アインシュタイン方程式
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アインシュタイン方程式(the Einstein equations)は、アインシュタインの重力場の方程式(じゅうりょくばのほうていしき)ともいい、アルベルト・アインシュタインが1916年に一般相対性理論の中で導いた、万有引力・重力場を記述する場の方程式である。英語の the Einstein Field Equations からEFEとも略される。
一般相対性理論においては理論的な帰結・骨子であり、次のように表される:
左辺は、時空がどういう風に曲がっているかを表す幾何学量であり、右辺は、物質場を表す。おおざっぱに言えば、リンゴのような物質またはエネルギーを右辺に代入すれば、そのリンゴの周りの時空が、どういう風に曲がっているかを読みとることができる式である。 ここで、:Gμνはアインシュタイン・テンソル、Rμνはリッチの曲率テンソル、Rはリッチの曲率スカラー、gμνは計量テンソル、Tμνはエネルギー・運動量テンソル、π は円周率、Gは万有引力定数、cは光速度である。 gijは時空多様体の計量(metric)を記述し、10個の独立成分を持つ4×4の対称テンソルである。
また、表記の煩雑さを減らすために、アインシュタインの重力定数「カッパ」 を用いて、
と簡潔に表わされることも多い。
アインシュタイン方程式は、10成分に対し、10本の方程式を与える。2階の偏微分方程式である。ただし、座標の選択の自由度が4つあることから、独立した方程式は6つとも言える。
[編集] 宇宙項
アインシュタインは、1917年の論文で、方程式に「宇宙項」を加えて次のようにした。
アインシュタインの定数 κ を用いると、より簡潔に
となる。Λは宇宙定数を表すが、この項(宇宙項)は1916年のオリジナル論文には含まれておらず、1917年の論文で追加された。宇宙項は重力に対する反重力(万有斥力)として機能する。アインシュタインがこの項を導入した理由については諸説あるが(*1)、1929年にハッブルが宇宙の膨張を観測的に示した後,1931年にはアインシュタイン自身により「人生最大のヘマ」として消去された。しかしながら、近年の宇宙のインフレーション理論や素粒子物理学との関連の中で、宇宙項を再び導入して考えることが通常行われており、むしろ重要な意味を与えている場合がある。観測的宇宙論において,宇宙膨張を加速させている謎のエネルギーとして、ダークエネルギーという言葉が使われているが、その正体は不明なものの、方程式上は宇宙項である。
(より詳しくは、一般相対性理論 の項を参照のこと。)
- (*1)一般に有名なのは、彼自身が信じる静止宇宙モデルを実現するためという説である。1917年論文の宇宙モデルは重力と宇宙項による反重力とが釣り合う静止宇宙だった。だがこのモデルは不安定であり、僅かな摂動で膨張又は収縮に転じるという性質を持っていた。
- 他に、境界条件の無い閉じた球面空間が解となるように方程式を変形した際、出発点としてたまたま静止解を想定したために、宇宙項が入り込んだとする説がある。つまり、考え方としては膨張・収縮解でも良かったところを、うっかり静止解を選んだがために、後に撤回する羽目に陥った。