三砂ちづる
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三砂ちづる(みさごちづる、1958年-)は、日本の疫学者。山口県生まれ。津田塾大学国際関係学科教授。
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[編集] 主な主張
欧州を発信源とする思想・文化の流れには、民主主義、男女平等といった、人についての事柄を相対化・平等化する流れがある。日本においては、とくに第二次世界大戦後、解放と平等は社会の進歩のキーワードと思われた。これを追求・推進すれば、社会にはひとつの理想の形が生まれるのだと信じられていた。
しかし21世紀初頭になって、日本において、解放すればうまくいく、平等になれば安定するという発想は幻想ではないか、と省みる潮流が生まれている。三砂ちづるもその流れの一人。
戦後民主主義が信じようとした理想は美しかったが、塩は辛い、砂糖は甘い、というように、人間の希望や願望以前にものごとには形があり、悔しいけれど認めなければならない、その形を無視してしまっては苦しむ人が現れる、軋轢が生じる、荒れるということではないだろうか、という発想。「おじいちゃんおばあちゃんの知恵」とは、人の願望は願望として、“しかし世の中の道理を悟った”ものではなかったか、戦後日本はそれを失ったのではないか、という省み。
インターネット上の匿名掲示板における誹謗中傷の横溢や、公共の場でのマナーの欠如、(ドラマで坂本金八がついに絶望してしまうような)学級崩壊などの流れ・ムード・時代の気分を見ての潮流。
[編集] オニババ化する女たち
著書『オニババ化する女たち』は少子化が進み、年金問題が顕著化し、フェミニズムに対するいわゆるバックラッシュが進むなかでベストセラーとなった。 著書『オニババ化する女たち 女性の身体性を取り戻す』にたとえばこうある :
「こういう言い方をすると本当に失礼なんですけれども、大した才能もない娘に「仕事して自分の食い扶持さえ稼げればいいんだよ」とか、「いい人がいなければ結婚なんてしなくてもいいんだ」というようなメッセージを出してしまうことは、その子にとってものすごい悲劇の始まりではないかと思うのです」
以上のような大胆に身体性を捉え直した発言は、一部の女性や男性に賞賛を受ける一方、多くの女性達の反発を買ったり、学問的な粗雑さをとらえて精神科医や社会学者からの批判も受けた。
たとえば、著名精神科医の香山リカは、著書『いまどきの「常識」』66ページ(岩波新書)で、 「三砂ちづる氏の『オニババ化する女たち』(光文社新書、2004年)には、ジェンダー以前の問題、つまり女性は自らの生物学的『性』をもっと大切にせよ、というメッセージにあふれている。というより、『女性が仕事だなんだと独身のまま、出産もせずに子宮を”空き家”にしたままでいると、将来はホルモンのバランスが崩れてオニババになりますよ』という脅しに近い。ジェンダーに悩む前に、まず本能や身体に従って生きよ、ということだ。この本でも、いくら『身体が発する声』に耳を傾けようと試みても、そんな声などいっこうに聞こえてこないタイプの女性たち(ちなみに私もそうだ)への配慮や、妊娠、出産がさまざまな要因でかなわない女性たちへの気遣いは、まったくといってよいほどない。」と述べている。
また、「社会で適切な役割を与えられない中年女性の性的エネルギーの行き場がなくなってオニババとなって若い男を襲う」「中年独身女性はヒステリー」「女性はどうせたいした仕事ができない」などとの配慮に欠いた記述は、持論を主張するにしても、もう少し言葉を選ぶべきだとの意見が多かった。
[編集] 来歴
- 1981年京都薬科大学卒業
- 1999年ロンドン大学PhD - 疫学
- ロンドン大学衛生熱帯医学院研究員、JICA疫学専門家として活動
- 2001年国立公衆衛生院(国立保険医療科学院)疫学部勤務
- 2004年津田塾大学国際関係科教授
[編集] 著書
- 『昔の女性はできていた―忘れられている女性の身体に“在る”力』 宝島社 ISBN 4796641386
- 『オニババ化する女たち 女性の身体性を取り戻す』 光文社 ISBN 4334032664
- 『女は毎月生まれかわる からだと心が元気になる「月経血コントロール」ゆる体操』 ビジネス社 (共著) ISBN 4828411313
- 『疫学への招待―周産期を例として』 医学書院 ISBN 4260334050
- 『生きがいの女性論―人生に満たされていないあなたへ』 PHP研究所 (共著) ISBN 4569646603
[編集] 訳書
- 『パワー・オブ・タッチ』 メディカ出版
- 『わたしにふれてください』 大和出版