インクルージョン教育
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
インクルージョン教育(ほうかつてききょういく 英語:Inclusive Education)とは、初等教育や中等教育段階において、障害を持った子どもが大半の時間を通常学級で教育する実践。ジーニアス英和大辞典では、「統合教育」と訳されているが、「インテグレーション」の翻訳語である統合教育と区別するために、ここでは「包括」と訳している。
フランク・ボウは、統合と「完全な包括」の違いを強調した。包括的な教室においては、少数派である障害を持った子どもは、同世代の障害を持たない仲間たちと隣同士で学習する。アメリカ合衆国では、教育者が一般的な統合教育を実践するならば、個別障害者教育法の下で特別教育を受ける権利を認められる子どもは、1週間のうち2/3以上を通常学級で学習することができる。彼(女)らは、実際にずっと通常学級にいなければならないというわけではなく、作業療法、理学療法、言語療法などの応対を受けるために「取り出し」の対象になることもある。
対照的に、完全な包括の下では、個別障害者教育法の対象となる子どもたちは、文字通り1日中、通常学級に在籍することになる。必要な応対は「入り込み」を通じて行われる。つまり、専門家が教室にやってきてそこで支援を行うのである。ボウは、完全な包括ではなく、統合教育が障害を持ったほとんどの子どもたちにとって妥当な取り組みであると考えている。またボウは、知られたところでは自閉症、知能障害、難聴の子ども、複合障害児など、子どもたちの中には、統合教育でさえ、適切な教育を提供できないかもしれない者がいることも認識している。
しかし、スタインバック夫妻によれば、通常学級に在籍することは人権である。彼(女)らは、高等学校まで学校は障害を持ったすべての子どもたちに完全な包括を提供できるように再構築するべきであると考えている。アメリカ連邦政府の教育省によれば、個別障害者教育法の実施に関する最新の調査では、該当する子どもの約半数がほとんどの時間を通常学級で過ごしている。但し、障害種別に見ると、その割合は非常にばらつきがあることが分かる。言語障害を持った子どもの90%以上が包括的な教室に在籍している。しかしその一方で、通常学級に通う自閉症の子どもたちは、わずか29%に留まっている。これらのばらつきは、個別障害者教育法の要求に応じたものであろう。つまり、教育的対応は、子どもがどこに在籍するべきかではなく、それぞれの子どもに固有な必要性によってなされるべきであるという考え方である。
[編集] 包括的な教室
包括的な教育とは、すべての子どもたちに開かれた教室、学習施設、教育制度を意味する。包括的な教育の下では、すべての子どもたちが学習し、参加することが保障されている。これが実現するためには、それぞれの子どもたちが持った多様な必要性を考慮に入れ、すべての子どもたちが学校生活のすべての部分に関わることができるように、教師、学校、制度が変わらなければならない。
また、包括的な教育では、学習や参加の妨げとなる学校の中や周りに存在するあらゆる障壁に気づき、その障壁を極力取り除くようにしていく。包括的な教育とは、現状では排除されている集団も含めて、すべての子どもたちが主流の学校制度の中に有効に参加し、そこで効果的に学習できるようになることを目指す工程である。排除された子どもたちを通常学級に在籍させるだけで、包括を達成するとは言えない。包括的な教育は、幾つかの原理や実践を基礎とせねばならない。
[編集] 包括的な教育の原則
- あらゆる子どもたちも機会の平等に基づく教育を受ける権利を持っている
- 人種、肌の色、性別、母語、宗教、政治的信条、国籍、民族、社会的出自、障害の有無、家柄、貧困、他の境遇などを理由に、いかなる子どもも排除や差別してはならない。
- すべての子どもは学ぶことができ、そして教育から恩恵を授かることができる。
- 子どもが学校に適用するのではなく、学校が子どもの必要に応じるのである。
- 子どもの意見に耳を貸し、そしてそれを深刻に受け止める。
- 子どもたちの違いは問題ではなく、重要性や多様性の源である。
- 広く柔軟な対応によって、様々な要望や子どもの発達速度に取り組む。
[編集] 包括的な教育の実践
- 包括を1度きりの行為と捉えずに、継続的な工程と考える。
- 子ども、教師、保護者、地域の人々の学校の活動への参加を強化し維持する。
- 現場において子どもたちの多様性に対応するために、学校文化、学校方針、学校実践を再構築する。包括的な環境、個人や集団に関する「特別な部分」を探ったり、「問題」への対応を目標にしたりするのではなく、学習や参加の障害を認識し解決することに焦点を当てている。
- 参加可能な教育課程を準備し、適切な教員研修講座を設ける。そして子どもたちが、しっかりと情報を入手でき、きちんとした環境を与えられ、十分な支援を受けられるようにする。
- 子どもだけでなく、職員のための支援も認識し提供する。