トカマク型
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トカマク(tokamak)とは、高温高密度プラズマを閉じこめる磁場配位の一つである。現在開発中の核融合炉における主要プラズマ閉じ込めの方式の一つで、国際熱核融合実験炉ITERでも採用されている。
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[編集] 磁場の構造
トカマクではプラズマはドーナッツのような形状の真空容器内に閉じ込められる。このドーナッツの大円周方向をトロイダル方向、小円周方向をポロイダル方向と呼ぶ。
トーラス形状のソレノイドコイル(トロイダルフィールドコイル、TFコイル)に電流を流すとトロイダル方向に閉じた磁力線ができる。この閉じた磁力線を単純トーラスと呼ぶ。これがあれば、その周りをらせん運動することでプラズマが長時間閉じ込められるのではないかと考えられるが、話はそんな簡単ではない。このままでプラズマを閉じ込めようとすると磁場勾配ドリフト効果によって荷電分離が発生し、荷電分離により電場が発生し、この電場によりE×Bドリフトが発生するので、単純トーラスの磁場ではプラズマは閉じ込められない。
そこで、トカマクでは荷電分離を発生させないためにポロイダル方向の磁場を作る。その為にドーナッツの形状をしたトカマク炉の真ん中の空芯部分にソレノイドコイルを入れる。これをセンターソレノイドコイル(CSコイル)と呼ぶ。プラズマは完全導体とみなせるので、CSコイルに電流を流すとプラズマ中にトロイダル方向の電流が誘導される(トランスを思い浮かべよ)。これをプラズマ電流と呼ぶ。この電流によりトカマク磁場が発生する。
しかし、TFコイルとCSコイルだけではプラズマは安定には存在し続けられない。ドーナッツ状のプラズマ中にトロイダル方向のプラズマ電流がながれるとフープ力によりプラズマは膨らもうとするので、それを押さえつける必要がある。これは単純な円環コイルを用意すれば良く、ポロイダル成分の磁場を発生させるのでポロイダルフィールドコイル(PFコイル)と呼ばれる。
さらに、プラズマを壁から触れさせないようにしつつ、かつ不純物(プラズマのイオンが真空容器の壁をスパッタリングすることで発生する)を廃棄する為のダイバータという装置もトカマクにはなくてはならない。
以上を整理すると
- TFコイル -> トロイダル磁場を生成
- PFコイル -> (プラズマを制御する)ポロイダル磁場を生成
- CSコイル -> トロイダル方向のプラズマ電流を誘導する
- ダイバータ -> 不純物制御
[編集] 歴史
1950年代に旧ソ連のイゴール・タム、アンドレイ・サハロフらによって考案された。「トカマク」(Токамак)の語はこの方式の構造を示すロシア語"тороидальная камера в магнитных катушках" (toroidal chamber in magnetic coils)の頭字語である。電流(ток)、容器(камер)、磁気(магнит)、コイル(катушка)の組み合わせが元になっているとも言われている。
トカマクではプラズマ中に流れる電流でプラズマ自身を閉じ込める磁場を作るので、プラズマの自律制が必要であり、当初この方式は困難だろうと考えられていたが、ロシアのT-3というトカマク炉が非常に良いプラズマ性能を有した事から磁場配位の主流になった。1970年代に日米欧に大型のトカマク装置が建設され、核融合炉を現実の物とする為の多くが発見されることになる(後述)。
[編集] ヘリカル型との比較
- ヘリカル型よりも炉が簡単になる。(トカマク炉の方が建設コストが安くなる)
- プラズマ電流が流れているので圧力駆動の不安定性だけでなく電流駆動の不安定性も制御する必要がある。
- ディスラプションが発生する。(ヘリカル炉の方が長時間閉じ込められる。)