インド太平洋
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インド太平洋(いんどたいへいよう)とは、インド洋から太平洋にかけての海域全体を言う用語。英語の「Indo-Pacific」の訳語で、原表現に合わせて「インド-太平洋」とハイフンを入れて記すこともある。主に海洋学や海洋生物学などの自然科学分野で用いられる。アフリカ東部沿岸およびマダガスカル付近から、二つの大洋の間にあるフィリピン~インドネシア周辺の海域を経て、オセアニアの東縁までの範囲で、太平洋の周辺部にあたる日本海などの極東の海域も含まれる。
この用語は、インド洋と太平洋とには共通して生息しながら、大西洋には生息しない海洋生物が非常に多いために、それらの分布などに言及する場合や、それらの生物相を総じて表現する場合に用いられる。具体的には、そのような生物の分布域を示す場合に「インド太平洋」と記したり、それらの生物をしばしば「インド太平洋種」と呼んだりする。これらインド太平洋種には、非常に多くの魚類や貝類、その他諸々の多様な海洋生物が含まれる。日本近海に見られる海洋生物の場合、寒流(親潮)要素、暖流(黒潮)要素、極東要素の3要素に大別できるが、このうち黒潮要素のものがほぼインド太平洋種に相当する。
ただし同じ太平洋でも太平洋東端、すなわち南北アメリカ西岸域にはやや異なった生物相も見られ、インド洋と太平洋西半ほどには共通の生物が見られない。また大西洋では、生物相を含む自然環境においてインド洋や太平洋と共通するものが少ないため「インド大西洋」や「大西太平洋」といった言い方は普通はなされない。インド洋、太平洋、大西洋のすべてに共通する種の場合は、世界的に分布する陸生生物と同様に凡世界種(コスモポリタン種)などと呼ばれる。
これとは別に、言語学の分野ではジョーゼフ・グリーンバーグが1971年にインド・太平洋語族(en:Indo-Pacific languages)というものを提唱した。この場合の「インド」は、太平洋の語と対になっていることから、インド・ヨーロッパ語族という場合のインドではなく、上記の自然科学用語と同様に「インド洋」の省略形と受け取れる。ただしこの語族は研究者らにはほとんど受け入れられていない。