矢吹駆
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矢吹駆(やぶき かける)は、笠井潔の推理小説「矢吹駆シリーズ」に登場する架空の人物である。
その素性は長らく謎に包まれていたが、少なくとも60年代に日本で一連の学園紛争に関わり、投獄されたことは確かである。その後、チベットでの生活で心の平安を得るも、導師に「俗世に戻って悪と戦え」と言われたのを機に再び大陸を放浪し、フランスにたどり着く。修道士のような簡素な生活を送りながら、パリ大学の哲学講座に聴講生として出席している。また、第四作『哲学者の密室』中に、戦前にドイツに留学した後、危険思想を摘発され獄死した祖父がいる(故にそれなりの階級の出であると推察もできる。)事、および終戦直前に父親も戦死していたと言明していることからシリーズ中の年齢は20代後半であることが推察される。
外見は語り手かつワトソン役のナディア・モガール曰く「ツタンカーメンを思わせる東洋の貴公子のような顔立ち」。具体的には肩まで伸びた少しウェーブのある黒髪に、こめかみに切れ込むような大きく切れ長な目、整った鼻筋にうやや厚めの唇を持つ。
当初、引きこもるような生活をしているが、行動力旺盛なナディアに引きずられるような形で事件に関わっていく。シリーズが進むにつれて事件の裏に潜む黒幕ニコライ・イリイチとの対決を望むようになる。
最大の特徴は、彼の提唱する「現象学的推理」である。 矢吹自身には事件を解決しようという意思はなく、ただ一連の事件を「現象」として、哲学的に捉える点にある。ゆえに、たとえ連続殺人が発生しても一連の殺しが終了するまでは捜査に関心を示さない。そして事件が終了した時点で「本質的直感」に基づき、事件を心理を排除した一連の現象として推察し、真相を解き明かす。そこに「連続殺人」を止めようという意思は存在しないため、たとえば金田一耕助もののように、「名探偵であるにもかかわらず、殺人が終了するまで事件を解決できない」と一部の探偵小説に対して揶揄されるような論法は無力となる。
シリーズは1979年の第一作『バイバイ、エンジェル』を皮切りに長編6作が刊行されている。ただ、1997年刊行の「織天使の夏」はパリ時代以前の矢吹を書いた、前章的な作品である。