外断熱工法
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外断熱工法(そとだんねつこうほう)とは、躯体の外側に断熱材を配置する断熱工法である。欧米では、コンクリート建造物の標準的な断熱工法としてドイツ・北欧を中心にオイルショックを機に数十年も前から使用されていた。日本では内断熱工法が標準的に使用されてきたが、近年外断熱工法への注目が高まっている。
建物(コンクリート構造物)の外側を断熱材で覆うので、建物の躯体が室温と同調し、以下の利点があるといわれている。
- 室内に結露が発生せず、カビ・ダニの被害が抑えられる(アレルギー予防)。
- 外気温変動による躯体の膨張収縮が少なく、耐久性が高い(環境低負荷・高資産価値)。
- 高い熱容量を持つ躯体(特にコンクリート建造物では顕著)が断熱材の内側に置かれるため、室温の変動が抑えられ冷暖房の効率が良い。(省エネルギー効果)
- 建物内部(部屋間)の温度差が少なく、ヒートショック現象が起こりにくい。
なお、外断熱工法という場合、マンション等のRC(鉄筋コンクリート)構造の外断熱工法と木造を中心とする戸建て住宅の外張り断熱工法の両方を含めることもあるが、この二つは本来別物であり、ここで外断熱工法と呼ぶものはRC構造やメーソンリー構造など熱容量の大きい建物に限定する。
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[編集] 外断熱工法の種類
外断熱工法には大別して2種類の工法がある。
- 湿式工法 - コンクリート躯体にある程度透湿抵抗を持つポリスチレン等の断熱材を密着させ、両者の間に通気層を設けない工法。外断熱先進国のドイツで最も採用され、実績を上げている。シュトー工法など。湿式工法の場合、コンクリートを通過して室外に流れる水蒸気が断熱材に直接触れるため、水蒸気の通り道で凍結が起きる場合には凍害などにより耐久性に問題が発生する可能性がある。乾式工法に比べて夏型結露の起きにくい断熱工法である。
- 乾式工法 - コンクリート躯体と防水性グラスウール等の透湿抵抗をほとんど持たない断熱材で密着させずに包み、更にその外側に建物の外壁を設置、躯体と外壁の間に通気層を設ける工法。この場合、コンクリートを通過して室外に流れる水蒸気や外壁と躯体との間に浸透する雨水等を通気層で乾燥させることができるため。ただし、コンクリート躯体から断熱材や建物外壁を支える支柱を多く張り出す構造となるため、躯体本体への施工期間が長く、イニシャルコストが上がる傾向がある。EV外断熱工法など。放射冷却等で外壁表面温度が下がると、自動車の屋根や硝子に霜が下りるように建物内部から浸透した水蒸気が外装材裏側に結露を生じることがある。躯体温度が低いときに外気温度が急上昇するとき夏型結露(逆転結露)が起きやすい工法であり、寒冷地向きと言える。
細かな分類を含むと外断熱工法には30を超える工法が存在する。
[編集] 建物の耐久性
外断熱工法の場合、コンクリート躯体の膨張収縮が少ないため、100年以上の耐久性があるといわれ、高資産価値およびスクラップアンドビルドによる環境負荷の低減効果がある(参考:一般的な内断熱工法のコンクリート住宅の立替周期は40年に満たない)。
[編集] 断熱性能
25mm程度の現場発泡ウレタン断熱材を用いたRC内断熱工法の建物ではQ値が4~7w/m2・K程度(戸建住宅)、2~3w/m2・K程度(集合住宅)で、熱損失の大きい熱橋が存在するためこれ以上Q値を小さくすることは極めて難しい。 外断熱工法では床面積に算入されないコンクリートの外側に断熱材を配置するため断熱材を厚くすることが可能なうえ、内断熱工法に比べて熱橋を極めて少なくでき、戸建住宅ではQ値を1~1.5w/m2・K程度程度に、集合住宅ではQ値を1w/m2・K以下にすることが出来る。
消費エネルギーと建設に必要なエネルギーを考えると、Q値を1以下にするために必要なエネルギー(コスト)とそれによって削減できる空調エネルギー(コスト)が接近してくるので、断熱性能は高いほどいいとは言えない。
本州太平洋岸の気候ではQ値を1.5程度まで下げた後は地中熱や太陽熱を空調に取り入れる方がエネルギー消費を削減できると考えられる。
[編集] 建設コスト
外断熱工法の場合、躯体外側の施工期間の長期化や施工内容の複雑化のため、内断熱工法と比較して建設コストで約2割、土地価格もあわせた販売価格で約1割高くなる。
[編集] 外断熱工法関連団体
- 環境・省エネ外断熱工法推進議員連盟 - 2004年4月1日に発足した超党派の議員連盟。衆参約30名の議員が所属。
- 特定非営利活動法人外断熱推進会議 - 2003年11月17日法人登記。任意団体から特定非営利活動法人としての活動を開始。
- 外断熱懇話会 - 2004年7月13日に発足した業界団体。ディベロッパー、ゼネコン、建材メーカー、コンサルタント等13社で構成。
- 繊維系通気層工法外断熱協会・FVO - 2006年7月11日に発足した外断熱工法の特性認知及び普及拡大を目指す業界団体。開口部・外装材・下地金具・断熱材メーカー等が参加すると共に、大学教授などの学識経験者も参加した産・学一体の団体。