カムイ伝
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ウィキポータル |
日本の漫画作品 |
日本の漫画家 |
漫画原作者 |
漫画雑誌 |
カテゴリ |
漫画作品 |
漫画 - 漫画家 |
プロジェクト |
漫画作品 - 漫画家 |
『カムイ伝』(カムイでん)は、白土三平の長編劇画。「ガロ」に連載。のちに週刊少年サンデー、ビッグコミックに、続編『カムイ外伝』そしてその続編『カムイ伝 第二部』が描かれている。
士農工商に属さない最下層にすむ人々の視点から江戸時代の階級制度・生活・風習・歴史・農民の迫害等を描いた作品。発刊当時、「江戸時代の文献を読む前にカムイ伝を読破すべし」とまで言わしめた名作。唯物史観の教科書視もされた。
旧来の漫画が小説に比べてストーリー性が希薄であったのに対し、様々な群像が入り乱れる骨太のストーリーが小説・劇画を超えた漫画として高く評価され、それまで評価が低かった漫画に新しいジャンルを拓き、時代小説に比しても遜色ない漫画路線の礎を築いた。
忍者の秘術を駆使した戦い、産業の発達、自然と人間、人間ドラマ、封建社会制度(階級制度、被差別部落問題も含む)等々様々な視点から読み解くことが出来るため、何度読み返しても新たな発見がある、とも評される。
カムイは主人公である忍者、およびサブストーリーとして語られる狼の名前である。最初に登場する少年カムイは途中で処刑され、双子の兄カムイに入れ替わる。主にカムイ(非人)、正助(農民下人)、竜之進(武士)、という三者三様の若者を中心に物語は展開されてゆくが、第一部において人間のカムイは物語の進展にともない傍観者的になり、農民の正助が物語の中心となっていく。
[編集] あらすじ
江戸幕府により厳しい身分差別が行われていた時代。非人出身であったカムイはその身分制度のしがらみからの脱却を図り、公儀隠密の下忍となり、「夙のカムイ」の二つ名を持つ。しかしカムイは、日置領における任務遂行の結果として、徳川家康の出自についての秘密を発見してしまう。知るべからざる秘密を知ってしまったカムイは、以後仲間の公儀隠密らにより命を狙われることになり、止むにやまれず「抜け忍」となって、阿修羅の如き闘いの道を歩むことになるのだった。
カムイはこの物語全体の主人公という設定にはなっているが、それほど出番は多くはない。実質的な主人公はカムイの姉ナナの夫となった下人の正助(のちに本百姓となる)である。正助は仲間たちを指導して綿の栽培に着手し、土地の生産性を高めて百姓の生活を高めようとしたが、代官と結託したあくどい商人の妨害などにより頓挫させられる。これに対して正助たちは大一揆を起こした。一揆そのものはいちおう成功したが、その首謀者たちはことごとく処刑された。正助は助命されて生還したが、そのために百姓たちから裏切り者と見なされ、リンチを受けて殺されたかに見える……というところで第一部完となる。(正助を助命したのは、代官錦丹波の計略であった)
きら星のごとく名脇役の登場人物が登場する、まこと壮大なスケールのこの物語は、第一部、外伝、第二部……と継続中であり、2006年現在、いまだ未完である。カムイ伝は全三部作であると白土は述べている。しかも、既にこれほどのサーガが描かれながら真のテーマはまだ描かれていないとまで言及している。
[編集] 登場人物
- カムイ(弟)
- 物語序盤の主人公。身分上最下層とされる「夙谷」と呼ばれる非人部落の出身だが、物乞いに甘んじる部落の連中を嫌って、自由と誇りを求め単身で生きようとする。百姓小頭たちによって非人のコゲラが殺され復讐のため立ち上がったが、捕らわれ斬首の刑に処せられた。容姿端麗で熱血漢。
- カムイ(兄)
- 死んだはずのカムイが再び姿を現したことで、それまで一人だと思われていたカムイに双子の兄がいることが判明する。以後、兄カムイがシリーズを通しての主人公となる。容姿は弟カムイと瓜二つで、弟に比べ冷静沈着。喧騒を嫌い、特に騒がしい女を毛嫌いしている節がある。強くなることが唯一の自由だと信じ、その信念が自らを忍の道へと導く。類まれな身体能力と洞察力で数々の秘術を体得し、忍者としての才能を開花させた。主人公ではあるが、物語の流れを左右するような位置には存在しておらず、あくまで登場人物のひとりにすぎない。ときに鏡隼人(かがみ・はやと)という美剣士に変装することもある。
