イギリス陸軍
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イギリス陸軍(British Army)はイギリスの陸軍。イギリス海軍(Royal Navy)、イギリス空軍(Royal Air Force)とともにイギリス軍(British Armed Forces)を構成する。
イギリス陸軍には、海軍・空軍とは異なり、その名称に“Royal”すなわち王立の文字がつかないが、陸軍に関しては飽くまでも“British”を冠するものが正式名称である。これは、海軍・空軍が国王大権に基づく単一かつ国王(女王)に所属する軍隊であるのに対して、陸軍が議会の許可に基づいて編成され、かつ各連隊も国王以外の連隊所有者(Colonel-in-Chief)[1]が存在することによるものである。もちろんこれはイギリスによく見受けられる時代がかった建前であって、実際には海軍・空軍・陸軍のいずれも厳格な文民統制の下にあるイギリスという“国家の軍隊”である。
またイギリスにおいては、名誉革命後に権利の章典が成立して以来、議会の許可なく平時における常備陸軍(peace-time standing army)を編成することが禁止されており(権利の章典の成立以前も常備陸軍を編成することは一種のタブーではあったが、明文化されたものではなかった[2])、現在においても一定期間ごとに“臨時に”陸軍を編成する許可を議会が可決する必要がある。ただしこれは、現代においては建前とすら言いがたいほどに形骸化しており、実態としてはイギリス陸軍は平時においても常備軍である。
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[編集] 連隊と連隊所有者
前述のように、イギリス陸軍はそれぞれ個別の連隊所有者が所有する連隊のいわば寄せ集めである。連隊所有者はかつては私財をもって連隊を養う実際上の所有者であったが、当然ながら現在においては全ての連隊にかかる費用は国家予算によってまかなわれている。しかし形骸化し実際の仕事は連隊の式典に出席するぐらいになったとはいえ、連隊所有者という制度自体は現在も存在しており、特殊偵察連隊(SRR:Special Reconnaissance Regiment)のような特殊なものを除いて、ほぼすべての連隊に連隊所有者が存在している。
2006年6月6日以降、連隊所有者はすべてイギリス王族または外国国王である[3]。また、軽竜騎兵連隊(The Light Dragoons)、王立プリンス・オブ・ウェールズ連隊(The Princess of Wales's Royal Regiment 〔Queen's and Royal Hampshires〕)に関しては、それぞれ外国人であるヨルダン国王アブドゥッラー2世、デンマーク女王マルグレーテ2世が連隊所有者となっている。また、2006年6月6日のグリーンハワード連隊(The Green Howards 〔Alexandra, Princess of Wales' Own Yorkshire Regiment〕)のヨークシャー連隊への統合まではノルウェー国王ハーラル5世が同連隊の連隊所有者の地位にあった。
形式上連隊所有者より一つ下の役職である連隊長(Colonel)は、イギリス陸軍においては功績のあった将官もしくは王族による形式上の名誉職であり、連隊の実際の指揮を執ることは現在ではまず考えられないため、その任務は指揮担当士官(Commanding Officer)の役職名で中佐(Lieutenant-Colonel)が行っている。また、この場合の連隊長(Colonel)は陸軍大佐(Colonel)と全く同じ語ではあるが陸軍の階級とは関係なく、連隊所有者と同様の名誉称号のようなものである。
[編集] 兵科
イギリス陸軍は、騎兵・歩兵・砲兵等の兵科によって構成される。以下はその概略である。
[編集] 騎兵
騎兵は、王室騎兵隊(Household Cavalry)に所属する近衛騎兵連隊及び王立機甲軍団(Royal Armour Corps)に所属する重騎兵連隊・軽騎兵連隊・王立戦車連隊によって構成される。兵科の名称自体は騎兵となっているが、これは歴史的呼称を現代に引き継いでいるだけであり、重騎兵・軽騎兵といった区分を含めて実際上の意味はほとんどない。後述の近衛騎兵を除いては実際に乗馬を任務とすることはなく、戦車・装甲偵察・NBC防護及びそれらの訓練を任務としている。
