法の支配
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
![]() |
法令情報に関する注意:この項目は特に記述がない限り、日本の法令について解説しています。また最新の法令改正を反映していない場合があります。ご自身が現実に遭遇した事件については法律の専門家にご相談下さい。免責事項もお読み下さい。 |
法の支配(ほうのしはい)とは、何人も法(コモン・ロー)以外のものには支配されず、コモン・ローに違背した制定法は無効である、また全ての国家権力は正義の法に拘束される、という英米系法学の基本的原理である。 国家権力者による恣意的な支配(人の支配)を排斥し、全ての権力を法で拘束することによって、国民の権利・自由を保障することを目的とする。
目次 |
[編集] 歴史
法の支配(ほうのしはい)は16世紀から17世紀にかけてイギリスのエドワード・コークによって確立された法思想である。
A・V・ダイシーは1885年、『イギリス憲法研究序説』の中で法の支配を理論化し、以下の三つの原則を示した。
- 法が国民代表である議会によって作られること。
- 国民にも政府にも平等に適応されること。(政府が国民を一方的に法を用いて拘束することは禁止する。)
- 通常裁判所による救済が確保されていること。
[編集] 内容
現在、法の支配の内容は以下の4つと考えられている。
- 人権の不可侵性 : 個人の人権は永久不可侵であり、それを守るために法の支配という概念がある。
- 憲法の最高法規性 : 法律・政令・省令・条例・規則など各種法規範の中で、憲法は最高の位置を占めるものであり、それに反する全ての法規範は効力を持たない。
- 司法権重視 : 法の支配においては、立法権・行政権などの国家権力に対する抑制手段として、裁判所は極めて重要な役割を果たす。
- 適正手続の保障 : 法内容の適正のみならず、手続きの公正さもまた要求される。この適正手続きの保証(due process of law)は英米法の基本概念の一つであり、法の支配の中核的概念でもある。
[編集] 日本国憲法における法の支配の現われ
日本国憲法においては、人権の不可侵性は第3章で、憲法の最高法規性は第10章で、司法権重視は76条・81条で、適正手続の保障は31条で、それぞれ保障されている。
[編集] 法治主義との関係
法の支配と類似する概念として19世紀にドイツを中心に展開された法治主義がある。
大陸法系の法治主義は、法によって権力を制限しようとする点では法の支配と同じである。
法の支配との相違点として法治主義は、議会が作った法律であれば、その内容の適正を問わず、「悪法も法なり」とするということが挙げられ、このような考え方を特に形式的法治主義と呼ぶ。他方、法の支配の下においては、法律の内容は適正でなければならず、「悪法も法なり」とはしない。
ただし形式的法治主義では国民の権利・自由が法律の根拠という名の下に制限される危険性が強いため、現在では法律の内容の正当性が要求される実質的法治主義の考え方が主流となっている。この場合の実質的法治主義は、法の支配とほぼ同義と言ってよい。