ミトコンドリア
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ミトコンドリア(mitochondrion pl. mitochondria)は真核生物の細胞小器官である。二重の生体膜からなり、独自のDNAを持つ。酸素呼吸の場として知られている。
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[編集] 構造
ミトコンドリアは、ほとんど全ての真核生物の細胞に含まれる細胞小器官である。1つの細胞内の数は、1から多いものでは数千個にもなる。
形は球形から円筒形で、長さ10μm幅0.2μm程度。2重の膜からなる構造である。外側にある外膜には特別な構造は見られない。その内側にある内膜は、多くのひだがあり、内側に向かって入り込んだ部分をクリステという。クリステは通常ミトコンドリアの長い軸に垂直な方向を向いている。内膜の内側をマトリックスと呼ぶ。
マトリックスにはミトコンドリア独自のDNAが含まれており、これをミトコンドリアDNA(mtDNA)と呼ぶ。また、リボソームも独自のものがここに含まれる。その他、クレブス回路にかかわる酵素群などがここに含まれている。
内膜上には電子伝達系やATP合成にかかわる酵素群などが一定の配置で並んでいる。
[編集] 機能
ミトコンドリアの主要な機能は電子伝達系による酸化的リン酸化によるエネルギー生産である。 酸素とは元来、原生生物にとって毒となるものであったが、ミトコンドリアの機能により、酸素から運動エネルギーを獲得できるようになった。 細胞のさまざまな活動に必要なエネルギーのほとんどは、直接、あるいは間接的にミトコンドリアから、ATPの形で供給される。現在、他の機能としては、カルシウム貯蔵、アポトーシス責任器官としての役割が指摘されている。
[編集] 起源
進化論的にはミトコンドリアは好気的バクテリア細胞が真核細胞に共生することによって獲得されたと考えられている(リン・マーギュリスの細胞内共生説)。ミトコンドリアは核ゲノムとは別に独自の環状DNAを持ち、分裂時に複製倍加する。このミトコンドリアDNAの変化を追うことにより、どのように種が分岐していったか、分岐はいつ頃起こったのかを調べることができる。
なお、アメーバに似た原生生物であるペロミクサや微胞子虫など、いくつかの原生生物はミトコンドリアを持っていない。これを、ミトコンドリアが共生する以前の真核生物の生き残りと見る説がある。ただし、2次的に退化したとの見方もあり、広く受け入れられてはいない。
ミトコンドリアのDNAは必ず母親のミトコンドリアDNAを引き継ぐ。これは、同種交配の場合卵子に入った精子のミトコンドリアが選択的に排除されてしまうからである。そのため世界中の人間のミトコンドリアDNAを調べて追跡すると、どこの誰が今の人類の母かがわかる。実際にこの調査は行われ、アフリカのある女性が今の人類の全てのミトコンドリアについての「母親」であることが判明した。(その他の遺伝情報についてすべてこの女性に由来するということではない)。この女性は「ミトコンドリア・イブ」と呼ばれている。なお、実験的に異種交配させた受精卵では約56%の確率で精子由来のミトコンドリアも生存する。
[編集] 生物の系統との関係
上記のようなミトコンドリアの特徴は、動物、植物、菌類にほぼ共通であるが、それ以外の原生動物では、若干異なった形のものがある。特にクリステの形についてははっきりと異なったものがある。一般のミトコンドリアでは内膜がひだのように折れ曲がり、クリステは平坦な板のような形をしている。しかし、粘菌類の場合、クリステは内膜から内部へと放射状に入り込む管の形で、管の表面にATP合成酵素の手段が並んでいる。また、内部の中央にDNAを含んだ塊があって、ミトコンドリア核と呼ばれる。このような、管状のクリステを持つミトコンドリアは、繊毛虫やアピコンプレックス類、アメーバ類、クロララクニオン藻類などの原生生物からも知られる。
また、ミドリムシ類とトリパノソーマでは、クリステは団扇型になっていることも知られている。これらのミトコンドリアは、細長くて枝分かれをして、細胞内に広がっている。トリパノソーマでは、鞭毛の基部にキネトプラストと呼ばれる袋状の構造が知られており、その中の顆粒にはDNAが含まれているが、これはミトコンドリアの一部である。
[編集] その他
1995年に第2回日本ホラー小説大賞を受賞した瀬名秀明の『パラサイト・イヴ』は、ミトコンドリアの共生起源説、および、人類進化におけるミトコンドリア・イブ説 (Wikipedia英語版Mitochondrial Eve参照) に基づき、現在のミトコンドリアは細胞の支配下にあるが、もしもそれが反乱を起こしたならば、という仮定の物語で話題を呼び、映画やゲーム化も行なわれた。