イギリス陸軍の騎兵連隊は本部、4個程度の戦闘中隊及び各種支援部隊で構成されており、実質的には大隊編制である。
近衛騎兵連隊に関してはやや特殊な編制を採っており、王室騎兵隊に所属する管理上の2個連隊であるライフガード連隊とブルーズ・アンド・ロイヤルズ連隊から、各々2個中隊を抽出して計4個中隊で構成する王室騎兵連隊(戦闘部隊)と、各1個中隊を抽出して計2個中隊で構成する王室騎兵乗馬連隊(儀仗部隊)を再構成することとなっている。
わざわざ2個連隊から2個連隊を再構成せず、最初から1個連隊を儀仗任務にあて、残る1個連隊を戦闘任務に充てた方が管理効率の観点からは明らかに効率的ではあるが、そうした場合どちらかの連隊の儀仗兵としての伝統が失われてしまうため、それを回避するため、このようなやや複雑な編制となっている。またこのことには女王エリザベス2世本人の直接の意向があったと言われている。
なお、王室騎兵隊は格式の上では王立機甲軍団と同格であるため、ライフガード連隊とブルーズ・アンド・ロイヤルズ連隊は形式上は王立機甲軍団には所属しないこととなっている。ただし実質的には一まとめのものとして扱われており、そのため通常は王室騎兵隊および王立機甲軍団という形で併記される。またこの際は必ず王室騎兵隊が王立機甲軍団よりも先に記述されることとなっている。
[編集] 歩兵
歩兵は、近衛師団(Guard Division)に所属する近衛歩兵(Foot Guard)と、国王師団(King's Dvision)・スコットランド師団(Scottish Division)・プリンス・オブ・ウェールズ師団(Prince of Wales' Division)・女王師団(Queen's Division)・軽歩兵師団(Light Division)に所属する戦列歩兵(Line Infantry)、およびそのいずれにも所属しない特殊部隊・治安部隊などから構成されている。なお、ここでいう師団は主に新兵の募集や基礎訓練等に責任を負う管理組織であって、戦闘組織としての師団とはまったくことなることに注意する必要がある。
イギリス陸軍の歩兵連隊は、特殊部隊を除いては連隊本部及び1個から最大5個(非現役部隊を含めれば7個)の歩兵大隊によって構成される。特殊部隊以外の歩兵連隊は完全な管理部隊で戦闘の指揮をおこなわない。そのため歩兵大隊が旅団に組み込まれる場合は、連隊ではなく旅団の指揮を受けることとなる。
なお、近衛歩兵の5個連隊に関してはすべて連隊のもとに1個大隊のみを置く編制だが、近衛擲弾兵連隊(Grenadier Guards)・近衛コールドストリーム連隊(Coldstream Guards)・近衛スコットランド人連隊(Scots Guards)の3個連隊に関してはこのほかに近衛増強中隊(Guards Incremental Companies)という通年で儀仗任務をおこなう中隊を各1個中隊保有している。
イギリス陸軍の近衛歩兵と戦列歩兵はアームズ・プロット・システム(Arms Plot System)という独特の制度を採用しており、各大隊(連隊ではない)は、機甲歩兵(ウォーリア歩兵戦闘車を使用)・機械化歩兵(サクソン装甲兵員輸送車を使用)・軽歩兵・空中強襲・パブリックデューティー(ロンドンにおける儀仗任務)の各任務を2年から6年の期間でローテーションすることとなっている。この制度は非効率であるためか、現在進行中の2008年を目処とする陸軍の再編成が完了した後は制度自体が廃止され、各大隊はローテーションされない一貫した任務に就くこととなっている。
[編集] 砲兵
砲兵は、王立砲兵連隊(Royal Artillery Regiment)に所属する王立騎馬砲兵(Royal Horse Artillery)の各連隊、および第x王立砲兵連隊と番号を付して呼ばれるその他の砲兵連隊によって構成される。王立砲兵連隊は現役連隊のみでも16個連隊、非現役部隊を含めれば22個連隊もの部隊を抱える軍団規模の組織であるにもかかわらず、その名称は現在に至るまで相変わらず「連隊」のままである。
イギリスの砲兵連隊は、本部並びに3個から4個の射撃中隊及び各種支援部隊から構成されており、歩兵連隊のような大隊組織を持たない。そのためその名称は連隊ではあるが、実質的には大隊規模の組織である。
各連隊は、本土防衛・防空・全般支援(MLRSを使用)・近接支援(AS90/155mm自走砲を使用)・近接支援(L118/105mm軽榴弾砲を使用)・観測および目標補足・訓練の各任務に当たっている。各連隊の任務は歩兵大隊とは異なり、固定されている。
