マタイ受難曲
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マタイ受難曲(Matthäus-Passion)とは、新約聖書「マタイによる福音書」の26、27節のキリストの受難を題材にした受難曲で、多くの場合独唱・合唱・オーケストラを伴う大規模な音楽作品である。このうち最も有名なものはヨハン・ゼバスティアン・バッハの作品である。本稿ではこのバッハの作品について述べる。
ヨハン・ゼバスティアン・バッハのマタイ受難曲(Matthäus-Passion)は新約聖書「マタイによる福音書」の26、27節のキリストの受難を題材にし、聖句、伴奏付きレチタティーヴォ、アリア、コラールによって構成された音楽作品である。BWV244。台本はピカンダー(Picanderは「かささぎ男」という意味の筆名であり、本名クリスティアン・フリードリヒ・ヘンリーツィ、あるいはヘンリーキ)による。
バッハのライプツィヒ時代(1723年-1750年)を代表する作品であるとともに、その全作品中の最高峰に位置づけられる。宗教作品であるが、様々な人間的に普遍的なドラマが描かれており、その音楽の壮大さ、精緻さ、大胆さ、精神性は、しばしばクラシック音楽、西洋音楽作品中の最高傑作とさえ評されるほどである。
目次 |
[編集] バッハの受難曲
バッハが作曲したとされる受難曲は、マタイ受難曲(2作あったとされるが、「2作目は合唱が2組に分けて配置される」という記述の目録があるので現在伝わっているのは2作目あるいは何らかの改作後の方であることがわかる)のほか、音楽的にはマタイほどの完成度ではないもののより劇的とされるヨハネ受難曲(BWV245、1724年)、ルカ受難曲(BWV246)、マルコ受難曲(BWV247、1731年)の計4つが数えられるが、ルカ受難曲は真作と見なされておらず、マルコ受難曲は台本のみが現存し、他は消失している。これらのなかで、マタイ受難曲は内容的にも規模的にも最も重要かつ画期的である。
[編集] 初演および蘇演
[編集] 初演
1727年4月11日、ライプツィヒの聖トーマス教会において初演。その後改訂が加えられ、1736年に最終的な自筆稿が浄書されている。
[編集] 蘇演
バッハの死後、長く忘れられていたが、1829年3月11日、フェリックス・メンデルスゾーンによって歴史的な復活上演がなされ、バッハの再評価につながった。
この蘇演はいくつかのカットが伴われ、また古楽管楽器オーボエ・ダ・カッチャを(同じ音域のオーボエ属楽器であるイングリッシュホルンではなく)バスクラリネットで代用するなど、メンデルスゾーンの時代により一般的であった(より現代に近い)オーケストラの編成によって演奏された。(この編成の演奏を再現した録音CDも存在する。)当時の新聞評は芳しいものではなく、無理解な批評家によって「遁走曲(フーガ)とはひとつの声部が他の声部から逃げていくものであるが、この場合第一に逃げ出すのは聴衆である」と批判された。しかしこれを期に、当時は一部の鍵盤楽器練習曲などを除いて忘れ去られていたバッハの中・大規模作品をはじめとする音楽が再評価されることになったのである。
[編集] マタイ受難曲の構成
マタイ受難曲は大きく二部(通常68曲)からなる。第一部は29曲、イエスの捕縛までを扱う。第二部は39曲、イエスの捕縛、ピラトのもとでの裁判、十字架への磔、刑死した後、その墓の封印までを扱う。物語でありながら、一方で精緻な音楽的構造を持った作品でもある。
- 聖句
- 聖句(聖書からの引用)のうち、エヴァンゲリスト(福音史家)はテノール、イエスやピラト、ペテロ、ユダと大祭司カイアファなどはバリトンあるいはバスで、群集は合唱で歌われる。合唱は、2組混声合唱および1組ソプラノ・リピエーノ(現在ではボーイソプラノ)。
- イエスが発言する際には常に弦楽器の長い和音の伴奏が伴われるが、これはキリスト教美術によく見られる後光を音楽的に表現したものとされる。しかし最後の言葉Eli, eli, lama sabachthani(わが神、わが神、どうして私をお見捨てになったのですか)という神への疑いを示す部分だけは弦楽器の後光が伴わない。
