ピッケル
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ピッケルは、積雪期の登山に使うつるはしのような形のT字型の道具。語源はドイツ語のアイスピッケル(Eispickel)。英語ではアイスアックス(ice axe)と呼ばれる。
その用途は幅広く、本来の用途である氷雪の斜面で足がかりを作るのに用いるほか、確保の支点(ビレイピン)に使ったり、滑落したときの滑落停止に使ったり、グリセードの際に制動及び姿勢の維持に使ったり、杖代わりに使ったり、アイスクライミングの時には2つ持って(ダブルアックス)手掛かりにしたり、時には雪上でテントのペグのかわりに使ったりする。
山岳地帯での縦走用には、柄が真っ直ぐで比較的長いもの(60-70cm程度)が用いられるが、氷壁などの突破用には短め(30-40cm程度)のものが用いられる。氷壁用のものは、オーバーハングしている局面を考えて柄がカーブしているものもある。 かつては(近世-戦前程度)杖としての使用局面が多かったらしく100cm程度あった。現在は杖(折りたたみ式のスキー用ストックに近い)を別に用意することも多く、シビアな局面だけで利用されることが増えたため短めのデザインとなっている。
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[編集] 歴史
70年代頃迄は、金属部分のヘッドとシュピッツェ(石突)を木製のシャフトが繋ぐ、いわゆるウッドシャフトが主流であったが、耐久性や軽量であることなどから現在は一部を除いて大半が金属シャフトに置き換わっている。 戦前よりスイス製のベント、シェンク、ウィリッシュなど銘品が輸入され、非常に高価だったが、徐々に国産化もなされ、有名な所では門田、山内、森谷などが多くの岳人に愛用された。 戦後はフランス製ではシモン、シャルレなども人気があり、国産ではダイナミックスノーマンやトップなども多く愛用された。
ピッケルの鍛造には日本刀に相通じる高い技術水準が注がれており、戦前より国産ピッケルは舶来品に勝るとも劣らない品質と性能を併せ持っていた。 それゆえピッケルは古くから「岳人の魂」などと呼ばれ充分な手入れを行い磨き込まれて愛用されてきたが、現在では単なる登攀用具の一部となり、かつてのような「拘り」を以て愛用する登山者は殆どいなくなっている。
戦争末期には禁製品となり、気軽に登山出来る状況にはなくなったが、戦地に赴く若者の中には、自らのピッケルを後輩に託し生きて帰るまで「預かってくれるよう」言い残し二度と帰らなかった岳人も多かった。 戦中の山内作などはその均整の取れた美しい姿により今だに多くの岳人を魅了して止まない名刀も多い。
[編集] 各部名称
ピッケルの各部分には区別のための名前が付いており。柄の部分をシャフト、柄の先端に付いた角を石突(いしづき)、頭部のつるはしのように細く尖った刃の方をピック、頭部の鍬(くわ)のように広がった刃の方をブレードという。 ブレードの素材は各種鋼鉄、アルミニウム合金、チタン合金などである。(素材についての相違はアイゼンの項を参照のこと) 各先端部分は用途上、非常に鋭く作られている。そのため、輸送時は革や合成樹脂製のカバーを取り付けなければ危険である。(なお、リュックサックの外側に取り付けて歩くと危険であるため、使用しない間は中に収納して運ぶことが勧められる)
[編集] 使用法
一般的に登高時の杖替わりと思われがちだが、ピッケルは登攀用具の一部であり、シャフトの末端を持ってピックを打ち込んだりブレードで雪面を削り(カッティング)足場を作ったりと使い方は実に多様である。 また登攀中はザイルと併用し確保支点としたり、ピックの先に小型スコップを装着し幕営の整地に使用したりと、冬山登山には必要不可欠な道具となっている。
しかし何よりも最も重要な使用方法は滑落停止用である。 これは登高者が何等かの理由で雪面を滑落した場合、正しい訓練によって身に付けられた操作方法によりピックを雪面に打ち込み直ちに滑落を停止させることにある。 これら一連の操作は繰り返し行われる訓練によって身に付けられる重要な技術であり、ピッケルの持つ本来の使用法の中心をなすものである。
近年はストックを併用する場合が多く、杖替わりとして使用することもないため、専ら登攀専用に特化されたシャフトの短いものが主流になっている。
[編集] バイル
ピッケルからアイスクライミング用に特化したバイル(アイスハンマー)などの派生物もある。これらアイスクライミングで使うピッケル類はアックスと称される。総じてシャフトが短くなってピック側に曲がり、ピックの部分もシャフト側に曲がり、軽量化され、ピックの刃が鋭く研磨されるという傾向を持つ。
バイルはブレードの代わりにハンマー(金槌)が付けられている。これは、氷壁や岩場に足場やビレイ(安全確保)点となるピンやハーケンを打ち込むためのものである。