こめ油
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こめ油(米油、米糠油、こめ(ぬか)ゆ、こめ(ぬか)あぶら) は、米糠から抽出される植物油である。英語では rice bran oil という。 様々な呼び名や書き方があるが、日本農林規格 (JAS) では「こめ油」を使用している。
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[編集] 原材料と副産物
原材料は玄米を搗精した際の副産物である米糠である。日本では主食である米を原料にしているため、原料をほぼ国産で賄える唯一の植物油である。また、抽出工程のみを行う工場を含めれば、こめ油製造工場は北海道から沖縄県まで存在する。近年は東南アジアや米国からの輸入も行われているようだが、その量はごくわずかである。
日本においては、国産原料を使用していることから学校給食関係者には好評であるが、大豆油などに比べると価格が高いので、使用は一部に留まっている。
また、米の消費量が年々減少しているため、こめ油は安定した出荷がありながら、製造会社は原料の手当てに苦慮している。1990年代にはエノキダケの培養床に米糠が使われたため、栽培業者と製油業者の間で原料の奪い合いが起きた。エノキダケの方が収益性が良く、栽培業者が米糠を高く買い取ったため、一時、こめ油業界は深刻な事態に陥った。その後、エノキダケの培養床は米糠からトウモロコシの芯(コーンコブ)に移行したため、危機を乗り越えることができた。しかし、長期的に見て原料供給が増える見込みが立たないことに変わりはないのが現状である。
他の植物油原料と異なり、米糠には油脂分解酵素リパーゼが多量に含まれている。そのため、原油中の遊離脂肪酸量が多く、酸価 (acid value, AV) が極めて高い。菜種油原油やトウモロコシ原油のAVが一桁であるのに対し、米原油は20以上になることは普通である。また、原油は多量のワックス分を含んでいるため、他の植物油よりも強力な脱蝋工程の装置が必要である。このように、こめ油の精製工程は菜種油や大豆油の精製に比べ手間がかかるうえ、独自の技術や装置が必要である。そのため、バブル崩壊後、食用植物油会社の再編が進む中でも、こめ油製造各社は独自の地位を保っている。
精製の際に除去されたの脂肪酸やワックス分、抽出かすである脱脂糠等の副産物は石鹸や樹脂、蝋の原材料や肥料などとして使用されている。このこともこめ油の製造技術が日本で独自に発達した歴史と無関係ではない。
[編集] 特徴
脂肪酸組成に占めるオレイン酸の比率が高いことと、ビタミンEを多く含み、加熱による酸化が起きにくいことが挙げられる。特に後者については、こめ油が製菓業界で歓迎される理由となっており、現在、日本で製造されるポテトチップスのほぼ全量がこめ油かこめ油を配合した油で揚げられている。
揚げ物をしている人が気分を悪くする現象を「油酔い」と呼ぶ。これは油脂を過熱する際に発生するアクロレインという物質の作用であるであるといわれている。こめ油はこの油酔い現象が起きにくい油とされている。また、揚げる作業が終わったあとに、油を鍋から他の容器に移す際などの油のキレが良いともいわれる。これらの現象もこめ油が加熱による酸化が起こりにくいことと関連があると考えられているが、両現象とも科学的には原因が解明されていない。
また、こめ油は血中コレステロール分を下げる効果が植物油で最も高く、紅花油と混合するとその効果がさらに高くなる。
[編集] JAS規格
日本農林規格 (JAS) には「こめ精製油」と「こめサラダ油」がある。以前は「こめ油」というものも存在したが、流通実体が無いため廃止されている。
[編集] カネミ油症事件について
カネミ油症事件の詳細については、当該項目を参照されたい。この事件以降、食品業界では九州ではこめ油は売れないことが常識となっている。事件に関する理解が不十分なため、「こめ油が健康に悪い、危険である」という報道がなされたり、そのように考える人達が今だにあるが、これらは誤解である。
この事件は、製油工場の脱臭工程で熱媒体として使われていたポリ塩化ビフェニル (PCB) が漏れて製品に混入し、PCBによる健康被害が発生したものである。脱臭工程は植物油の精製に不可欠なものである。また、当時熱媒体としてPCBを使用していたこめ油工場はこの事件を起こした企業のみであったといわれている。[要出典] 従って、この事件はあくまでも製造工場の施設管理不十分に起因するものであり、こめ油との因果関係は無い。
ただ、カネミ油症事件は被害対策はおろか、その原因の究明も治療法の開発も十分に行われなかった。そのため、結果的にこの事件が正しく理解される機会は全く失われてしまった。
[編集] 外部リンク
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