ラクトースオペロン
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ラクトースオペロン(lactose operon)とは、ラクトース(乳糖)分解に関与する一連の遺伝子の集合で、リプレッサーとオペレーターによりRNAへの転写が支配されている転写単位となっている。
1961年のフランソワ・ジャコブとジャック・モノーによる大腸菌のラクトースオペロンに関する研究と、その際に提唱されたオペロン説は、遺伝子発現の調節に関する研究の大きな転換点となった。
[編集] 大腸菌のラクトースオペロン
大腸菌においては、lacI(リプレッサーの構造遺伝子)に続いて、調節領域であるlacP(プロモーター配列)、lacO(オペレーター配列)の二つと、構造遺伝子領域であるlacZ(β-ガラクトシダーゼ(EC 3.2.1.23)。ラクトースの加水分解酵素。)、lacY(β-ガラクトシドパーミアーゼ。ラクトースの細胞膜透過に関する蛋白質。)、lacA(チオガラクトシドアセチルトランスフェラーゼ(EC 2.3.1.18))の三つが並んでいる。
- ===(P,O)=lacI==(T)==========lac(P),lac(O)==lacZ==lacY==lacA==(T)==
lacIは常時発現しており、一定の速度でリプレッサー蛋白質を生産している。このリプレッサー蛋白質は、DNA上のlacオペレーターとの親和性が高く、通常この領域を認識し、結合している。リプレッサーがオペレーターに結合した状態にあるときは、RNAポリメラーゼのプロモーター領域への結合が阻害され、以降に続くlacZ、lacY、lacAの構造遺伝子のmRNAへの転写が抑制されている。
リプレッサー --------------------------
↑ ↓
===(P,O)=lacI==(T)==========lac(P),lac(O)==lacZ==lacY==lacA==(T)==
×
↑
(RNA pol) 転写が抑制される。
リプレッサー -------ラクトース----------
↑ ↓
↑ ×
===(P,O)=lacI==(T)==========lac(P),lac(O)==lacZ==lacY==lacA==(T)==
↑
(RNA pol) -----------------------------------→転写促進される。
リプレッサー蛋白質は、アロラクトース(細胞内でラクトースが異性化したもの)などの誘導物質と結合すると高次構造が変化し、不活性型となってオペレーターから解離する(あるいは結合できなくなる)。リプレッサー蛋白質がオペレーターから解離すると、RNAポリメラーゼによるlacZ、lacY、lacAの構造遺伝子のmRNAへの転写が可能になる。こうした調節因子(今回はlacI)の働きを変える因子(今回はラクトース)の事をインデューサーという。
[編集] カタボライト抑制
ラクトースのみがラクトースオペロンのインデューサーとして機能するだけではなく、ラクトースの代謝産物であるグルコースもインデューサーとして機能する。ラクトースおよびグルコースが大量に存在する場合、ラクトースを分解する反応は大腸菌にとっては不必要である。そのため、ラクトースリプレッサーとは別の発現調節がなされる。
グルコースの存在下ではカタボライト抑制と言われる発現調節機能が働く。lacPプロモーターは前半部分がCAP結合部位(またはCRP結合部位)、後半がRNAポリメラーゼ結合部位となっている。CAP(あるいはCRP)とは、カタボライト遺伝子活性化蛋白質のことで、CAPはcAMP(環状AMP)と結合することにより活性化する。lacオペロンの構造遺伝子の転写を促進するためには、CAP-cAMP複合体がCAP結合部位に結合している必要がある。
CAP-cAMP ---------------→転写促進
====CAP結合部位===lac(P),(O)==lacZ,Y,A==(T)==
カラ 転写効率の低下→
====CAP結合部位===lac(P),(O)==lacZ,Y,A==(T)==
cAMPはアデニル酸シクラーゼ(EC 4.6.1.1)によりATPから合成されるが、この酵素はグルコースやグリセロールにより阻害されるため、通常のグルコースが十分にある条件下では、cAMPの細胞内の濃度は、CAP-cAMP複合体が形成できるほどにはならず、グルコースは優先して消費される。
結果として、ラクトースオペロンは、ラクトースが存在し、グルコースが不足した条件下にあるとき、初めて発現することとなる。ラクトースとグルコースが豊富に存在する場合では、カタボライト抑制によりまずグルコースが消費され、その後にラクトースが消費される。こうした培地で育てた大腸菌は、二段階増殖(2度の対数増殖期を迎える)の増殖曲線を描く。