フォーティテュード作戦
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フォーティテュード作戦は、第二次世界大戦において、ノルマンディー上陸作戦(オーバーロード作戦)に付随して連合軍が行った欺瞞作戦のコードネームである。
本作戦は、ノルウェー侵攻を装ったフォーティテュード・ノースと、フランスへの主な侵攻がノルマンディーではなくパ・ド・カレーで行われるとドイツ軍に信じさせることを狙ったフォーティテュード・サウスに分けられる。
フォーティテュード・サウスは第二次世界大戦の中で最も成功した、そして恐らく最も重要な欺瞞作戦のひとつだった。
フォーティテュード・ノースとフォーティテュード・サウスの両方が、ボディーガード作戦と呼ばれるより広い欺瞞計画と関連している。
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[編集] 目的
フォーティテュード作戦の主要な目的は、ノルマンディーに上陸する兵に対抗する敵戦力を、十分に少なくすることだった。 同じく重要な点は、ノルマンディーの橋頭堡に向かうドイツ軍予備戦力の動きを遅らせ、連合軍にとって破壊的になるであろう逆襲を妨げることだった。 したがって本計画は、ドイツ軍に追加の攻撃(特にスカンジナビアとパ・ド・カレー)が計画されていると信じさせることを狙った。
[編集] 体制
1944年の連合国による欺瞞作戦に関する全体的な戦略計画は、London Controlling Sectionによって計画され、ボディーガード作戦として実施された。 しかしながら、このような欺瞞作戦の実際の指揮は、その架空の作戦が起こることになっている方面の指揮官の任務だった。 オーバーロード作戦のための架空の作戦の実行は、ドワイト・D・アイゼンハワー将軍の下にあるSHAEFの責任だった。
欺瞞作戦を処理するため、SHAEF内に「Ops(B)」と呼ばれる特別なセクションが設置された。
[編集] 手段
初めの計画では、5つの主な枠組みを使って欺瞞作戦を起こすことになっていた:
- 物理的なぺてん……木製の戦車あるいは上陸用舟艇のような、偽物のインフラストラクチャーや装備を用いて、実在しないユニットの存在を信じさせる。
- 中立国を経由してドイツに送られる外交チャンネルを使った、制御された情報漏洩
- 無線交信……実在しないユニットが生み出すであろう無線交信を模擬し、敵に傍受させることによって、実在しないユニットを生み出す。
- ダブルクロス・システムによって連合国がコントロールしているドイツのエージェントを使って、ドイツの諜報局に偽情報を送る。
- FUSAG(米第1軍集団)のような架空の集団と関連付けた有名人スタッフを公表する(最も顕著なものは最も有名な戦車指揮官ジョージ・パットン)。
フォーティテュード作戦の進行中、ドイツの空中偵察はほとんど全く行われず、また英国の中に制御されていないドイツのエージェントが存在しなかったこともあり、物理的な欺瞞はほとんど影響がなかった。 「外交ルートを使った情報漏洩」は信頼性に乏しく、中止された。 大部分の欺瞞は偽の無線交信とドイツの二重スパイを使って実行されたが、後に、後者がはるかに重要であると分かることになる。
フォーティテュード作戦はSHAEFが統括していたけれども、London Controlling Sectionは「特別な手段」と呼ばれた外交チャンネルと二重スパイの使用に関する責任を持ちつづけた。
[編集] 二重スパイ
当時ドイツはイギリスにおよそ50人のエージェントを持っていたが、B1A(MI5の防諜部門)が既に彼らの多くを捕捉し二重スパイとして雇っていた。 実際、MI5自身は知らなかったけれども、当時の英国におけるドイツのエージェント全員をコントロールしていた。 MI5は彼ら自身のエージェントを通じてドイツの諜報機関に侵攻準備の誤った写真を流すことを計画した。 これらのエージェントによって送られる報告書は、連合軍の欺瞞作戦立案者があらかじめ見せるように計画した英国内の軍隊が閲覧できるよう、注意深く統制された。
フォーティテュード作戦のための3人の主要な二重スパイは以下の通り:
- 『ガーボ』 : フアン・プホルはドイツの諜報組織に既に組み込まれていて、後にイギリスのために働こうと申し出たスペイン人。 彼はフォーティテュード作戦の時点までに偽のサブエージェントの巨大なネットワークを作った。 彼はDデイの後に鉄十字章を与えられた。
- 『ブルータス』 : ポーランドの士官ローマン・ガービー=チェルニアウスキー。彼はドイツ軍の捕虜となりドイツのスパイとして働くチャンスを提供された。彼は英国に到着してすぐに英国の諜報組織に自首した。
- 『トライサイクル』 : ユーゴスラビア人の弁護士デュシュコ・ポポフ。
[編集] フォーティテュード・ノース
フォーティテュード・ノースはスカンジナビアに対する架空の攻撃だった。 それは2つの部分から構成された:第一は、ドイツ軍の撤退に伴なって防御が弱くなったであろうドイツ占領下にあるスカンジナビアのいずれかの部分の再占領計画である。第二は、ノルウェーに対する襲撃である。
