カナリアス級重巡洋艦
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カナリアス級重巡洋艦(Crucero Pesado Clase Canarias)とは、スペイン海軍の重巡洋艦である。本艦はスペイン海軍が第二次世界大戦前に竣工させた最初で最後の重巡洋艦である。スペイン海軍はワシントン海軍軍縮条約に批准していないため、条約制限は課せられていなかったが、スペイン海軍が使用可能なドックの規模により結果的に条約範囲内に排水量が収められた稀有な艦級である。設計技師は「ドレッドノート」を設計した事で知られるアームストロング社のフィリップ・ワット。
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[編集] 建造までの経緯
スペイン海軍は1908年の米西戦争の敗北から海軍工廠をイギリスの資本により復活され、1909年から弩級戦艦「エスパーニャ級」を建造してから軍艦の建造に置いては設計・資材・兵装はイギリスより購入し、建造・組み立てはスペイン国内で行うという方針で海軍艦艇建造を行ってきた。1926年海軍計画において重巡洋艦3隻の建造が承認されたが、後に2隻のみ建造に改められた。重巡洋艦の建造に置いては前述の通り、本級も例外なくイギリスに設計を依頼して建造することとなった。この当時のイギリスを含む列強海軍は1922年に締結されたワシントン海軍軍縮条約の制限により巡洋艦の主砲口径や基準排水量に厳密な制限が課せられていた。しかし、スペインは同条約を批准していておらず、上手く条約の抜け道を突けばドイツ海軍のポケット戦艦「ドイッチュラント級」級に類似した存在により抑止力となれる艦を整備することも可能であった。しかし、設計を依頼するのは同条約加盟国のイギリスであり、当然ながらイギリスは自分らが不利に成りかねない艦を設計する事はしない(できない)ために、本級はイギリス海軍の既存の重巡洋艦の設計を流用して建造されることとなった。タイプシップはケント級重巡洋艦を採用し、迅速に建造できるようにした。
[編集] 艦形について
船体形状はイギリス条約型重巡洋艦の流れを汲む典型的な水面から乾舷までが高い平甲板型船体である。船体形状は船体長を長くとり、船体の幅を抑え水の抵抗を少なくし少ない機関出力でも高速を出しやすい形状とした。また、乾舷が高いということは外洋航行時の凌波性にも良好な性質が出るので巡洋艦には最適な艦形であり、本級はケント級よりも顕著で全長は4m程長く、幅は1.3m狭い。艦橋構造においてはケント級重巡洋艦で採用された箱型艦橋の更に上にもう一段の階を重ねたようなような異様な態をなしている。艦橋の両脇に見張り所と探照灯台を兼ねた二段の船橋を持つのは同じだが、大きく前方に張り出す頂部見張り台の形状はこの時代に例を見なく、本級とイギリス重巡洋艦を見分ける外観上の一つ目のポイントである。また、この時代の英国軍艦としては珍しく集合煙突を採用しているのが大きな特徴である。無論、集合煙突を採用したのは列強では珍しくはないのだが、重巡洋艦で外見でそれと判る位に煙突を纏めたのは大日本帝国海軍くらいで、他国は誘導煙路を船体内に隠すか煙突の下部のみ露出させるのが一般的であった。しかし、この本級では甲板上で二本の煙突を結合させた得意な形状をしており、外観上の二つ目のポイントとなっている。元来、イギリス海軍は自国艦は保守的に、海外に輸出する艦では新機軸をテストする傾向が強かったが、本級もそれに倣ったものであろう。
[編集] 外観について
僅かにシアの付いた艦首甲板から本艦より「1924年型 Mark D 20.3cm(50口径)砲」を連装砲塔に納め、1・2番主砲塔を背負い式で2基、塔型艦橋の背後に単脚檣、結合煙突の両脇には「1935年型 12cm(45口径)高角砲」を単装砲架で片舷に4基ずつを等間隔に配置し計8基装備した。その背後に艦載艇間置き場、艦載艇を運用するクレーンの基部を兼ねた単脚の後檣、後ろ向きに3・4番主砲塔二基を背負い式に配置した。また、雷装は特色があり、後檣付近の舷側に固定式で53.3cm三連装魚雷発射管を2基ずつ計12基搭載した。固定式というのは、船体の内部に単装魚雷発射管を内蔵しておき、発射の際は船体自体を回して相手目掛け放なつという前時代的な装備を装備である。
[編集] 主砲について
主砲はイギリス製の「1931年型20.3cm(55口径)砲」を採用した。本級に置いて搭載方式は連装砲4基8門だが、当初は3連装砲3基9門を予定していたが、そうでないのは当時のイギリス海軍での砲塔設計技術が他国に比べて劣っており、3連装砲塔を製造できなかった為である。そのため、運用実績の豊富で無難な連装砲塔を採用したのであろう。 その性能は重量116kgの砲弾を毎分3発で発射できた。砲塔の旋回は首尾線方向を0度として左右120度で、俯仰角度は仰角70度・俯角5度でケント級と同じく一応は対空射撃も考えられてはいるが、発射速度が毎分3発程度では対空射撃は無効に近い。なお、最大射程距離は仰角49度で29,750 mである。
[編集] 高角砲、その他の備砲について
