カルナ
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カルナ(कर्ण IAST:Karṇa)は、インドの叙事詩『マハーバーラタ』に登場する不死身の英雄。クンティーがクル王パーンドゥの妃となる以前に、太陽神スーリヤとの間に生んだ子。パーンダヴァ5兄弟と敵対するカウラヴァの中心的人物の1人。優れた弓の使い手であり、大英雄アルジュナを宿敵とする。
クンティーはスーリヤの子を産む条件として、生まれてくる子供が父と同じ黄金に輝く鎧を所有することを要求した。その結果、カルナは黄金の鎧を身に着けた姿で生まれてきた。この鎧は皮膚のごとくカルナの体の一部としてつながっていたため、脱ぐことができなかったが、この鎧が彼の体にある限りカルナは不死身であった。しかしクンティーは生まれたばかりのカルナを箱に入れて川に流してしまった。カルナは御者に拾われ、ラーダーという養母に育てられた。長じて弓の名手となったカルナはドゥルパダ王の娘ドラウパディーの花婿を選ぶ競技会に参加し、アルジュナでなければ引くことのできない強弓を見事に引き絞って見せる。しかしドラウパティーが御者の息子を夫とするつもりはないと宣言したため、競技を止めざるを得なくなった。しかし、パーンダヴァを敵視するドゥリヨーダナがカルナを王子としたので、不名誉からは救われた。この出来事以来、カルナはカウラヴァの有力な協力者となり、パーンダヴァの敵となった。クルクシェートラの戦いの前、クンティーはカルナと面会し、パーンダヴァが彼の弟であることを告げ、パーンダヴァの味方になるよう説いた。しかしドゥリヨーダナの恩を忘れないカルナはこれを拒否した。
彼にとって不運だったのは、戦争直前、アルジュナに勝利を与えようとするインドラ神の策略によって黄金の鎧を喪失したことであった。カルナは毎日正午に沐浴し、父である太陽を礼拝する習慣があった。そしてそのときバラモン僧が施しを求めてきたならば、何を乞われても望みの品を贈っていた。そこでインドラはバラモンの姿に化けて正午にカルナの前に現れ、彼の黄金の鎧を所望した。カルナは驚いて、この鎧は自分の体と一体になっており脱ぐことができないと説明し、別のものを要求するよう懇願した。しかしバラモンはそれを拒否し、彼の鎧を要求し続けた。そのうちカルナはこの僧の正体に気づき、その要求にこたえることにした。彼は苦痛に耐えながら小剣で体とつながっている部分を切り裂いて、体を血に染め、微笑を浮かべながら鎧をインドラに手渡したという。クルクシェートラの戦いでは、カルナはアルジュナと激戦を演じたが、カルナの戦車の片方の車輪が大地に陥没し、アルジュナの矢がカルナの首を切り落とした。死後、カルナは昇天し、スーリヤと一体化したとされる。
[編集] 神話研究
カルナの最後については同様の話がスーリヤにも見られる。すなわちカルナの父であるスーリヤとアルジュナの父であるインドラが戦ったとき、インドラはスーリヤの戦車の片方の車輪を「外す」あるいは「埋め込む」ことによって勝利したとされる。この神話上の対立構造が叙事詩でも見受けられるのである。またスーリヤが2人の母を持つように、カルナも2人の母を持つ。
神話学者吉田敦彦氏は、比較神話学の見地からカルナを取り上げ、応神天皇の伝承と比較している。
[編集] 関連項目
- マハーバーラタ
- アルジュナ
- 比較神話学
- ジョルジュ・デュメジル