- 正助(しょうすけ)
- 「花巻村」の下人の出身で、カムイの姉であるナナ(非人)の夫となる。自らの生い立ちも下人の父と非人の母を持つ。勤勉で利口なうえ慈悲深い性格から仲間内の信頼が厚い。のちに本百姓となり農民の生産力を高め、全ての百姓・非人の生活経済を向上させ平等な世界を築こうと人々を導くが…。第一部において中心となる人物。
- 草加竜之進(そうか・りゅうのしん)
- 日置藩の次席家老の嫡子。若くして剣の腕が立ち周囲から前途有望と目されていたが、橘軍太夫との勢力争いのために家老である父・草加勘兵衛が失脚、一門すべて殲滅され失意に堕ちる。父の遺言に従い自らは脱藩し、浪人の身となり復讐の機を狙う。才色兼備で誠実な青年剣士。
- 笹一角(ささ・いっかく)
- 日置藩剣法指南役で竜之進の師匠。道場破りに来た水無月右近に勝負で負け、剣客としての誇りを失い脱藩。露木鉄山(剣豪)のもとで修行を積み、右近への復讐を誓っていたが、橘軍太夫の策により弟の笹兵庫が切腹したことを知り、一門の復讐を果たすべく武士の本能に目覚めた。
- 橘軍太夫(たちばな・ぐんだゆう)
- 日置藩の目付役。野心家で藩の実権を握ろうと企んでおり、事あるごとに領主に甘言を弄する。都合の悪い相手に対して徹底的に排他的な行動を取る。謀略に長けた男。竜之進や一角たちの仇役。三角を嫌っているが、上下関係を理解しているので表面上は従っているフリをしている。
- 橘一馬(たちばな・かずま)
- 橘軍太夫の嫡子。若い頃、竜之進に試合で負けて以来、堕落の一途をたどっていたが、叔父の橘玄暮の荒治療で魔剣・無人流の使い手となる。日置藩の廃藩と軍太夫の死をきっかけに浪人の身となった。
- 水無月右近(みなづき・うこん)
- 浪人剣士。道場破りにおいて一角を倒すほどの剣客。非人頭の横目に挑戦を挑み、まんまと返り討ちにされ左足を失った。己の誇りをかけ強い相手を探しながら旅を続けている。
- 横目(よこめ)
- 日置藩一帯の部落を仕切っている非人頭。橘軍太夫の手先となり、非人でありながら庄屋並みの高待遇を受けている。カムイに一目置いており、自分の配下にしたがっているが結局は拒まれ、あげくカムイと対峙した際に重傷を負った。鎖鎌の使い手で武術者。
- サエサ
- 横目の娘。カムイの強さに惚れており、その情熱のあまり自らも忍者となった。諜報活動を行いながら神出鬼没のカムイを追い続ている。父・横目からカムイを諦めるよう諭されるが、まったく聞く耳を持たない。
- キギス
- 横目の下人。自らの立場上、サエサを「おじょうさん」と呼んでいるが、実のところ横目の嫡子であり、サエサの兄であった。カムイの姉ナナを崇拝しており、武士の手先となり非人や百姓たちの仲を裂こうとする横目に不信感を抱くようになる。
- 権(ごん)
- 花巻村の農民の息子。正助と共に活動し、正助の試みを支えてきた人物。正助と同じように人々の生活向上を考えるようになるが、段々と正助に頼り過ぎる人々を見て、もし正助が死んだらどうするんだと言う危機感から、自分自身も強くなろうと成長して行く。
- 小六(ころく)
- 花巻村の農民。娘のオミネに対し、日置藩領主の強引な嫁ぎ話しが挙がったが、オミネはそれを苦痛に自殺。侮辱されたと激昂する領主は、オミネの死体を切り刻み野ざらしにしてしまう。それを見た小六は発狂してしまい狂人となった。以後、正助が養うようになる。
- オミネ
- 小六の娘。竜之進の恋人であり、正助が密かに恋焦がれる女性であったが、日置藩領主の強引な嫁ぎ話しを苦痛に自殺してしまう。その死体を見た竜之進は絶望のあまり号泣した。
- 花巻村庄屋(はなまきむら・しょうや)
- 花巻村の庄屋。当初は正助を忌み嫌っていたが、利用する価値があると分かると途端に支えるようになった。農民と武士と言う関係の中では、武士寄りの発言をする。役人の言いなりで農民からの支持はそれほど無い。
- 竹間沢村庄屋(ちくまざわむら・しょうや)
