亜急性硬化性全脳炎
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亜急性硬化性全脳炎(あきゅうせいこうかせいぜんのうえん、SSPE)は小児の重症な進行性中枢神経疾患で遅発性ウイルス感染症の1つ。9割以上が14歳以下で発症する。麻疹の既往が90%、ワクチン接種が5%に先行する。潜伏期間は2-10年、発生頻度は10万に1.7人程度である。
性格変化、知能低下、不随意運動、けいれん、起立歩行障害などで発病する。発病後数年以内に死亡する。脳脊髄液の麻疹ウイルス抗体が増加する。
インターフェロン治療、けいれん治療、理学療法などが行われるが、根治的な治療はない。
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[編集] 歴史
1933年、J.R.Dawsonは光学顕微鏡による観察で、脳の神経細胞の障害と亜急性の炎症反応および封入体を初めて記載した。1963年に、M.C.Bouteilleが電子顕微鏡で封入体にウイルスをとらえている。1969年に感染組織から麻疹ウイルスの培養に成功した。変異した麻疹ウイルス(核酸の分子量600万、直径0.2μ)が病原体で、細胞外でしめすウイルス形態(Virion)になれず、細胞外では感染力が弱いことが明らかになった。1975年に微研のUedaらが、SSPEの組織と胎児肺の細胞を同時に培養すると、細胞同士を融合させながら増殖するBiken株を見出した。治療研究が精力的に進められている。
[編集] 感染メカニズムの概略
この疾患では、Biken株の培養条件と同様に、神経系でも隣接する細胞と融合して、ウイルスが移動し感染範囲を拡大すると考えられている。対して通常のウイルスは、Virionの形態に変化して細胞外にて拡散するため、急速に感染範囲を拡大する。
SSPEはウイルス感染症が一般にもつ潜伏期間、発症するのに十分な量まで増殖する期間、が極端に長い疾患である。これにたいし進行性多巣性白質脳症PMLも遅発性ウイルス感染症であるが、免疫が増殖を抑えていることで、潜伏期間が長い。
[編集] 参考文献
- 矢田ら編 『今日の小児治療指針 第14版』 医学書院。
- 植竹久雄編 『ウイルス学 第3版』 理工学社。
- Ueda, S. et al. (1975). "Subacute sclerosing panencephalitis (SSPE): Isolation of a defective variant of measles virus from brain obtained at autopsy." Biken J. 18 (2): 113-122. PMID 1180868.