ペンシルバニアドイツ語
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ペンシルバニアドイツ語 Pennsilfaani-Deitsch |
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話される国 | カナダ、アメリカ |
地域 | アメリカ州 |
話者数 | 25~30万人 |
順位 | 100位以下 |
言語系統 | インド・ヨーロッパ語族 |
公的地位 | |
公用語 | |
統制機関 | |
言語コード | |
ISO 639-1 | なし |
ISO 639-2 | gem |
ISO/DIS 639-3 | pdc |
SIL |
ペンシルバニアドイツ語(Pennsilfaani-Deitsch)とは、北アメリカでおよそ15万から25万人の人びとに話されているドイツ語の一種である。ドイツ語のなかでもいわゆる高地(上部)ドイツ語の一種とされる。
ペンシルバニア・ダッチ(Pennsylvania Dutch)とも呼ばれるが、いわゆるオランダ語と直接の関係はない。英語のDutch(ダッチ)は現代ではオランダ語やオランダ人の意味で使われるが、古くはドイツ語およびドイツ人を指す言葉であった。(ちなみに、この語とDeutschは同語源である。元来オランダはドイツ文化圏の一部とみなされていたが、後に意味が狭義化した。)この紛らわしい呼び名は、その古い語義を保つ形になっている。
この言語を使う人は、現在、主に、アメリカのペンシルバニア州、オハイオ州、インディアナ州、それにカナダのオンタリオ州に住んでいる。話し手の多くはアーミッシュかオールド・オーダー・メノナイト派である(ただし数世代前は全く違う状態にあった。これについては以下の継承のセクションを参照のこと。またメノナイト派の内アメリカ北部や南部に住む人びとは、低地ザクセン語を話すことがある。これはまた全く異なる言語である)。
目次 |
[編集] ヨーロッパにおける起源
ペンシルバニアドイツ語は、ドイツのプファルツ(Pfalz)地域の方言に最もよく似ている。しかし、アメリカやカナダに見出されるペンシルバニアドイツ語の話し手は、ヨーロッパ南西部のドイツ語圏のさまざまな地域からの移民からなる。これはシュヴァーベン(Schwaben)、ヴュルテンベルク(Württemberg)、アルザス(Alsace)、スイスを含む。移民がやって来てから最初の数世代の間に各種の方言が融合し、現在のようなものになったと信じられている。
[編集] 発音
ペンシルバニアドイツ語は、大衆文化のなかではアーミッシュと結び付けられることが多い。ペンシルバニア・ジャーマン訛りの英語を話す人は、v と w の発音をすり替えてしまうことなどが典型的である。たとえば「ワンダフルなヴァイオリン」と言うべきところを「ヴォンダフルなウィオリン」と言ってしまう、などとされる。但し、現実のペンシルバニアドイツ語の話し手が英語を話す際には、非常にわずかな訛りしかない。上のようなイメージは観光のために誇張されているものという色合いが濃い。
[編集] 文字表記
現在、ペンシルバニアドイツ語には、2つの競合する表記の方法が存在している。
例えば「主の祈り」は、次のように2通りに表記され得る。
Unsah Faddah im Himmel,
dei nohma loss heilich sei,
Dei Reich loss kumma.
Dei villa loss gedu sei,
uf di eaht vi im Himmel.
Unsah tayklich broht gebb uns heit,
Un fagebb unsah shulda,
vi miah dee fagevva vo uns shuldich sinn.
Un fiah uns naett in di fasuchung,
avvah hald uns fu'm eevila.
Fa dei is es Reich, di graft,
un di hallichkeit in ayvichkeit.
Amen.
Unser Fadder im Himmel,
dei Naame loss heilich sei,
Dei Reich loss kumme.
Dei Wille loss gedu sei,
uff die Erd wie im Himmel.
Unser deeglich Brot gebb uns heit,
Un vergebb unser Schulde,
wie mir die vergewwe wu uns schuldich sinn.
Un fiehr uns net in die Versuchung,
awwer hald uns vum Iewile.
Fer dei is es Reich, die Graft,
un die Hallichkeit in Ewichkeit.
Amen.
参考までに、現代の標準的ドイツ語による表記は、次のようになる。
Vater unser im Himmel,
geheiligt werde dein Name.
dein Reich komme,
dein Wille geschehe
wie im Himmel, so auf Erden.
Unser tägliches Brot gib uns heute,
und vergib uns unsere Schuld,
wie auch wir vergeben unseren Schuldigern.
Und führe uns nicht in Versuchung,
sondern erlöse uns von dem Bösen.
Denn Dein ist das Reich
und die Kraft und die Herrlichkeit
in Ewigkeit
Amen.
