二言語同時学習
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二言語同時学習(にげんごどうじがくしゅう、英語:Dual Language Learning)は、子どもが2つの言葉の読み書きと内容を学習する教育方法。共通語に「もう1つの言語(パートナー・ランゲージ)」を組み合わせて行われる。アメリカにおいて、二言語同時学習が盛んであるのは、英語とスペイン語の同時学習である。但し、英語と共に、アラビア語、中国語、フランス語、ハワイ語、日本語、朝鮮語を用いる二言語同時学習も増えてきている。二言語同時学習は、早期段階の授業において、少なくとも半分以上の時間を「もう1つの言語」で行うことになる。 二言語同時学習は、幼稚園や小学校1学年時に開始され、少なくとも5年間は実施される。多くの場合、中学校や高校の中等教育段階継続される。この学習が意図するのは、2つの言語で読み書きが行える言語使用能力の獲得、二言語同時学習を受けない子どもと同等の学業達成、そして異文化間能力の育成である。アメリカにける二言語同時学習は公立学校で行われることが多いが、チャーター・スクール、マグネット・スクール、私立学校でも行われている。
[編集] 目的に応じた二言語同時教育
二言語同時教育には、大きく分けて、「向上と保持のための二言語同時教育」「二言語同時没入教育」「外国語没入教育」「言語継承教育」4つの形態が存在する。「向上と保持のための二言語同時教育」では、主に「もう1つの言語」を母語とする子どものために実施される。「二言語同時没入教育」は、教育を受ける国の共通語を母語とする子どもと、「もう1つの言語」を母語とする子どもとのバランスをとって行われる。「外国語没入教育」は、多言語を学習しようとする子どもを対象に行われる。「言語継承教育」は、教育を受ける国の共通語に支障はないが、家族が外国にルーツ持つ子どもに対して行われる。「二言語同時教育」という言葉は、「二言語同時没入教育」を意味することが多い。「バイリンガル教育」という言葉は、二言語同時教育を実践する人々の間では使用されることがやや減ったが、依然、指導言語として2つの言葉が用いられるすべての学習法を意味する言葉として用いられている。二言語同時学習は、できるだけ迅速に(3年間が多かった)母語から共通語への移行を目指した従来のバイリンガル教育とは異なっている。このような教育は、減算的バイリンガル教育などとも呼ばれた。英語を習得すると同時に、母語能力を喪失するためである。また、半分以上の時間で共通語を用いて行う外国語教育、内容が言語や文学に限定され、数学、科学、社会などの教科内容を扱わないものは、二言語同時教育には含まれない。
[編集] 二言語同時教育の種類
一般的な二言語同時学習では、かなりの時間を「もう1つの言語」に費やさねばならない。 例えば、全没入法では、幼稚園や小学校1学年の早期段階で90%以上の時間を「もう1つの言語」を使って行い、第3学年~第4学年まで徐々に[共通語の割合を高め半々の割合にする(但し、この課程がより長期的に行われるならば、母語の時間はよりゆっくりと減っていくことになる)。また部分的没入法では、すべての学年を通して半々の割合で二言語同時教育が行われていく。「もう1つの言語」でより多くの授業を行ったほうが、その言語能力における達成を高めるという報告(Howard, Christian, & Genesee, 2003; Lindholm-Leary, 2001; Lindholm-Leary & Howard, in press)、母語学習が支援され、その習得が進めば、学業達成度は高まるという報告(Thomas & Collier, 1997; 2002)がなされてはいるが、どのようなやり方がよりよい結果をもたらすのかは明らかではない。いずれにせよ、アメリカ[テキサス州]]エルパソにあるアリシア・シャコン小学校など、すべての学年の子どもたちに、それほど多くの時間ではないにせよ、第3言語の授業を行う学校も存在する。
全没入法では、幼稚園や小学校1学年で「もう1つの言語」による読み書き指導を行い、2~3学年で共通語の読み書き指導を開始する。子どもたちは英語による読解を再学習する必要はない。教師は、子どもたちが持っている読み書き能力を1つの言語から別の言語へと転移させるための支援を行う。あるいは、子どもを母語によって振り分け、最初の読み書き指導を行い、続く学年で第二言語の読み書きを付け加えるやり方もある。部分的没入法では、すべての生徒に対して、2つの言語の読み書き指導が同時に行われる場合と、子どもの母語で最初の読み書き指導が受けられるように、母語による分割指導が行われる場合がある。
中学校や高校における二言語同時学習では、小学校段階からそれを受けてきた者たちを対象とすることが多く、より大きな主流の学校の課程として設置されている。そこでは、語学講座と少なくと、「もう1つの言語」で学ぶ他の教科を1講座以上が設けられている。生徒の中には、進学のための実力試験(APテスト)を受ける者も多い。
[編集] 参考文献
- Howard, E. R., Christian, D., & Genesee, F. (2003). The development of bilingualism and biliteracy from grade 3 to 5: A summary of findings from the CAL/CREDE study of two-way immersion education (Research Report 13). Santa Cruz, CA and Washington, DC: Center for Research on Education, Diversity & Excellence.
- Lindholm-Leary, K. (2001). Dual Language Education. Clevedon, England: Multilingual Matters.
- Lindholm-Leary, K. J. & Howard, E.R. (in press). Language Development and Academic Achievement in Two-Way Immersion Programs. In T. Fortune and D. Tedick (Eds.), Pathways to Multilingualism. Clevedon: Multilingual Matters.
- Thomas, W. P., & Collier, V. (1997). School effectiveness for language minority students. Washington, DC: National Clearinghouse for Bilingual Education.
- Thomas, W. P., & Collier, V. (2002). A national study of school effectiveness for language minority students' long-term academic achievement: final report. Santa Cruz, CA and Washington, DC: Center for Research on Education, Diversity & Excellence.