なお、王立騎馬砲兵国王兵団連隊(King's Troop Royal Horse Artillery)の行っている「本土防衛」の任務は名称だけのものである。実際の任務は式典などで13ポンド砲(完全に式典用の砲であり、現代戦における兵器としての価値はまったくない)を礼砲として撃つことと、何らかの理由で前述の王室騎兵乗馬連隊がロンドンに不在の場合、その交代部隊として騎兵として儀仗任務に就くことで、王立騎馬砲兵国王兵団連隊はほぼ完全な儀仗部隊である。
[編集] 近衛部隊と儀仗任務
イギリス陸軍は古くからの伝統の多くを現代にも引き継いでおり、そのなかでもとくにロンドンにおいて近衛部隊等のおこなう衛兵の交代式や騎兵の行進などの各種式典は、ロンドン観光の目玉の一つとしてイギリス国外においても有名である。
この式典の多くは近衛部隊によっておこなわれており、これらの近衛部隊を統括する管理部隊として王室師団(Household Division)が置かれている。管理上この師団(名称は師団だが戦闘部隊としての師団とはことなる)に属するものがいわゆる近衛部隊である。
王室師団に属するのは、王室騎兵のライフガード連隊およびブルーズ・アンド・ロイヤルズ連隊、近衛師団(Guard Division)とそれに所属するすべての連隊、すなわち近衛擲弾兵連隊(Grenadier Guards)・近衛コールドストリーム連隊(Coldstream Guards)・近衛スコットランド連隊(Scots Guards)・近衛アイルランド連隊(Irish Guards)・近衛ウェールズ連隊(Welsh Guards)の5個連隊、そして王立砲兵連隊の王立騎馬砲兵国王兵団連隊および各連隊に付属する軍楽隊である。また、場合によっては、地域陸軍(TA:Territorial Army)に所属するロンドン連隊(London Regiment)を加える場合もある。
なお、王室師団は基本的に管理部隊であり、実際の儀仗任務の運用はロンドン管区(London District)がおこなっている。ロンドン管区とはイギリス陸軍の制度における軍管区のひとつで、少将(Major General)が指揮する師団相当格の組織である。ロンドン管区は首都ロンドンの防衛を目的とする組織で、自動車道25号線(M25)の内側をその防衛管区とし、そこに属する部隊はほかのいずれの司令部にも属さないこととなっている。
実際の儀仗任務はこのロンドン管区に所属する部隊によっておこなわれるが、ロンドン管区にはすべての近衛部隊が所属するわけでもなく、また近衛部隊以外の部隊が所属しないわけでもないことに注意する必要がある。ロンドン管区に所属する連隊は、具体的には王室騎兵のうち王室騎兵乗馬連隊、王立騎馬砲兵国王兵団連隊、各軍楽隊、そしていわゆるパブリック・デューティーによってロンドン管区に配属される各歩兵大隊である。
パブリック・デューティーとは近衛歩兵あるいは戦列歩兵に所属する大隊から、ロンドンの警備部隊を抽出する古くからの制度で、現代においては5個の近衛歩兵連隊に所属する5個大隊から2個大隊が、戦列歩兵連隊からは1個大隊がローテーションでこの任務にあたり、またこのほか近衛擲弾兵連隊・近衛コールドストリーム連隊・近衛スコットランド連隊に所属する近衛増強中隊の3個中隊がローテーションしない恒常的なものとして、その任務にあたっている。なお、1994年の陸軍再編の時点で、かつての中隊単位での抽出は廃止され、現在の大隊単位の制度へ移行している。
現在進行中の2008年までの完了を目処とする陸軍の再編後は、現在のローテーション制度が廃止され近衛歩兵の2個大隊と戦列歩兵の1個大隊が近衛増強中隊のような恒常的な儀仗任務につくこととなっている。ただしこの改革については反対もある。(イギリス近衛兵も参照。)
[編集] 配備と編制
イギリス陸軍は、ブリテン島本土および北アイルランド(北アイルランドは言うまでもなく連合王国の一部ではあるが、イギリス陸軍の地域区分では「海外」となっている)その他の海外領土をテロを含む軍事的脅威から防衛すること、NATOによる共同防衛に参画すること、NATO枠外での紛争介入や平和維持活動等をおこなうこと、必要とされた場合地方自治体等に非軍事分野のものを含む支援活動をおこなうこと、などを任務としている。