[編集] 継承
ペンシルバニアドイツ語は、少なくとも2つの意味で絶滅の危機に直面している。ひとつには、この言語はペンシルバニア州南東部でかつて日常的に話されていたのだが、今日ではそのような使われ方はされていない。今日でも高年齢層のなかにはペンシルバニアドイツ語を話す人々が多い。だが、彼らの孫の世代は英語のみしか知らないのが普通である。もうひとつ、今日でもペンシルバニアドイツ語を日常的に使っているアーミッシュについては、そこに多くの英単語が混ざるようになったことが指摘できる。一部の関係者は、この変化が進展するとやがてペンシルバニアドイツ語は消え去ってしまうのではないか、と危惧している。また、この変化が加速しつつあることも指摘されている。これは多くのアーミッシュの大規模な共同体にとって土地が稀少になりつつあり、それに伴って農業以外の職業に就く必要性が出てきているためである。工場などで働く場合、英語との接触がかなり増えることになるケースがある。
また、アーミッシュとオールド・オーダー・メノナイト派は、かつてはペンシルバニアドイツ語の話し手のごく少数を占めるに過ぎなかったが、現在ではかれらだけが世代間の言語の継承をおこなっているため、話し手の大多数を占めるようになった。ジョンズホプキンズ大学の社会学者ジョン・A・ホステトラー(John A. Hostetler)によれば、当初これら2つの集団は話し手全体の人口の10%以下であったという。
しかしながら、この2集団がペンシルバニアドイツ語の使用をやめる兆候はない。かれらの文化では、言語は従順さ、謙譲の証として扱われ、外部の世界に対するバリアーとして機能している。また、アーミッシュは一般に多産であるため、短期的には若い世代の話し手がいなくなる可能性は低い。
[編集] 話し手の人口
カナダでは、次の3つの集団がペンシルバニアドイツ語を話す。
一般に、カナダ国内のペンシルバニアドイツ語の話し手はアメリカ国内の話し手の数と比べて非常に少ない。だが、少なくともカナダのメノナイト派の内の1集団は、ペンシルバニアドイツ語の使用を中止する率がアメリカの同様の集団と比べて低いことがわかっている。具体的には自動車(automobile)オールド・オーダー・メノナイト派がそうである。アメリカでは自動車を利用するオールド・オーダー・メノナイト派の人々は、英語に切り替えてしまうけれども、カナダではこうした人びとは家庭内で依然としてペンシルバニアドイツ語を使い続けている。
アメリカ国内では、次の各集団がペンシルバニアでドイツ語を話す。
- 全てのオールド・オーダー・アーミッシュ
- 全てのニュー・アーミッシュ
- ホース・アンド・バギー・オールド・オーダー・メノナイト
- (但しShenandoah Valley オールド・オーダー・メノナイトのなかには、英語だけしか話さない家族もある)
- ビーチー・アーミッシュの一部
- (かれらの多くは英語へ切り替えつつある)
- 以下の諸集団の一部、主に高年齢者層:
これらの内、最後の一連の諸集団が、かつてペンシルバニアドイツ語の使い手の主流派をなしていた。また、今日では夜間学校で言語を教える試みなどもおこなわれている。しかしながら、これらの集団内での話し手の数は年々減少する傾向にある。ほかに、こうした人々を主な対象とした週に一度のラジオ番組があり、ルター派と改革派教会の内、以前ドイツ語を使っていた支部の多くは、ペンシルバニアドイツ語による毎年一回のミサをおこなっている。また、ペンシルバニアドイツ語のネイティブ・スピーカーと商取引を頻繁に行う人々のなかには、この言語を話すようになる人もいる。
今日の話し手の人口は、15万(非常に慎重な見積り)から25万の間であると思われる。但し、学術出版物も含め、これよりもさらに低い数字を提供する者もいる。これは上に挙げたさまざまな集団の存在に気づかないために起こる誤認による。
全人口の内、アーミッシュは15万から20万人を占める。オールド・オーダー・メノナイトは数万人、その他のメノナイト派の話し手が数千人、アーミッシュでもメノナイト派でもない話し手が数千人いる。たとえば、ペンシルバニア南東部にあるペンシルバニアドイツ語の話し手のための組織であるGrundsau Lodgeの会員数は、6千人にのぼるとされる。
これらの内、アーミッシュの人口は見積りがやや困難である。アーミッシュの人口として統計上報告されるものは、しばしば洗礼を受けた人の数である。ここには20代なかばと、それ以下の人口を含まない。教区の数と教区ひとつ当たりの平均人口に基づいた推計の方がより正確である。さらに、ペンシルバニア、オハイオ、インディアナの各州には大きな話し手の集団がいることがわかっているが、これら以外の地域の話し手は、英語の話し手の間に散在しているために把握が困難である。
アーミッシュの人口の公式な統計は、現在のところ存在しない。また、ペンシルバニアドイツ語を話す人びとは、カナダやアメリカの国勢調査ではドイツ語を話す者としてカウントされる。これは回答用紙にある選択肢のなかでドイツ語が一番近いためである。
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
- The Pennsylvania German Society
- Deutsch-Pennsylvanischer Arbeitskreis / German-Pennsylvanian Association
- Hiwwe wie Driwwe - The Pennsylvania German Newspaper
- Pennsylvania German texts online
- Deitscherei.org - Fer der Deitsch Wandel
- Amisch.de - Pennsylvaniadeutsch Board
- アーミッシュ、メノナイト派以外のペンシルバニアドイツ語の話し手について
- カナダ・メノナイト・ヒストリカル・ソサエティより
- [1]
- 名称の混乱についての様々な理由
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