- 竹間沢村の庄屋。正助に読み書きを教え、正助の良き理解者であり支持者だが、武士からの圧力に抵抗するほどの力は持たない。
- タブテ
- 夙谷部落の非人で、カムイを崇拝していた。後に仁太夫(にだゆう)と名乗り、江戸こじきの大頭になってからは日置藩の非人に大きな力を行使するようになる。
- 苔丸(こけまる)
- 「玉手村」の下人で、蚕を飼って生計を立てていたが、一揆を起こしたことから非人に身を落とし「スダレ」とあだ名されるようになる。正助の最大の理解者であり支持者。
- 弥助(やすけ)
- カムイの父で、夙谷部落の小頭。罪人の処刑や牛馬の死体処理など、人が嫌う仕事を請け負う部落民の掟に従いながら生きている。妻を亡くし、男手で子供を養っていたが、息子のカムイ(弟)が処刑されるなど、過酷な日々を過ごす。
- ナナ
- カムイの姉であり、正助の妻。正助との愛をつらぬき結ばれるも、厳しい身分差別のため正式な妻としては認められていない。正助を信じ、厳しい現実に耐え忍びながら生きている。
- ダンズリ
- 農民としては最下級の下人。正助の父で、「花巻村」で一番足の速い男。当初は非人を差別していたが、正助の影響で改心してゆく。息子を信頼し、弾圧に屈しない強い意志を持つ。
- 露木鉄山(つゆき・てつざん)
- 剣豪。まだ未熟だったカムイに剣術を教えた最初の師匠。大きな秘密を知る忍者を斬ったことで、自身もまた大きな秘密を知る事件に関わった人物として忍者衆に斬られ最期を遂げた。
- アテナ
- 露木鉄山の娘で、薙刀の名手。笹一角に想いを寄せており、仇討ちに燃える一角の跡を追うようになる。父の死後は青木鉄人(剣豪)のもとに身を寄せていたが、そのうち水無月右近や松林剣風と行動をともにする。一角の死後は仏門に入り尼となった。
- 赤目(あかめ)
- 伊賀忍者でありカムイの師匠。作者に『怪物的な忍び』と語らせるほどの凄腕だったが、非情になりきれぬ己を悟って「抜け忍」となり、忍びの掟によりカムイをはじめとする忍者衆から追われる羽目に。しかし天才忍者と評されるカムイでさえ赤目を倒すことはできなかった…。普段は番頭の市(いち)と名乗って生活している。
- 三角(みすみ)
- 日置藩城代家老。橘軍太夫と地位権力を争う。徹底した現実主義者で、利益のある方に転ぶ。橘軍太夫よりは長期的な視野を持ち、農民に対しては多少の理解があるが、上下関係はしっかりと示すべきとの価値観を持つ。正助を高く評価している。
- 蔵屋(くらや)
- 日置藩の御用商人。莫大な利益を上げるも、途中から経営に失敗し、大きな赤字を出した。そして資本が無くなった為、農民の生産物を安値で買い叩こうとしたが、暴動が起きた。運上金などの献金も日置藩に出来なくなった為、徐々に力を弱める。後に夢屋と市場を争って負ける。
- 大蔵屋(おおくらや)
- 夢屋の代理商人。夢屋の名前を出さずして日置藩が生み出す利益を吸い上げようとした。仮に失敗しても、大蔵屋に全ての責任を押し付け、夢屋は無傷であろうとした。
- 夢屋七兵衛(ゆめや・しちべえ)
- 資本力で階級社会の楔さえも越えようとするスケールの大きな商人。流島の刑に処されていたとき赤目と出会い、己の頭脳と彼の行動力を柱にして資本の拡大を図っていく。赤目と二人だけのときは、「夢さん市さん」と呼び合っている。
- クシロ
- 海を愛する漁民の青年。漁師の伝統を廃し企業化しようとする夢屋に敵意を抱いており、「金は人を腐らせる」として武士や商人を嫌っている。その頑固すぎる強い意志は、時に愛する人を失うことにもなった。キクという娘と相思相愛の仲。
- キク
- 流人の娘でキリスト教徒。猟師が起こした一揆をかばい自ら捕縛されるが、後にクシロに救出される。他のキリスト教徒を救うため苦渋の決断のすえ踏み絵を行った。聖母マリアの再来とさえ言われた心美しき女性。
- 搦の手風(からみのてぶり)
- 幕府隠密団の小頭。日置藩の謎を追いつつ、カムイ殺害の命を受け暗躍している。カムイを窮地に追いやるほどの技を持つ忍者。
- 橘玄藩(たちばな・げんば)
- 橘軍太夫の実弟。無人流(むにりゅう)と呼ばれる魔剣の使い手で、竜之進に決闘を申し出るも、カムイの邪魔が入り返り討ちにされた。軍太夫の懐刀として悪行を繰り返す残忍な男。