高角砲は新設計の「1935年型 12cm(45口径)高角砲」を採用した。この砲は毎分辺り15~20発を発射でき、旋回角度は左右120度、俯仰角度は仰角80度・俯角5度と中々の性能であり、仰角45度で20,000 mの射程を持っていた。他にはスウェーデンはボフォーズ社の「40mm(60口径)機関砲」を12門、20mm機銃を3丁備えていた。機関砲に関しては有効射程が短い上、故障が頻繁に起きる「40mm(39口径)ポンポン砲」を採用しなかったのは特筆に値する。これにより、本級はケント級よりも有効な対空火力を得られた。
[編集] 機関について
機関配置は前に缶室、後ろにタービン室を置く全缶全機配置で、被害時にはボイラーか機関が全滅する生存性の低い配置である。ボイラー配置はボイラー4基を2室に別けて配置したために本来は二本煙突となるはずが甲板上で結合させたために不恰好な結合煙突となっている。これは運用性能が悪かったのか、竣工後の1952年の近代化改装で普通の直立型二本煙突に改修された。機関はパーソンズ式ギヤード・タービンを4基を搭載するが、ここから変っており2基を1軸ずつ纏めて2軸推進を採っていた。1万トン級で2軸推進なのは条約型重巡洋艦でも珍しく、ここでもイギリスの実験艦的設計が光っている。機関出力はヤーロー式重油専焼缶8基とパーソンズ式ギヤードタービン4基2軸推進により最大出力90,000hp、速力33ノットを発揮した。航続距離は15ノットで8,000海里であった。
[編集] 防御について
本艦は船体防御よりも航続距離と航海中の乗員の快適性を重視するイギリス式設計のために防御能力は脆弱で、舷側装甲厚は最大で51mm、甲板装甲厚も38mm、砲塔装甲も25mmでしかない。唯一として火薬庫のみ114mmもの装甲を持つ。
[編集] 歴史 起工からスペイン内戦
1番艦「カナリアス」は1928年8月15日に「バレアレス」と共に起工したが、スペイン国内の政情不振のために海軍予算の削減が相次ぎ、工期は延期に延期を重ね、1931年5月にようやく進水式を行ったが竣工まで5年の歳月を要し1936年9月に竣工した。2番艦「バレアレス」は進水式は1932年4月28日に行い、竣工は1936年12月28日に竣工した。 しかし、僚艦とも計画通りに竣工したとはお世辞にも言えず、「カナリアス」は竣工時に12cm(45口径)高角砲の製造が間に合わず、仮設に10.2cm(45口径)単装高角砲を搭載したし、「バレアレス」は主砲塔の組み立てが遅延し、竣工時は4番砲塔が未搭載であった。両艦ともに、公試が終った頃はスペイン内戦の真っ最中であり艤装を行っていたフェロル海軍工廠を、フランコ将軍率いる右派の反乱軍が接収した事により自動的に本級2隻は反乱海軍に属して行動する事になった。「カナリアス」は竣工後の12月にはソ連の軍事援助物資を積んだ商船「コムソマール」を撃沈、翌年3月には軽巡洋艦「セルヴェラ」と共にジブラルタルを抜けて政府軍の「グラヴィナ」「アルミランテ・フェルナンデス」を攻撃、「アルミランテ・フェルナンデス」を撃沈、「グラヴィナ」を損傷させ避退させた。この海戦により反乱海軍はスペイン西南部の制海権を得た。一方、「バレアレス」は1937年9月に政府軍の援助物資を積んだ輸送船団を襲撃。しかし、政府軍軽巡洋艦「リベルタード」「メンデス・ヌソス」2隻と駆逐艦7隻と、強力な布陣に阻まれた「バレアレス」は返り討ちにあい火災発生、「リベルタード」に命中弾を出すも逆に撤退する羽目になってしまった。この後も「カナリアス」は数々の武勲を立てるのと対照的に「バレアレス」は武勲にも運命にも恵まれなかった。1938年3月6日未明に生起したバロス岬沖海戦では仇敵の「リベルタード」と戦った「バレアレスは探照灯を向け、果敢に射撃を行ったが。まだ深夜ということもあり、明かりを点けて目だった「バレアレス」に政府軍の駆逐艦隊が殺到。駆逐艦は立て続けに10本の魚雷を射出し、内3本が「バレアレス」に命中。たちまちの内に轟沈してしまった。姉妹艦を失った「カナリアス」は無傷のまま数々の武勲と共に内戦を勝ち抜いた。
[編集] データ
[編集] 性能
[編集] 竣工時
- 水線長:-m
- 全長:193.8m
- 全幅:19.5m
- 吃水:5.3m~6.5m
- 基準排水量:10,670トン
- 常備排水量:-トン
- 満載排水量:13,200トン
- 兵装:1924年型 20.3cm(50口径)連装砲4基、1935年型 12cm(45口径)単装高角砲8基、40mm(60口径)12門、20mm機銃3丁、53.3cm三連装水上魚雷発射管2基
- 機関:ヤーロー式重油専焼缶8基+パーソンズ式ギヤードタービン4基2軸推進
- 最大出力:90,000hp
- 最大速力:33ノット
- 航続性能:15ノット/8,000海里
- 装甲
- 舷側装甲:51mm
- 甲板装甲:38mm
- 主砲塔装甲:25mm(前盾)、25mm(側盾)、-mm(後盾)、70mm(天蓋)
- 火薬庫:114mm
- 司令塔:-mm
- 航空兵装:水上機-機
- 乗員:1,042名
[編集] 同型艦
- 「カナリアス」
- 「バレアレス」
[編集] 関連項目
[編集] 参考文献
- 世界の艦船 1986年1月増刊号 近代巡洋艦史 海人社
- 世界の艦船 2006年6月号 回想の条約型重巡 海人社