海流
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海流(かいりゅう)は、地球規模でおきる海水の水平方向の流れの総称。その性質により、暖流と寒流の2種類に大別される。
海流が発生する原因は諸説あるが、大きく分けて表層循環と深層循環がある。
表層循環と深層循環の意味は、メカニズム的に論じるか現象的に論じるかで違ってくる。メカニズム的に言えば、海面での風(卓越風)によって起こされる摩擦運動がもとになってできる「風成循環」が表層循環、温度あるいは塩分の不均一による密度の不均一で起こる「熱塩循環」が深層循環である。
風成循環と熱塩循環を総称して、海洋循環と呼ぶ。「海流」が海水の流れを重視した呼び方であるのに対して、「海洋循環」は特に地球規模での海水の巡り、循環を重視した呼び方であり、これらを使い分けることが多い。
黒潮とメキシコ湾流を二大海流といい、これらは流量が多く、流速も速い。
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[編集] 暖流と寒流
海水の比熱容量は大気のそれに比べ非常に大きいため、暖流・寒流は沿岸の気候に与える影響が大きい。
- 暖流(だんりゅう)とは、低緯度から高緯度へ向けて流れる海流のことをいう。多くの場合、周囲の大気を暖めて自身は冷やされる海流である。暖流沿岸では温暖で湿潤な気候が保たれる。これは、暖流が大気を暖めて水蒸気を供給するとともに、上昇気流が発生して雨が降りやすくなるためである。西ヨーロッパは北大西洋海流の影響を受けており、同緯度の東ヨーロッパよりも温暖な気候である。ただし、論文を根拠とした議論によれば、「ヨーロッパが温暖な理由は湾流の影響だ」という説明は不適切である。北アメリカ東岸に比べてヨーロッパが温暖である原因は海流による熱輸送ではなく大気側の要因も(海の風下であることおよび気圧の谷との位置関係)ある、という意味で“不適切”である。高緯度の北大西洋が温暖であること(おもな比較対象は北太平洋ということになる)の理由として海の熱輸送が重要なことは否定されていない。日本周辺には黒潮(日本海流)と対馬海流がある。
- 寒流(かんりゅう)は、高緯度から低緯度へ向けて流れる海流のことをいう。周囲の大気を冷やして自身は暖められる海流である。水蒸気を発生させにくい寒流は沿岸を冷涼で乾燥した気候にする傾向がある。寒流の影響で熱帯地域に形成される砂漠が海岸砂漠である。ペルー海流により形成されたチリのアタカマ砂漠はその代表例である。日本周辺にはリマン海流と親潮(千島海流)がある。
漁業への影響も大きい。寒流は比較的水温が低いため栄養に富んでおりプランクトンが豊富である。ここに、魚類の多数生息する暖流が流れ込む海域は好漁場となる。(例:ノルウェー海、南アフリカ共和国沖、日本海、三陸沖、タスマン海、アルゼンチン東方沖など)
[編集] 主な海流
名称 | 流域 | 暖流or寒流 |
黒潮(日本海流) | 北西大西洋、日本南岸 | 暖流 |
対馬海流 | 北西大西洋、東シナ海から日本海南部 | 暖流 |
北太平洋海流 | 北太平洋、日本東岸からミッドウェー諸島近海 | 暖流 |
北赤道海流(太平洋) | 北太平洋、メキシコ西岸からフィリピン東岸 | 暖流 |
北赤道海流(大西洋) | 北大西洋、ベルデ岬諸島近海から小アンティル諸島近海 | 暖流 |
北赤道反流 | 北西太平洋、日本南岸からフィリピン沖 | 暖流 |
赤道反流(太平洋) | 太平洋赤道域 | 暖流 |
赤道反流(インド洋) | インド洋赤道域、タンザニア東方沖からインドネシア西岸 | 暖流 |
南赤道海流(太平洋) | 太平洋赤道域 | 暖流 |
南赤道海流(大西洋) | 大西洋赤道域、ブラジル沖 | 暖流 |
南赤道反流 | 南西太平洋、パプアニューギニア・ソロモン諸島東方沖 | 暖流 |