もともとイギリスは島国であり、地政学的に言って地上部隊による脅威を受けづらい環境にあり、第二次世界大戦においてすらブリテン島本土に上陸侵攻を受けることはなかった。したがって歴史的にも、また現代においてもイギリス陸軍は基本的に海外での活動にその力点を置いており、ブリテン島本土の防衛はほとんどの時代において2次的な任務である。
また実際問題として、予見しうる将来において最悪の状況が発生したとしても、常識的にはブリテン島本土が外国軍によって上陸侵攻を受けることを到底考えることが出来ない以上、現代においてもこの傾向は変化していない。イギリス陸軍の実戦配備部隊はそもそも海外に駐留しているか、国内に駐留していたとしても国外に展開することを前提とするものがほとんどで、本土防衛にあてられる部隊は地域陸軍(TA:Territorial Army)という非常勤要員による2線級部隊を主体としている。
ただし対テロ活動は別問題であり、北アイルランド紛争に起因するIRA暫定派による爆弾テロ、また近年ではイスラム系テロリストの脅威に対応するため、HUMINT部隊である特殊偵察連隊が新設されるなど、その対策はむしろ強化されている。
また、NATOの一員としての共同防衛活動に関しては、NATOに対するNATO域外からの軍事的脅威が(少なくとも冷戦期と比較すれば)大幅に減少したことを受け、大幅な数的削減と同時に、西ヨーロッパ大陸部での全面戦争状況下における機甲戦を指向した戦力から、地域紛争への介入を指向した戦力への質的方向転換が図られている。
[編集] 装備
火器 | L85A2 5.56mm IW(SA80ファミリー)、L85A2 5.56mm LSW(SA80ファミリー)、ミニミ 5.56mm SAW (L110A1)、L9A1 ブローニング(ブローニング ハイパワーシリーズ)、L7A2 7.62mm GPMG、L96A1 7.62mm(アキュラシー・インターナショナル AWM)、L115A1 8.6mm LRR(アキュラシー・インターナショナル AWM) |
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装甲車輌 | FV4043 チャレンジャー 2 MBT、ウォーリア IFV、CVR (Combat Vehicle Reconnaissance)、FV432 APC |
支援車輌 | AS-90 ブレイブハート 155 mm 自走榴弾砲、MLRS、L118 105mm 榴弾砲 (L118 Light Gun、レイピア地対空ミサイル (Rapier missile)、スターストリーク地対空ミサイル (Starstreak)、L121 野砲 |
航空機 | アパッチ AH.Mk.1、アエロスパシアル ガゼール AH.Mk.1、リンクス AH.Mk.7、ベル 212、ブリテン・ノーマン アイランダー、アグスタ A109 |
兵站 | DROPS (Demountable Rack Offload and Pickup System)、ランド・ローバー (TUL/TUM)、ATMP (All Terrain Mobility Platform) |
電子機器 & 防衛 | MSTAR (Man-portable Surveillance and Target Acquisition Radar)、ボウマン (Bowman)、スカイネット 5 (Skynet) |
[編集] 関連項目
[編集] 注記
- ^ 訳注: 連隊所有者すなわち、Colonel-in-Chiefは直訳すれば「上級連隊長」あるいは「連隊総長」となるが、日本語において一般的に定まった訳が見当たらないため、ここでは仮の名称として「連隊所有者」の語をもちいる。
- ^ 辻本 諭「イングランドにおける常備軍の成立 -ウィリアム三世期の常備軍論争-」(青木書店『歴史学研究』2006年10月号 No.819 p1~p22)
- ^ 歴史的には高位の爵位を持つ貴族も一部の連隊の連隊所有者の任を担っていたが、2006年6月6日のウェリントン公爵連隊(The Duke of Wellington's Regiment)のヨークシャー連隊(The Yorkshire Regiment)への統合により、ウェリントン公爵はヨークシャー連隊副連隊所有者(Deputy Colonel-in-Chief)へいわば格下げとなり、イギリス王族ではないイギリス貴族による最後の連隊所有者の地位は失われた。
[編集] 外部リンク
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