この作戦に割り当てられた(架空の)部隊は英第四軍で、それはスコットランドに位置していた。 ドイツがスコットランドを偵察することは全くありそうになかったので、無線通信員が英第四軍隷下の架空の部隊の無線交信を装った。 しかし、欺瞞作戦の主要な手段は二重スパイの使用だった。 同時に、スウェーデン上空で偵察飛行を行う権利や緊急着陸した飛行機に燃料を補給する権利のような、ノルウェー侵略のときに有用であろう譲歩を得るため、英国の外交官が中立国のスウェーデンで交渉を始めた。 これらの交渉は譲歩を得ること自体が狙いではなく、交渉の知らせがドイツ人の耳に達することを意図して行われた。
英第四軍を構成している部隊は1944年を通じて変化した。 本当の役割と編成を書類上偽装しただけの実在のユニットも含まれたが、全くの架空の部隊も含まれている。 作戦のピーク時点における編成は次の通りだった:
英第四軍(架空。司令部エジンバラ)
- 英第二軍団(架空。司令部スターリング)
- 英第七軍団(架空。司令部ダンディー)
- 英第52歩兵(ローランド)師団(ダンディー)
- 米第55歩兵師団(架空。アイスランド)
- 米レンジャー大隊3個大隊(架空。アイスランド)
- 米第十五軍団(北部アイルランド)
- 米第2歩兵師団
- 米第5歩兵師団
- 米第8歩兵師団
[編集] フォーティテュード・サウス
フォーティテュード・サウスは、連合軍のフランス上陸がパ・ド・カレーで行われるであろうことをドイツ軍に信じさせることを狙って実施された。 パ・ド・カレーはフランスのイギリスに最も近い地域であり、その海岸の防衛が困難であったために、侵攻地点の戦略上の選択としては論理的だった。 この作戦は、主要な侵攻の時点でノルマンディー地域のドイツ兵の数を減らすことを期待していたが、さらに重要なことは、侵略の直後の数日間にドイツ軍がノルマンディーの戦場を強化することを思いとどまらせること であった。 この目的のために、侵攻が始まったとき、ドイツ軍にノルマンディーはただの牽制であり、主な侵攻はまだカレーの近くに来るはずだと信じさせることも期待されていた。
[編集] クイックシルバー作戦
フォーティテュード・サウスの最も重要な要素はクイックシルバー作戦だった。
クイックシルバー作戦は、モントゴメリーの下の英第二十一軍集団(本物のノルマンディー侵攻戦力)と米第一軍集団(FUSAG。ジョージ・パットン将軍の下の架空の戦力)から成る2つの軍集団が、パ・ド・カレーへの海峡横断のためにイギリス南西部に置かれたとドイツ軍に思わせることを狙った。
偽の侵略計画を記述した文書をドイツ軍に与えるわけではなく、その代わりに紛らわしい戦闘序列を作成することが許可された。 イギリスからヨーロッパ本土への大規模な侵攻を開始するためには、軍の作戦立案者は、積み込み地点から一番近い上陸するであろう地域を囲むように部隊を設定する以外にほとんど選択肢が無かった。
FUSAG を南東部に置くことによって、ドイツの諜報機関は侵略兵力の重心がカレー(イギリスに最も近いフランスの海岸であり、それゆえ上陸地点になる可能性が高い)の対岸にあると推論するであろう(そして実際そうした)。
この欺瞞を容易にするために追加の建物が建設され、ダミーの自動車と上陸用舟艇が積み込み地点になりそうな場所の周辺に置かれた。 さらにその兵力の大きさに見合った莫大な量の偽の無線交信が交わされた。
このような大きさの欺瞞は、Ops(B)を通じたMI5、MI6、SHAEF、および軍隊を含む多くの組織からの入力を必要とした。 種々の欺瞞機関から提出された情報は、ジョン・ベヴァン中佐によって組織化されて、彼の指揮の下にロンドン・コントローリング・セクションを通って配信された。
[編集] 結果
連合軍はこれらの戦略の有効性を容易に確認することができた。 エニグマのようなドイツ軍の暗号を解いて得られたULTRA情報により、フォーティテュード作戦に対するドイツの最高司令部の反応を窺い知ることが可能だった。 連合軍はDデイの後もかなりの期間、パ・ド・カレーを脅やかしているFUSAGなどの軍隊の見せかけを維持した。1944年9月くらいまで続いたと考えられる。
ドイツ人に予備兵力の大部分を決して来ないカレーに対する攻撃を待つために釘付けにし、連合軍にノルマンディーの貧弱な足場を維持し増強することを許したので、これは連合軍の計画の成功にとって極めて重要だった。
[編集] 成功の理由
この作戦がこれほど成功した理由には、いくつかある:
- 敵に誤報を送る経路としてエージェントを育てるという、英国の諜報部門によってとられた長期的視点。
- エニグマ暗号によって暗号化されたAbwehr とドイツの最高司令部の間で交わされるメッセージを読むためのULTRAの使用。欺瞞作戦の効果を速やかに確かめることができた。これは閉ループ欺瞞システムを早くに採用した例の1つだ。
- 英航空省の諜報副監督(科学担当)R・V・ジョーンズが、本当の侵攻地域の中ではすべてのレーダーステーションを攻撃したのに対して、その外の2つを襲うべきであるという戦術的な欺瞞を強く主張したこと。
- ドイツの諜報部門の大規模な機械化と、種々の組織の間の競争。
[編集] 小説におけるフォーティテュード作戦
Eye of the Needle は、連合軍の欺瞞を発見して、ドイツの指導者に知らせるために奔走するナチのスパイについての小説であり、後に映画化された。 The Unlikely Spy は、フォーティテュード作戦を実行する連合軍と、本当の作戦を見破ろうとするドイツのエージェントの両方に焦点を合わせた小説である。