クワイン・マクラスキー法
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
クワイン・マクラスキー法(—ほう; Quine-McCluskey algorithm)はブール関数を簡単化するための方法である。カルノー図と同様の目的で使われるが、コンピュータによる自動化に適しており、またブール関数が最簡形かどうか決定的に求めることができる。W・V・クワインが提案し、E・J・マクラスキーが発展させた方法なのでこの名がある。
クワイン・マクラスキー法は3段階からなる。
- 関数の主項をすべて求める
- 求めた主項を表にまとめ、必須項を求める
- 最簡形を求める
目次 |
[編集] 例
[編集] 主項を求める
以下の真理値表で表されるブール関数を簡単化する。
A | B | C | D | f | |
---|---|---|---|---|---|
m0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
m1 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 |
m2 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 |
m3 | 0 | 0 | 1 | 1 | 0 |
m4 | 0 | 1 | 1 | 0 | 0 |
m5 | 0 | 1 | 1 | 1 | 0 |
m6 | 0 | 1 | 0 | 0 | 1 |
m7 | 0 | 1 | 0 | 1 | 0 |
m8 | 1 | 1 | 0 | 0 | 1 |
m9 | 1 | 1 | 0 | 1 | 0 |
m10 | 1 | 1 | 1 | 0 | X |
m11 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 |
m12 | 1 | 0 | 1 | 0 | 1 |
m13 | 1 | 0 | 1 | 1 | 1 |
m14 | 1 | 0 | 0 | 0 | 1 |
m15 | 1 | 0 | 0 | 1 | X |
X は Don't care を表す。
この関数の加法標準形は、最小項の和をとって(Don't care は無視する)
となる。
もちろんこれはまだ最簡形ではない。まず、すべての1となる最小項をビット列中の1の数(ハミング重み)ごとに表に列挙する。また Don't care の項も加える。
1の数 | 最小項 | ビット列表現 |
---|---|---|
1 | m6 | 0100 |
m14 | 1000 | |
2 | m8 | 1100 |
m12 | 1010 | |
m15 | 1001 | |
3 | m10 | 1110 |
m13 | 1011 | |
4 | m11 | 1111 |
これで最初の準備が整った。1ビットのみが異なっている(ハミング距離が1となる)最小項の組を見つけて、その2つをまとめる。これをすべての最小項の組み合わせについて確かめる。こうしてできた項を再び1の数ごとにまとめ、同じ操作を再帰的に適用する。それ以上まとめることができない項にはしるし(*)をつける。この印を付けた項が主項となる。
|
|
|
[編集] 必須項を求める
主項のなかから必須項をみつける。横軸に最小項(Don't care でないもの)、縦軸に求めた主項を書いた表を作る。主項がカバーする最小項の欄にしるし(X)を書く。ある最小項をカバーする主項が1つしかないとき、その主項を必須項という。
6 | 8 | 11 | 12 | 13 | 14 | ||
m6,8 * | X | X | -100 | ||||
m8,10,12,14 | X | X | X | 1--0 | |||
m12,13,14,15 | X | X | X | 10-- | |||
m10,11,12,13 * | X | X | X | 1-1- |
例では2つ必須項が求まった。表中でしるし(*)をつけてある。必須項はその名のとおり、簡単化した関数に必ず含まれていなければならない項である。
[編集] 最簡形を求める
式を短くするために主項に番号を振りなおす。m6,8 = e1 , m8,10,12,14 = e2 , m12,13,14,15 = e3 , m10,11,12,13 = e4 とおく。
簡単化した後の関数fはすべての最小項をカバーしていなければならない。最小項m8が含まれる条件はブール代数式で (e1 + e2) となる。fがすべての最小項を含むためには、
- e1(e1 + e2)e4(e2 + e3 + e4)(e3 + e4)(e2 + e3)
を満たす必要がある。これを展開すると
- e1e2e3e4 + e1e2e4 + e1e3e4
となる。最も簡単なのは e1e2e4 または e1e3e4 である。よって最簡形は
または
である。
[編集] 計算量
4変数以上のブール関数を扱う際にはカルノー図よりも実用的であるが、クワイン・マクラスキー法が使える範囲にも限りがある。充足可能性問題というNP困難な問題を対象としているため、実行時間が入力長の指数関数的に増加してしまうのである。n変数関数における主項の数の上限は3nとなる。n = 32とおくと、主項の数は6.5 × 1015を超えることもある。変数の多い関数の簡単化においては最適解を保証しないヒューリスティックな方法が必要になる。
[編集] 関連項目
- Petrick's method(英語版)
[編集] 参考文献
- 田丸 啓吉 (1989年).論理回路の基礎(改訂版). 工学図書株式会社. ISBN 4-7692-0204-0.
[編集] 外部リンク
- クワイン・マクラスキー法の解説 (図あり)
- Javaアプレット
- Pythonによる実装
- Quinessence Free Pascalによるフリー実装
- Javaによる文芸的プログラム実装
- ステップごとに実行するJavaアプレット