湿潤療法
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湿潤療法(しつじゅんりょうほう)は、創傷(特に擦過傷)や熱傷などに対し、従来のガーゼと消毒薬での治療を否定し、「消毒をしない」「乾かさない」「水道水でよく洗う」を3原則とした療法。閉鎖療法、潤い療法(うるおい療法)とも呼ばれる。2001年ごろから形成外科医である夏井睦によって提唱され、賛同する医師らによって普及が図られている。
消毒薬が容易に傷のタンパク質との反応によって細菌を殺す閾値以下の効力になる一方で、欠損組織を再生しつつある人体の細胞を殺すには充分な効力を保っていること、再生組織は乾燥によって容易に死滅し、傷口の乾燥は再生を著しく遅らせること、皮膚のような浅部組織は常在細菌に対する耐性が高く、壊死組織や異物が介在しなければ消毒しなくても感染症に至ることはほとんどないことなどに注目して、考案された。傷口の内部に消毒薬を入れることを避け、再生組織を殺さないように創部を湿潤状態に保ち、なおかつ感染症の誘因となる壊死組織や異物を十分除去することで創部の再生を促すものである。
また、同様のコンセプトによる褥創治療が、ほぼ同じ時期より内科医の鳥谷部俊一によって提唱されており、湿潤状態を保持するために食品用ラップを用いることから、ラップ療法、開放性ウェットドレッシング療法 (Open Wet-dressing Therapy, OpenWT) と呼ばれている。
なお、湿潤環境下のほうが創傷の治療経過がよいことは欧米においては1960年代後半から臨床報告などで知られており、これを応用した治療法は"Moist Wound Healing"と呼ばれて医療機関等でも一般的になっている。
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[編集] 家庭での治療方法
- 創傷に関して、傷の深いものは医師の診断を受けること。熱傷に関しても、熱傷#応急処置を優先すること。
- 水道水で傷口の汚れを完全に洗い落とす。まずこの時、決して消毒を行ってはいけない。ガーゼや通常の絆創膏の使用は出血を止めるのに使用するのにとどめる。
- 出血が止まったら、ラップなどのドレッシング材を傷より大きめに切り、患部に当てる。(保湿効果のある白色ワセリンをラップに塗り患部に当てるとなお良い)
- 貼ったラップを包帯などにより固定する。
- ラップは1日に一回。夏などは1日に数回取り替える。
- 上皮化が完了すれば治療完了となる。上皮化のサインとしてキズがピンク色になり新たな皮膚ができ、痛みがなくなる。かゆみが生じる場合もある。
- 上皮化してすぐの皮膚はしみになりやすいため、少なくとも一ヶ月は紫外線に注意する。(衣服により物理的に日光を遮断するか、日焼け止めクリームを利用など)
[編集] 医療現場での治療方法
消毒を行った上でガーゼを貼る治療が主流だが、湿潤療法の治療を行う医師も増えている。 医療現場において、ドレッシング材(被覆材)は食品用ラップのほかポリウレタンフィルム、ハイドロコロイド、ハイドロジェル、ハイドロポリマーなども利用される。 ただし、これらのドレッシング材の製品を利用した医療用具はほとんど市販されていない。
ガーゼにワセリンを塗った上で、患部に当てる方法もあるが上記のドレッシング材より保湿効果は少ない。
近年ではラップの気密性をより高め、注射器などを使って患部に負圧をかけ、より治癒を早める陰圧閉鎖療法というものも導入されている。
[編集] この療法を利用した市販製品
- 「バンドエイド」キズパワーパッド(ジョンソン・エンド・ジョンソン)
- 2004年に発売された製品。ハイドロコロイドをドレッシング材として使用している。
[編集] 外部リンク
- キズパワーパッド
- 新しい創傷治療(夏井睦医師のWEBサイト)
- 褥創(褥瘡)のラップ療法/開放性ウェットドレッシング療法(鳥谷部医師のWEBサイト)
- 創傷治癒センター (北里大学名誉教授、塩谷先生のWEBサイト)
- Clinica Animal EL FARO (湿潤療法での治療をしている動物病院)