消音器
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消音器(しょうおんき)、サイレンサー (silencer)、マフラー (muffler) 、サプレッサー (Suppressor) とは、発生した音を減らす装置のことである。様々の機器に対応したものが作られている。
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[編集] 原動機における消音器
エンジンの燃焼室からエキゾーストパイプへと排出されるときの排気音などを低減させる装置である。マフラーの一部(マニホールド部などと分割して考えた場合)。通常、市販車に採用されているのは消音器の内部にいくつかの仕切りを設け、排気をジグザグに通していくことで消音する多段膨張式である。経年劣化をしないこと、コストの割に効果が高いこと、基本的にメンテナンスフリーであることが特徴であるが仕切りを通すことによって排気効率が落ち、最大出力が若干(数%)下がるという欠点を持つ。
カー用品店やバイクショップなどの作る社外品マフラーはこの消音器内の仕切りを設けずにストレート構造として排気効率の向上を図っているものが一般的で、消音は排気パイプの中に巻き付けてあるグラスウールが音の圧力波を受けて飛散することによって力を分散させ、音量を下げる仕組みになっている。そのため、この方式では経年使用によるグラスウールの飛散によって消音性能が大きく低下する。また、音と同じく排気熱も分散せずに消音器内を通過するため、グラスウールはその高温に晒されることになる。これもグラスウールの寿命を減少させる要因にもなる。そのため、乗り方によっても異なるが早ければ走行数千~1万キロ前後でウールの交換が必要となる。
また、例外的ではあるが社外品の中にはアメリカのスーパートラップ社製マフラーのように出口に金属製のプレートを組み合わせる事によってエンジン出力特性のセッティング幅を広げ、同時にプレートと排気ガスを共振させて消音し、静かさと性能向上を図れるとうたっている製品もある。
ストレート構造の製品の中には車検対応モデルというものがあるが、これは「新品時に車検を通る」という意味であり、前述のような経年劣化を踏まえたものではない(次回車検のパスを保証するものではない)。メーカーが高性能なスポーツ車であっても例外なく多段膨張式を採用しているのは数回分の車検通過を保障する必要があるからである。
この車検対応モデルが発売されたのはかねてより問題とされてきた爆音オートバイの存在が原因である。爆音オートバイとは
- グラスウールを省略する
- 爆音をまきらす違法マフラーや競技用製品を取り付ける
- 爆音仕様の排気調節式のマフラーを装着している
等、消音対策を無視しているオートバイのことで、これを見かねた業界側の自主規制により「車検対応」モデルが発売されるようになった。
オートバイの場合、自主規制を取り払うことやフルパワー化のためにマフラーを交換する場合がある。自主規制は小排気量車と一部の大排気量車に課せられているもので、かつて販売されていたオートバイの中には排気管を極端に絞ることによって自主規制値をオーバーしないようにしたモデルもあったため、マフラーを社外品に交換して性能を上げるという手段が用いられた。対してフルパワー化は主に国内仕様車と海外仕様車が存在するオートバイの場合に用いられる言葉である。国内仕様車は馬力を自主規制値に適合させる工夫の一つとして同じくサイレンサーの口径を絞っているものがあり、それを取り払うことで海外仕様車と同様のオートバイに仕立て上げることができたのである。もっとも、フルパワー化に関しては一連の交換部品の一つとしてマフラーが挙げられている場合が多い。
現在ではエンジンの出力特性を調整したり、純正部品との排気音の違いを堪能したり、排気口の大きさを強調する(外観を良くする)目的でマフラーを交換する場合の方が多い。パワーアップ効果が以前より薄れていることもあるが、速さを求めなくとも今のオートバイは十分に速いと感じているユーザーが多いことも関係している。また、エキゾーストは純正部品を用いてサイレンサー、またはサイレンサーとエキゾーストを繋ぐジョイントパイプだけを交換する製品をスリップオンといい、エキゾーストを含めた排気系統すべてのパーツを交換するマフラーをフルエキゾーストと言う。特に注目されやすいのは使われている素材で、カーボンやチタンなど、軽量に仕上がり、外観で素材がわかりやすいものが脚光をあびている。ただし、このような材料をふんだんに用いた製品は原材料や製造コストが高価なため、製品も高価になりがちなのが欠点である。実際、フルエキゾーストの場合、原動機付自転車の本体価格と同等かそれを上回ってしまう。
自動車(四輪車)の世界では主にオートバイと同じように出力を上げる目的で交換する場合と、ドレスアップの目的で交換する場合がある。出力を上げる場合には特にターボ付きエンジンのマフラーを交換すると手軽に大幅なパワーアップが見込めるために、チューニングの第一歩としてマフラーの交換を選ぶことが多い。自然吸気エンジンの場合は、エンジン本体に手を入れない限り、誤差の範囲でしか性能は変わらない。そのため、トルク特性がよくなる、などと評される場合が多い。 最近では、オートバイと同じように出力と静音性の両立を売りにするメーカーが多くなっている。ドレスアップの場合には古くは暴走族が付けていた「竹やりマフラー」などに始まり、現在では大口径な物や見た目の派手さとデザインが選ぶ条件になっている。どちらの場合でも、材質は加工がしやすく安価なステンレスが主流である。加工がしにくく高価だが、ステンレスよりも軽量なチタンの人気も高い。中にはチタンよりも高価なインコネルを使用している製品もある。