アラスカ海流 | 北太平洋、アラスカ南岸 | 暖流 |
東オーストラリア海流 | 南西太平洋、オーストラリア東岸からニュージーランド | 暖流 |
モンスーン海流(季節風海流) | インド洋赤道域、インド近海 | 暖流 |
モザンビーク海流 | 南インド洋、モザンビーク東岸 | 暖流 |
アガラス海流 | 南インド洋、南アフリカ東岸 | 暖流 |
メキシコ湾流 | 北大西洋、メキシコ湾からアメリカ東岸 | 暖流 |
北大西洋海流 | 北大西洋、アメリカ東方沖からヨーロッパ西岸 | 暖流 |
ギニア海流(ギニア湾流) | 大西洋赤道域、ギニア湾岸 | 暖流 |
ギアナ海流 | 大西洋赤道域、南米大陸北岸 | 暖流 |
親潮(千島海流) | 北太平洋、カムチャツカ半島沿岸から日本東岸 | 寒流 |
アリューシャン海流 | 北太平洋、アリューシャン列島近海 | 寒流 |
リマン海流 | 北西太平洋、オホーツク海西部から日本海北部 | 寒流 |
ペルー海流(フンボルト海流) | 南東太平洋、ペルー沖 | 寒流 |
南極環流(西風皮流) | 南極海全域 | 寒流 |
カナリア海流 | 北大西洋、スペイン西方沖からカナリア諸島近海 | 寒流 |
ラブラドル海流 | 北大西洋、ラブラドル半島東岸 | 寒流 |
東グリーンランド海流 | 北大西洋、グリーンランド東岸 | 寒流 |
西グリーンランド海流 | 北大西洋、グリーンランド西岸 | 寒流 |
西オーストラリア海流 | 南インド洋、オーストラリア西岸 | 寒流 |
ベンゲラ海流 | 南大西洋、南アフリカ西岸からギニア湾 | 寒流 |
カリフォルニア海流 | 北東太平洋、カナダ西洋沖からカリフォルニア沖 | 寒流 |
[編集] 主な海洋循環
[編集] 表層循環
海洋表層部では、緯度ごとにいくつかの海流のまとまりが見られる。北半球の極付近など、地形の影響で地域によってはまとまりが見られないところもあるほか、湾などでは小規模な循環が見られる。基本的には、北半球の亜熱帯循環、南半球の熱帯循環、南半球の寒帯循環は時計回りで、北半球の亜寒帯循環、北半球の熱帯循環、南半球の亜熱帯循環は反時計回りに循環する。これらの大規模な循環に共通に見られるのが、大陸西岸海域において、低緯度から高緯度へ向かう流れが狭い地域に集中して流量・速度が増す「西岸強化」という現象と、大陸東岸地域で相対的にゆっくりとした流れとなる現象である。
地域 | 名称 | 属する海流 | |
北半球 | 高緯度 | 亜寒帯循環 | 太平洋:アラスカ海流、アリューシャン海流、親潮、北太平洋海流 大西洋:北大西洋海流、東グリーンランド海流、ラブラドル海流 |
低中緯度 | 亜熱帯循環 | 太平洋:黒潮、北太平洋海流、カリフォルニア海流、北赤道海流 大西洋:アンティル海流、メキシコ湾流、カナリア海流、北赤道海流 |
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赤道付近 | 熱帯循環 | 太平洋:北赤道海流、赤道反流 インド洋:モンスーン海流、ソマリ海流、赤道反流 |
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南半球 | 赤道付近 | 熱帯循環 | 太平洋:南赤道海流、赤道反流 インド洋:南赤道海流、赤道反流 |
低中緯度 | 亜熱帯循環 | 太平洋:南赤道海流、東オーストラリア海流、南極還流、ペルー海流 インド洋:南赤道海流、モザンビーク海流、アガラス海流、南極還流、東オーストラリア海流 大西洋:南赤道海流、ブラジル海流、フォークランド海流、南極還流、べンゲラ海流 |
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高緯度・極付近 | 寒帯循環 | 南極還流 |
[編集] 出典・外部リンク
- 気象庁 海洋の循環