ミトコンドリアDNA
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ミトコンドリアDNAとは、細胞小器官であるミトコンドリア内にある環状DNAのこと。ミトコンドリアゲノムと呼ばれることも有る。
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[編集] 概要
ミトコンドリア DNA は、ミトコンドリアの持つたんぱく質などに関する情報が主に含まれており、ミトコンドリアが分裂する際には複製が行われる。ただし、ミトコンドリアに必要な情報の一部は核DNAに含まれている事も知られており、ミトコンドリア単独では存在できない。このことからミトコンドリアが細胞内共生由来であるという仮説の傍証となっている。
一般にミトコンドリア病と呼ばれるミトコンドリアの異常によって起こる疾病も、ミトコンドリアDNAの異常に起因するものと、核DNAの異常に起因するものとがある。 ミトコンドリアDNAの遺伝子多型は、肥満しやすさの個体差に関係していると考えられている。
[編集] 伝達様式
ミトコンドリアは卵子の細胞質にも精子鞭毛基部にも存在するが、一般的には精子由来の物は受精前後に何らかの形で排除される。このことから一般的には卵子の細胞質由来のミトコンドリアのみが引き継がれることが多いため、ミトコンドリアDNAは常に母性遺伝すると考えられているが、父親(精子)からも受け継がれることが報告されている(Schwartz and Vissing, 2002)。
哺乳類の精子に含まれるミトコンドリアは、一般に受精後卵細胞の中で死滅してしまうようである。精子由来のミトコンドリア(ミトコンドリアDNAを含む)は、後で胚の中で破壊されるようにユビキチンによる印が付けられることが1999年に報告されている(Sutovsky et. al. 1999)。時に、例えばハイブリット種において、このプロセスは失敗に終わる。
[編集] ミトコンドリアDNAを利用した研究など
母親から子に受け継がれる特性を生かして、ミトコンドリアDNAは、家系を追跡するための研究に利用される。Svante Pääboは、犬の先祖を追いかけて4匹の個体にさかのぼる研究を発表している。いわゆるミトコンドリア・イブの理論も同様の分析に基づくものである。
ただし、このミトコンドリアによる系譜の研究がすすめられた時期は、「遺伝的刷り込み」と呼ばれる現象が遺伝学的にまだ解明されていなかったため、ミトコンドリア遺伝子が「母親由来のゲノムからのみ発現する遺伝子群(Maternally expressed genes、MEG)」であるならば、男性の身体では単に非発現状態であるために、大いなる勘違いをしている可能性も議論されている。単にMEGであれば、父系から受け継いだ状態では非発現遺伝子として休眠するため、誤って母系による一系を錯誤している可能性も高い。
有名なものとしては、「イヴの七人の娘たち」として、出版された本で、ヨーロッパの女性のミトコンドリアDNAを調べたところ、ヨーロッパでの七人の女性のミトコンドリアDNAまで、たどり着いたとされる研究発表がある。
そのほかには、犯罪の現場で毛髪が見つかったがDNA鑑定が行なえないような場合に(自然に落ちた毛髪などは、毛根部分にDNA鑑定の対象にする組織が残っていない事がある)、ある人物を容疑者として捜査の対象に含めておくべきか、外してもよいかを決定する判断材料として、毛髪内のミトコンドリアDNA(毛髪内でもミトコンドリアDNAは残存している)が利用される。
[編集] 関連項目
[編集] 参考文献
- Marianne Schwartz and John Vissing, "Paternal Inheritance of Mitochondrial DNA", New England Journal of Medicine, Aug 22, 2002; 347:576-580. [1]
- "Mitochondria can be inherited from both parents", New Scientist article on Schwartz and Vissing's report; [2]
- Sutovsky, P., et. al. 1999. "Ubiquitin tag for sperm mitochondria." Nature 402(Nov. 25):371-372. Abstract available at [3] and discussed in [4].