ブタクサハムシ
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ブタクサハムシ | ||||||||||||||||||||
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![]() オオブタクサ上の成虫と幼虫 |
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分類 | ||||||||||||||||||||
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学名 | ||||||||||||||||||||
Ophraella communa LeSage, 1986 | ||||||||||||||||||||
英名 | ||||||||||||||||||||
regweed beetle |
ブタクサハムシ(豚草葉虫) Ophraella communa LeSage, 1986はコウチュウ目ハムシ科に分類される昆虫の一種。北アメリカ東部からメキシコが原産地。日本では1996年頃に関東で最初に確認されたが、翌年には関西でも確認され、それ以後は急速に分布を拡大し青森県から鹿児島県のすべての県で確認されている。名前のとおり幼虫・成虫ともにブタクサやオオブタクサを主食とするが、ヒマワリなど栽培植物も食害することがある。
[編集] 概要
成虫の体長は3.5~4.7mm程度。体色は淡黄褐色~黄褐色で、微細な毛に覆われるため光沢はない。上翅には特有の黒色の縦縞模様があり、この縞の濃淡や長さには個体変異がある。脚は本体同様の黄褐色だが、触角は黒い。
日本で最初の報告は大野(1997)によるもので、1997年8月に埼玉県朝霞市でブタクサやオオブタクサを食害しているものを発見・同定し、ブタクサハムシのという和名もこの報告時に付けられた。しかし、実際にこれより早い1996年にはすでに東京や神奈川県などで発見され、調査も進められていたという(滝沢ほか、1999)。また関西でも1997年10月には大阪の枚方市と高槻市でも確認され、その後は青森県から鹿児島県までの広い地域で確認されるに至った。
北米での食草はブタクサのほか、ブタクサモドキ、オナモミ、フナバシソウ属の一種・Iva axillaries 、ヒマワリ属の一種・Helianthus ciliaris、ラテイピダ属の一種・Ratibida pinnata の5属6種のキク科植物が知られており、日本では野外においてブタクサ、オオブタクサ、オオオナモミ、イガオナモミ、キクイモ、ヒマワリ属など、やはりキク科に属する数種の植物を食べることが報告されている。
このように、日本では花粉症の原因ともなっている外来種のブタクサを枯死させるまで食害するため、その駆除に役立つ可能性がある一方で、ヒマワリなどの有用種をも食害することもあることからその摂食機構について研究がなされている。
田村(2004)によれば、餌となる植物にはブタクサハムシの食欲を刺激する摂食刺激物質として、2種のトリテルペノイド(α-anyrin acetate ・β-anyrin acetate)と2種のカフェー酸誘導体(chlorogenic acid・3,5-dicaffeoyllquinic acid)が含まれるが、これらの物質をもついくつかの他のキク科植物には逆にブタクサハムシの食欲を抑制する物質も含まれており、これら物質の組み合わせが寄主選択の要因となっていらしいという。さらにキク科の栽培種であるレタス、ゴボウ、シュンギク、ヒマワリの全てが摂食刺激物質をもつことから、これらの栽培植物に対してブタクサハムシが害虫化するかどうかを探る実験では、成虫はこれら全種を食べたものの、ヒマワリ以外の餌では寿命が短く産卵もせず、幼虫もヒマワリ以外では早期に死亡して蛹にはなられなかったことから、前3種の害虫になる可能性は低いが、ヒマワリについては警戒が必要だとしている。
また、Watanabe ら(2004)による筑波市での観察では、ブタクサを食い尽くした成虫は冬前に寄主をオオオナモミに換え、冬季はそれらの巻いた枯葉をシェルターとして越冬し、これら越冬成虫は春には再び寄主をブタクサに換えて産卵し、幼虫はブタクサで成育するという。
[編集] 参考になる文献
- 農業生物資源研究所・昆虫適応遺伝研究グループ・昆虫植物間相互作用研究チーム, 2003. 侵入昆虫ブタクサハムシの寄主植物範囲を規定する化学因子. [1]
- 大原賢二・小川 誠, 2000. 徳島県におけるブタクサハムシの記録. 徳島県立博物館研究報告 (10): 75-79.[2]
- 大野正男,1997.ブタクサハムシ(新称)日本に侵入.昆虫と自然 32(11): 35.
- 滝沢春雄・斉藤明子・佐藤光一・平野幸彦・大野正男,1999.侵入昆虫ブタクサハムシ -関東地方での分布拡大と生活史-.月刊むし(343): 44.
- 田村 泰盛, 2004 ブタクサハムシの寄主選択機構に関する研究 筑波大学博士 (農学) 学位論文・平成16年3月25日授与 (甲第3510号)[3]
- 田村 泰盛・服部 誠・今野 浩太郎・本田 洋・河野 義明, 2004. キク科植物におけるブタクサハムシ摂食刺激物質の分布と寄主選好性との関係 日本応用動物昆虫学会誌 48(3):191-199.[4]
- Watanabe Masahiko, Hirai Yoshio, 2004. Host-use pattern of the ragweed beetle Ophraella communa LeSage (Coleoptera: Chrysomelidae) for overwintering and reproduction in Tsukuba . Applied Entomology and Zoology 39(2):249-254.PDF