年間にわたり研究が続けられているが、その実体は未だ明らかにされていない。
[編集] FT遺伝子
現在フロリゲンの候補として最も有力なのが1999年に京都大学の荒木らによってシロイヌナズナで発見されたFT遺伝子である。 2005年にはFT遺伝子と相互作用するFD遺伝子が新たに発見され(Science 309. 1052-1056 (2005))、FT遺伝子が花芽形成において重要な役割を示すことが確認された。この研究結果によると、花成のメカニズムは以下の通りである。
- 日照条件が変わると、維管束細胞でFT遺伝子が発現し、FTタンパク質が作られる。
- FTタンパク質は茎頂に運ばれ、FDタンパク質と複合体を形成する。
- 複合体が AP1(APETALA1)遺伝子の転写誘導をし、花芽形成が開始する。
上記の研究においてフロリゲンはFT遺伝子をもとに合成されるFTタンパク質とされたが、フロリゲンの正体はmRNAであるという研究結果も得られており、今後の研究の進展が待たれる。