- アリア、伴奏付きレチタティーヴォ
- アリアは合計13曲あり、これらのうち8曲は伴奏付きレシタティーボとアリアの組み合わせである。他のアリアはソロで5曲ある。
- コラール
- 有名な「受難のコラール」など、カンタータを多数作曲したバッハの持ち味が十分に発揮されている。
[編集] 第一部
[編集] 導入の合唱
「シオンの娘たち」と「信じる者たち」との対話形式により、これから起こるイエスの受難が歌われる。Iが、「見よ」と呼びかけ、IIが「どこを」と問い、Iが「その忍耐を」と答える中で、リピエーノのソプラノ(ボーイ・ソプラノがよく使われる)のコラールが加わる。
- 1. 「来たれ、娘たちよ、われとともに嘆け(Kommt, ihr Töchter, helft mir klagen)」(合唱)
[編集] 十字架の死の予告
イエスが弟子たちの前で自らの受難を預言する。
- 2. レチタティーヴォ(福音史家、イエス)
- 3. コラール「心より慕いまつるイエスよ」(合唱)
[編集] 祭司長たちの合議
祭司長や律法学者らがイエスの捕縛を謀る。
- 4. レチタティーヴォ(福音史家、合唱)
[編集] 香油を注ぐベタニアの女
ベタニアで罪の女の香油をたらした行為を咎める弟子たちをイエスが咎める。
- 4. の後半部分
- 5. レチタティーヴォ(アルト)
- 6. アリア「悔いの悲しみは」(アルト独唱)
[編集] ユダの裏切り
ユダが登場し、祭司長らにイエスの売り渡しを密約する。
- 7. レチタティーヴォ(福音史家、ユダ)
- 8. アリア「血を流せ、わが心よ!」(ソプラノ独唱)
[編集] 晩餐
最後の晩餐。イエスは弟子たちの前でユダの企てを暴露する。
- 9. レチタティーヴォ(福音史家、合唱、イエス)
- 10. コラール「われなり、われこそ償いに」(合唱)
- 11. レチタティーヴォ(福音史家、イエス、ユダ)
- 12. レチタティーヴォ(ソプラノ)
- 13. アリア「われは汝に心を捧げん」(ソプラノ独唱)
[編集] オリーブ山にて
イエスが自らの今後の運命と、ペテロと弟子たちが自分を否認し離反することを預言する。
- 14. レチタティーヴォ(福音史家、イエス)
- 15. コラール「われを知り給え、わが守り手よ」(合唱)
- 16. レチタティーヴォ(福音史家、ペテロ、イエス)
- 17. コラール「われはここなる汝の身許に留まらん」(合唱)
[編集] ゲッセマネの苦しみ
ゲッセマネの園で、イエスは自らの今後に苦悩。それをよそに弟子たちは眠りこけてしまう。
- 18. レチタティーヴォ(福音史家、イエス)
- 19. レチタティーヴォ(テノール)とコラール(合唱)
- 20. アリア「われしわがイエスのもとに目覚めおらん」(テノール独唱と合唱)
- 21. レチタティーヴォ(福音史家、イエス)
- 22. バスによるレチタティーヴォ
- 23. アリア「われは悦びて身をかがめ」(バス独唱)
- 24. レチタティーヴォ(福音史家、イエス)
- 25. コラール「わが神の御心のままに、常に成らせ給え」(合唱)
[編集] 捕縛
ユダが再び登場しイエスが捕縛される。
- 26. レチタティーヴォ(福音史家、イエス、ユダ)
- 27. 二重唱「かくてわがイエスはいまや捕らわれたり」(ソプラノ、アルト、合唱)
- 28. レチタティーヴォ(福音史家、イエス)
- 29. コラール「人よ、汝の大いなる罪を悲しめ」(合唱)
[編集] 第二部
[編集] 人気なき園に花婿を探すシオンの娘とエルサレムの娘たちの同情
- 30. アリア「ああ、いまやわがイエスは連れ去られぬ!」(アルト独唱、合唱)
[編集] 大祭司の審問
イエスの裁判が始まる。偽証人が現われ民衆も煽動される。イエス自身が神の子であることを認めたことにより、民衆の騒ぎは頂点に達し、イエスは暴行を受ける。
- 31. レチタティーヴォ(福音史家)
- 32. コラール「世はわれに欺き仕掛けぬ」(合唱)
- 33. レチタティーヴォ(福音史家、証人)
- 34. レチタティーヴォ(テノール)