なお、一般に誤解される事が多い点として、消音効果が高くなるにつれ最高出力(あるいはトルク)が低下さるということが挙げられる。しかしこれらの相関は上述のとおり、構造や組成によるものであるため、カタログデータでは推し量れない部分である。 また、レースカーの場合はエンジンの構造がレギュレーションで規制されるため、出力の向上は吸排気系の能力やエンジンの回転域特性を犠牲にしている場合が多いとされる。
[編集] 銃火器における消音器
拳銃などの先端に取付けられ、発射音を減少させる装置。
日本ではこの種の装置を一般的に「サウンド・サイレンサー(消音器)」、略して「サイレンサー」と呼ぶが、現実には銃声を完全に消す装置は存在しないため、不適切な呼称である。アメリカではNFAウェポンのクラス3のカテゴリーに登録すると合法的に「サウンド・サプレッサー(減音器)」が持てるが、これは減音器であり消音器ではない。以降の説明では「サプレッサー」表記を使用する。
サプレッサーには大きく分けて、銃に内蔵される「インテグラルタイプ」と、後付となる「マズルタイプ」の2種類が存在する。本項では、特に断らない限りマズルタイプについて述べる。また、リボルバー(回転式拳銃)はガスシール構造の物(ナガンM1895など)を除き、銃口以外にも隙間があり、そこから発射ガスが漏れるために、サプレッサーを使用してもほとんど効果は望めない。
サプレッサーの原理は、弾丸の発射に伴い、バレル内で圧縮された火薬の燃焼ガスが銃口から一気に開放される際に発生する甲高い破裂音を軽減するため、銃口に多数の細かな空気室を設け、徐々に気圧を拡散、開放させるというものである。この材料としては、グラスウールなどを使う。古いモデルでは、「ワイプ」という、中心に切れ目の入ったシャッターを内部に持つものもあったが、ワイプを潜り抜けながら弾丸が発射されるため寿命が短く、命中精度も大幅に悪化していた。また、アメリカでは、サプレッサーのメンテナンスにはBATFEの許可を取ってから修理に出す必要があり、ワイプ式サプレッサーを使うと、「数発撃つごとに半年以上かけて許可を取って修理」という、非常に馬鹿馬鹿しい行動をとる羽目になる。そのため、民間用のワイプ式はほぼ完全に姿を消している。原理上、ワイプを使用しないものでも射撃精度の低下は避けられないため、使用の際は注意が必要である。また、熱を持つと消音効果に悪影響が出るため、水や専用冷却材を少し入れると消音効果が高くなるものもある。
映画などのイメージから、一般的にはサプレッサーを使用すると、「プシュッ」というような非常に小さな音になると思われている。しかし現実には、サプレッサーを使用する最大の目的が発砲位置を隠すことであるため、指向性があり音源位置を特定しやすい高音域を減少させる効果が主で、低音域はほとんどそのままであり、実際、サプレッサーを使用した場合でも、9mm×19弾を使用する MP5SD系SMGの発射音は 60~70dB と、電話機のベル並みのレベルである。
サプレッサーを使用せずに射撃を行うと、比較的発射音の小さい .22LR 亜音速弾でも 100dB 強というジェット戦闘機の通過音並みの発射音となり、これは耳栓を装着しないと耳にダメージを被るレベルである。よって、サプレッサーの使用は射手や周囲の人々の耳を保護することにもつながる。そのため、フランスでは射撃におけるサプレッサーの使用は良いマナーと考えられており、フィンランドに至っては国を挙げてサプレッサーの研究を行っており、軍のライフル全てにサプレッサーをつけることを検討している。
インテグラルタイプを採用した拳銃として、微声手槍(ウェイションショウチアン)という拳銃が存在する。弾頭が緑色に塗られた、専用の 7.65mm 亜音速特殊弾を使用する。64式と67式が存在するが、それぞれ発射音は 124.4dB と 122.5dB で、実際には相当うるさい拳銃だったという。このほかに有名なものとして、第二次大戦中にイギリスの開発した「ウェルロッド」がある。9mmパラベラム弾を使用するMkIと、.32ACP弾を使用するMkII(I、IIはそれぞれローマ数字の1と2)が存在し、MkIIは最高で35dBという消音効果があったが、サプレッサーがワイプ式のため、命中精度は酷いものであった。
サプレッサーに関係して、オートマチック(自動式拳銃)のうち S&W M39の派生型 Mk.22 (通称ハッシュパピー)などは、自動装填機構を動かなくすることでより消音効果をより高める事ができ、その場合は一発撃つごとに遊底を引き、手動で次弾装填を行うこととなる。自動装填機構を活かしたままサプレッサーを使用する場合は、ショートリコイル機構に悪影響を及ぼす恐れがあるため、軽量なサプレッサーを使うか、ストレートブローバック式の銃を使う必要がある。また、音速以上で弾丸が飛ぶと衝撃波によって音が発生するため、サプレッサーを使用する場合は音速を下回る速度で飛ぶ「亜音速弾」(サブソニック)を使用することが多いが、長距離からの狙撃に使用する場合はこの限りではない。
[編集] 楽器における消音器
練習時などに楽器の出す音を小さくするためのもの。類似のものに弱音器(ミュート)がある。
[編集] トイレにおける消音器
排泄時の音を他に聞こえないように、スピーカーから水流音などを流してその音を聞かれなくする装置。主に女性用トイレに設置されている。日本特有であると言われる。