- 35. アリア「忍べよ! 忍べよ!」(テノール独唱)
- 36. レチタティーヴォ(福音史家、大祭司)と合唱
- 37. コラール「たれぞ汝をかく打ちたるか」(合唱)
[編集] ペテロの否認
下女たちにイエスと共にいたと告げられ、ペテロはこれを三度否認する。にわとりが鳴いてイエスの預言の言葉を思い出したペテロは泣き出す。有名な「憐れみ給え、わが神よ」(Erbarme dich)のアリアが歌われる。
- 38. レチタティーヴォ(福音史家、第1の下女、第2の下女、ペテロ)と合唱
- 39. アリア「憐れみ給え、わが神よ」(アルト独唱)
- 40. コラール「たとえわれ汝より離れいずるとも」(合唱)
[編集] ユダの後悔と末路
ユダがイエスを裏切ったことを悔いて自殺する。
- 41. レチタティーヴォ(福音史家、ユダ、第1と第2の祭司長)と合唱
- 42. アリア「われに返せ、わがイエスを!」
- 43. レチタティーヴォ(福音史家)
[編集] 判決
総督ピラトはイエスを訊問するが、イエスが自分を弁護しないのを怪しむ。ピラトは民衆にイエスの運命を託し、赦免するべきは極悪人バラバかイエスか、との選択を民衆に問う。民衆は赦免すべきは「バラバ!」と叫び、イエスには「十字架に架けるべし!」と叫び、ここにイエスの死刑が決定される。
- 43. のつづき(福音史家、ピラト)
- 44. コラール「汝の行くべき道と」(合唱)
- 45. レチタティーヴォ(福音史家、ピラト、ピラトの妻、合唱)、合唱
- 46. コラール「さても驚くべしこの刑罰!」(合唱)
- 47. レチタティーヴォ(福音史家、ピラト)
- 48. レチタティーヴォ(ソプラノ)
- 49. アリア「愛によりわが救い主は死に給わんとす」(ソプラノ独唱)
- 50. レチタティーヴォ(福音史家、ピラト)、合唱
[編集] 鞭打ち
イエスは鞭打たれ、茨の冠を被らされる。
- 50. のつづき
- 51. レチタティーヴォ(アルト)
- 52. アリア「わが頬の涙」(アルト独唱)
- 53. レチタティーヴォ(福音史家)、合唱
- 54. コラール「おお、血と涙にまみれし御頭」
[編集] 十字架の道
イエスは、民衆の罵声を浴びゴルゴタへと連行される。
- 55. レチタティーヴォ(福音史家)
- 56. レチタティーヴォ(バス)
- 57. アリア「来たれ、甘き十字架」(バス独唱)
[編集] 十字架上のイエス
ゴルゴタの丘に到着したイエスは強盗とともに十字架につけられる。
- 58. レチタティーヴォ(福音史家)、合唱
- 59. レチタティーヴォ(アルト)
- 60. アリア「見よ、イエスはわれらを」(アルト独唱と合唱)
[編集] イエスの死
イエスがEli, eli, lama sabachthaniの言葉とともに息絶える。すると天幕が裂け、地震が起きるなどの奇跡が現われ、民衆は「やはりイエスは神の子であったのだ」と思う。
- 61. レチタティーヴォ(福音史家、イエス)、合唱
- 62. コラール「いつの日かわれ去り逝くとき」(合唱)
- 63. レチタティーヴォ(福音史家)、合唱
[編集] 降架と埋葬
イエスの遺体が下げ渡される。イエスの復活を恐れて墓が封印される。
- 63. のつづき
- 64. レチタティーヴォ(バス)
- 65. アリア「わが心よ、おのれを浄めよ」(バス独唱)
- 66. レチタティーヴォ(福音史家、ピラト)、合唱
[編集] 哀悼
- 67. レチタティーヴォ(バス、アルト、ソプラノ、合唱)
- 68. 終結合唱「われらは涙流してひざまずき」
[編集] マタイ受難曲の名盤
マタイ受難曲には、いくつもの名盤がある。
- ヴィレム・メンゲルベルク指揮、アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団、音史家カール・エルプ
- カール・リヒター指揮、ミュンヘン・バッハ管弦楽団、福音史家エルンスト・ヘフリガー
- 現在も名盤との評価が高い。ソリストも出色。古典的演奏。
[編集] 外部リンク
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